第64話 朝日がのぼる時

 魔族は去ったと言っても、金のにおいがすれば盗賊は自然と寄ってくる。おれが国王陛下からたんまり金をもらったことなんざ、夜の間に知れ渡り、ちょっとした賞金首みたいなもんよ。


 こうなると、カレンたちがいっしょで本当によかった。おれなんて丸腰だからな。


 ちなみに、ミミーの日傘はどういうわけか、まだ武器として残っている。これもきっと、母の愛ってやつなんだろうな。だってマリンの能力は以前とおなじ程度まで落ちてしまったんだからな。


 闇にまぎれて盗賊に襲われること数回、そろそろあいつが出てきそうな気配があった。


 そう、おれの首を切り落とす、にやけ顔のユキヒロだ。だが、あいつは盗賊と刺し違えて死に、今は冷たい土の中にいる。


 なのに、期待だかなんだかわからない高揚感がおれを取り巻いて離れない。


 あいつ、ひょっとしたら生きてたりして。


「地獄の業火で焼き尽くせっ!! ヘル・ボーン!!」


 相変わらずマリン様様なおれたちは、大賢者ワッシャンの知識のもと、呪いを解ける古代竜がいるという谷へと向かって進んでいた。


 ちなみにここまで、城からの追っ手は来ていない。と、すると。今ここでおれが捕まったとしたら、国王陛下およびその姫様を誘拐した罪で極刑ということも充分ありえる。


 やべぇ。なんだかややこしいことになってきた。


 とは言うものの、捕まえられたところでミミーがおれを裏切るはずがない。ワッシャンはどうだか知らないけどな。


「なぁ、ミミー」

「好き。マローンのことが大好き」


 口を開けば、壊れたテープレコーダーのように繰り返すミミーは、かわいいんだが、ちょっと厄介だ。なにしろその想いにおれがこたえてやることはできないからだ。


「だからな、ミミー。何回も言うように、おれはたしかに前世でおまえさんを助けた。ただそれだけのことだよ?」

「それだけじゃないわ。命をかけてあたしを助けてくれたもの。そんなこと、簡単にはできないわ」

「じゃあまぁ、それは一旦脇に置いておいて。実はそれって単なるすりこみ効果なんだよ。窮地にあって、おれが助けた。それだけで好きだと勘違いしちまうんだ」

「勘違いでもなんでも、好きは好きだわ」


 あー、頭が痛い。始終この調子で、カレンににらまれている。そうだよな。普通に考えれば、カレンとミミーで丸くおさまるんだよ。そこにおれの入る余地なんて、あるはずがないんだ。それなのに、ああそれなのに。


 朝日がきれいにのぼってきた。さーて、今日も始まるんだな。徹夜かよ。


 つづく


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