百合の花 ー19ー
A(依已)
第1話
夕飯をごちそうになった彼女に、今晩泊まる民宿を教えてもらった。彼女と家族に深々と礼をいい、別れを告げた。わたしはさっそく、宿へと向かった。
宿は、この町に着いてすぐ見た、あの水路の脇に建ち並ぶ瓦屋根の建物を、改装したものらしかった。
部屋に入った。
入るなり、木製の板張りの壁やゆかの造りのその部屋からは、木のいい匂いがした。
黒っぽい中国風の調度で統一されており、さりげなく置かれた、チャイナ服を連想させる柄の、紫のカバーで覆われたクッションが、よりいっそう、ここは中国であるという雰囲気を醸し出していた。
窓から外を見下ろすと、目の前に、あの水路が、豊かな水を湛え、静かに流れている。
ひと目でこの宿が気にいったわたしは、すぐさまベッドに飛び乗った。ふかふかの柔らかなシーツは、とても心地よく、今日見た雲海の雲を思い起こさせた。そして仰向けになり、両手を広げ、思いっきりのびをした。
こうして横になり休んでみると、今日一日、歩き疲れてクタクタのはずなのに、わたしの体は、不思議なことに思いの外軽く、少しもへたってやしないのである。
昨日までの、わたしを思った。今日こうして、見知らぬ土地をひとりで旅しているのだということに、自分でもとても驚いた。
「そうだ!」
わたしはふと、百合の花を思い出した。そして、胸元のクロスのチャームを握りしめ、目をそっと閉じ祈った。
"無事旅の一日目が、終了しました。ありがとうございます"と。
明日が来るのを、楽しみに寝た。こんな日がやって来るとは、昨日まで想像もしていなかった。
百合の花 ー19ー A(依已) @yuka-aei
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