52.暁闇
「………ヨム、起きて」
「あぁ、サラか…」
ヨムトイドを小さく揺さぶるようにして起こす。
「今日が大結界を張る日よ」
作戦も大詰めだ。
今日、国民は教会に集まり祈りを捧げている。
警備も聖女の間以外は手薄である。
故にヨムトイドが堂々と動いても大丈夫だろう。
気配を感じ取ったとしても、この国にヨムトイドに敵う奴など初めから居ない。
抵抗する事すら出来はしないまま消えるのだ。
「……純白の聖女はどうなった?」
「地下牢で狂ってるわ。今日は無理矢理引き摺っていくみたい」
「そうか」
「本当、とっても可哀想で笑えるわ」
「……予定通りか?」
珍しく満面の笑みを浮かべた。
それを見てヨムトイドの口角も上がる。
「えぇ、そうね……お陰様で」
「ふむ、我も楽しみたかったのにな」
「闇の宝玉を取り戻したら、この国は好きにして頂戴」
「ああ、詰まらぬな…我も豚共の断末魔を聞きたかった」
「贅沢言わないで」
淡々とヨムドイトに言い放つ。
「プライン、もう私の荷物は要らないわ」
「!!」
「適当に処分しておいて」
「サラ様…!!」
プラインの縋るような視線を無視して、荷物を纏めてから袋に放り込む。
そして聖女の服を身に纏う。
国王は昨晩、アンジェリカの儀式に付き添って欲しいと何食わぬ顔で頼んできたのだ。
きっと上手くいかなかった時のスペアか、足しにでもするつもりなのだろう。
小賢しい国王には最後の最後まで反吐が出る。
「ヨム、昨日話した通りにいくわ。私が合図をしたら頼むわね」
「そう何度も言わなくとも分かっている」
「闇の宝玉を受け取ったら、すぐに城に火を放ち崩して頂戴。一人残らず根絶やしにしたいの」
「あぁ…」
「その後は貴方の自由よ」
「……」
「ヨム……?」
「そうだな」
気が抜けた返事を聞いていると、本当に作戦通りに動いてくれるのか不安になってしまう。
溜息を吐いた。
闇の宝玉を取り戻すまでが契約した部分だ。
宝玉を取り戻した後、ヨムトイドがどう動くかは知らないが、結界が解けたライナス王国を支配しようが、燃やし尽くそうが知った事ではない。
復讐劇も終わりが近づいている。
「プラインは巻き込まれないように、城の外に出ていた方がいいわよ」
「でも、サラ様がっ!」
「………」
「魔王様…ッ」
シーツを羽織っているヨムドイトは見つめたまま動かない。
今日の朝は薬を服用していない為、ヨムドイトの体は徐々に元の大きさに戻りつつある。
大結界の儀に合わせて力を発揮する為には、もう薬は服用しなくてもいいだろうとヨムドイトが言ったのだ。
大結界も弱ってきているからか、ヨムドイトに対する反発も少なくなっているようだ。
とはいっても結界の力は消えていない。
人間になれる薬は無くても、聖女の力で中和はしなくては体は焼き切れてしまうのだという。
「弱まっているとはといえ、やはり居心地はよくないな。我でなければ一歩も動けぬだろうよ」
「平気なの…?」
「あぁ、今この城を沈めることくらい簡単に出来るぞ?粉々には出来ないがな」
「……へぇ、なら良かった」
やはり異世界人であるサラには魔王や女神がどれ程の強い力を持ち、凄い存在なのかは理解出来そうにない。
だからこそ大胆な願いをヨムドイトに押し付ける事も出来たのだが…。
「サラ、早くしろ……体がヒリヒリしてきた」
「ふふ、痩せ我慢?」
「まぁな」
「……」
「多めに寄越せ。でなければ儀式とやらまでに保たない」
「えぇ、分かったわ」
ヨムドイトの伸ばされた手を取る。
急に強く手を引かれて、抱きつくような形になり、余りの強引さに抗議しようと顔を上げた時だった。
「……!!?」
ヨムトイドと唇が重なった瞬間……電撃のようにビリビリとした感覚が体を突き抜ける。
反射的に唇を離そうとするが、ヨムドイトに後頭部を押さえつけてしまう。
体を逃がさないようにと腰に手を回されてしまえば逃げ場はなかった。
「ーーッ!」
あまりの痛みに顔を顰めた。
体の内部を抉られるような感覚に抵抗は強くなる。
それでもヨムドイトは手を離さなかった。
(何かが流れ込んでくる……!)
金色の瞳が妖しく光る。
ヨムトイドの胸を叩くがびくともしなかった。
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