第63話 身軽

 夜の城をひとり飛び出したおれは、あてどもなくさまよい歩いた。今のおれは魔剣のひとつも持たない弱小ヒーラーだ。


 靴底に国王陛下から頂戴した口座番号をしたためて、足早に森を抜けようとした。


 だが、背後に気配を感じて振り向くも、見知った顔を認めて、はりつめていた息を吐き出した。


「なんでいるのさ?」


 マリンとジョージは、にやにやしながら近づいてくる。


「マローンには、ぼくの宝石が必要だろうと思ってね」

「悪いがジョージ。おまえはもう、宝石を出せないと思うぜ?」


 おれが言うと、ジョージはあわてて以前のように皮袋をのぞきこんで、宝石を取り出そうとするが、チリひとつ出てこない。


「そんなぁ」

「それならあなたも、もうアクセサリーを前のようには作れないって言うことかしら?」

「残念ながらな」


 おれが答えると、それでもまだ余裕の笑顔でマリンが袋の中から大量のアクセサリーを取り出した。


「まぁいいわ。女神様のものか、ミミーのものだか知らないけれど、大量にせしめてきたから」

「手グセの悪いやつだなぁ」


 おれがあきれていると、背後から馬の足音が聞こえてきた。


「カレン? おまえ、なんでさ? 衛兵にいろって言われて――? ミミーっ!?」


 以前のような白馬ではなく、茶色の馬だったけれど、おどろいたことに、ミミーがいっしょだった。


「国王陛下から大金を振り込まれたのだから、護衛が必要だろう?」


 悪びれもせずカレンが言った。だがミミーはダメだ。


「えへっ。来ちゃった」

「えへって、おいっ!?」

「わしもおるぞ」


 ワッシャンまでっ!? 一体どうして!?


「国王陛下が城を抜け出してはいけないではありませんか!?」

「そなたまでその口のききようをする。わたしはこれまでとおなじように、ワッシャンのままの扱いで十分じゃ。そもそもわたしは、ただのイヌワシなどではないわいっ」


 どうやら、その口調から、衛兵などに陰口を叩かれてしまったようだ。まったく、国王陛下の悪口を言うだなんて、おそろしい。でも、相手はイヌワシだからな。話を聞かれているとは知らず、油断していたのだろう。


「このままではわたしの威厳が保てんっ。さっさと呪いを解く方法を探し出すぞ!!」


 あらまぁ。身軽に出てきたはずなのに。こりゃまたにぎやかになっちまったな。


 つづく

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