第40話 目覚めって、え?
ヒロユキをそのまま寝かせるのはあまりにも不安だった。裏切り、そしておれへの夜這いの心配もある。人生でモテ期っていうのがあるらしいのだけど、なんでよりにもよって裏切りごますり男のヒロユキにモテるかなぁ。
ってなわけで、寝起きの悪いジョージをわざと一回起こして、ヒロユキをぐるぐる巻きに縛ってもらって、ようやく安心ができた。ヒロユキもこの方が、なんか安心するとか寝言で言っている。
……たのむから、そっちの趣味に目覚めないでくれよ? これ以上ややこしいのは勘弁してくれな。
翌朝。身の危険を避けるため、だれよりも早く目を覚ます。で、やってきました、四十肩。
「くぅーっ!!」
そんな謎の擬音が口をつくほど痛い。毎朝この調子。でも、ミミーのおかげで助かってる。身支度を整えて、護身用のロープの中でうごめいているヒロユキを解放してやる。
「おれ、先に行ってるから、ジョージ起こしておいて」
そう、これはヒロユキへの罠だった。あれほどしつこく盗賊をたきつけてきたんだ。これくらいの罰は受けてもらってもいいだろう?
食堂で痛みにたえつつ、アクセサリー作りにはげんでいると、ミミーたちがあらわれた。さすがに三人とも、朝からさわやかなんだよな。
「おはよ、マローン。えっと、栗山さん、だったっけ?」
「マローンでいいよ。ミミー、今日もお願いしてもいいか?」
「もちろんだよ。ヒール!!」
肩から痛みがすーっとひいてゆく。ありがたい。おなじヒーラーだっていうのに、おれは自分の四十肩を治すことができない。どういうわけか、四十肩だけは治すことができないのだ。本当になさけないし、ミミーにすまないと思っている。
「ありがとう、ミミー。ラクになったわ」
「えっへへ。よかったぁ。あ、それはなぁに?」
目ざとくおれの手元をのぞき込んだミミーは、猫耳をぴこぴこさせた。
「これか? これは、初心に帰って、繊細なネックレスを作ろうと思ってな」
小ぶりだけれど、チェーン状に編んである。ワイヤーはうつくしく、尊い。
「あらぁ、素敵じゃない」
アクセサリーには目のないマリンがさっそく食いついた。
「売り物だぞ? そんな目で見ないでやってくれよ」
「そうそう、栗山ちゃんはおれ様のモノ、だからさ」
肩を抱かれてぞわっと悪寒が走る。
「てめっ、ヒロユキっ!?」
「そうか、昨夜なにか秘密裏におこなわれたことがあったようだな」
すかさず察して離れてゆくカレン。ちがうんだ。これも誤解だぞ?
「嫌だわ。それじゃあ、ジョージが寝ている隙にってことかしら?」
それも語弊があるぞ、マリンっ。
ジョージもぼへっと寝ぼけてないで、なにか言えって。
「なんでだろう? おれ、ゆうべのこと全然おぼえてないんだよね」
火に油を注ぐな、ジョージっ!!
「じゃあ、おれたち、みなさん公認の仲ってわけで」
「わけでじゃねぇよっ!!」
「あのっ!!」
おずおずと進み出るミミーは、顔が真っ赤だ。
「あの、マローンとヒロユキは、そのっ、そういう関係、になっちゃったの?」
「だから、ちがうんだって。みんなでおもしろがってるだけだから」
「そうだよ、ミミーちゃん。おれ様がこんなくたびれたおっさんを相手にするわけないじゃん? 朝っぱらからジョージの洗礼を受けたから、ちょっとした嫌がらせだよ、嫌がらせ」
そんな汚れた夜の顔でミミーに話しかけないでくれっ。まだゆうべの酒が抜けてないんじゃないか? ほら、案の定、ミミーが戸惑ってるじゃないか。
「えっ? あ、そうなの? マローン?」
真剣に確認しないでくれ、めずらしくその男が言っていることにまちがいはない。
「本当だ。この世界でのおれは、多分一生独身を貫くだろうぜ」
「独身?」
消え入りそうなミミーの声が不安げに感じて、おれは思わずおどけてみせた。
「なんてな。ほら、ミミー。おれはだれのものでもない。今日もよろしくたのむな」
「独身……」
何度もつぶやくミミーは、おれの言葉なんて耳に入っていない様子だ。一体どうしちまったんだ?
つづく
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