駄女神様に願いごと

さいはて旅行社

第1話 死後の世界へようこそ?

 丸い光の玉になって浮かんでいた。


 周りを見渡してみても、どこまでも暗い。

 玉には目らしきものは存在していない。暗さも感覚でなんとなくわかるという感じだ。


 とりあえずお散歩気分で、彷徨ってみた。

 上なのか、下なのか、前なのか、後ろなのか、

 さっぱりわからないが、ここに留まっていても迎えは来ないようだ。



 適当に暗闇をぶらつく。



 時間がたつにつれ、私は私のことを思い出してきた。

 私は昔からこのような姿だったわけではない。


 都内で颯爽とバリバリ働く熱血キャリアウーマンだった、ら良かったなぁ。それなら堂々と自己紹介できたんだけど。


 都内で働いていたのは事実だが、他にやることもないから働き続けただけだ。他人からの私の仕事の評価は可もなく不可もなく。特に取り立てて褒めることもしなければ、大きな失敗もしない。

 趣味も特になかった。友人も多くなく、一緒に遊ぶのも年に数える程度。

 容姿も肩にかかるぐらいの長さの黒髪に、平凡な顔、高いとは言えない中途半端なぐらいの身長、ややぽっちゃり。

 もうそろそろ三十歳に手が届くところだった。



 何でここにいるのだろう。



 仕事はいつもならそこまで忙しくならない。定時で帰れることも少なくない職場で、仕事が無理なく続けられるという点で私は気に入っていた。


 だが、しかし。

 その日は朝から戦場だった。

 どうも会社の上に座っている人間の一人がやらかしたらしい。

 私たちは広報を担当している部署に協力して事後処理に追われたのだ。


 帰りは終電になってしまった。

 急がなくとも余裕で間に合うが、乗り遅れると悲惨なので早めにホームへ向かう。

 上司や同僚のなかには会社に泊まるか、タクシー帰りになる者もいる。それを思えばまだ良い方だ。明日も休日出勤しなければいけないし、落ち着くまではこのような状態が続くかもしれない。

 ため息が漏れる。


 ホームには人が大量に溢れていた。


 これ、終電に全員乗るのぉ?

 朝の満員電車並みになるんじゃない?


 終電に乗るのが久々過ぎて、金曜の夜に繰り広げられる終電の混雑をすっかり忘れていた。

 ホームには会社帰りと思われる素面のように見える人たちも多い。けれど、飲み会の帰りなのか酔っているのだろう、周りの迷惑顧みずに大声を上げている集団もいる。

 そのなかで一際目立つのがホームの真ん中を陣取り、通行の邪魔をしていた学生の集団だった。

 彼らは陽気だった。はしゃいでいた。


 若いな、と横目で見つつ、キミらもいつか私のような疲れた目をして帰る未来が待っているんだよー、と心のなかで声援を送った。

 ホームの黄色い線の外側から行かないと、その先に行けなかった。


 そのとき。


 はしゃいだ男子学生が後ろに下がった拍子に、その体がスーツのくたびれたオジサンにぶつかった。

 そのオジサンはホームの黄色い線の内側から、外に追い出された。



 その先には。

 私がいた。



 私はホームから転落した。

 気づいたら、電車が目の前にいた。



 ああ、そうだ。

 私は電車にはねられたのだ。

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