第41話 チェーン状のアクセサリーの売値はっ!?

 そして朝から赤ら顔のドリーが、今日もご機嫌な様子でやってきた。


「うぃーっす!!」


 調子に乗ったヒロユキが、自分の友達みたいにドリーとあいさつを交わす。って本当にこいつチャラいな。だが、ドリーもまんざらでもないような調子でヒロユキとあいさつを交わす。さては酔っ払い同士、意気投合したか?


「ドリーのおやっさん。今日はこれなんですがねぇ」


 ちょっと待った。マリンに仕切られるのはわかる。見る目があるからな。だがヒロユキ、おまえはだめだ。しかも、ドリーのおやっさんなんて気安く言うな。


 おれの気持ちとは裏腹に、繊細なチェーン状のネックレスを査定するドリー。この段階で口を閉じたままのマリンだが、言い値が安かったら口を出してくれるだろう。


 なにしろこの作品は、隙を見てコツコツ作ったものだ。見た目は地味だが愛着がある。


「ほう? これを、マローンが作ったのかい?」

「ああ。おれなんかが作ったって、言わないでくれよな? 売値が下がるかもしれない」


 ふいに思い出すのは、前世での記憶。それまでは順調に売れていたワイヤーアクセサリーが、心無い一言であっさり売れなくなった。


「おっさんが作ったってわかったら、気味悪がられるかもしれないからな」

「あれ? ひょっとして、前世の記憶、引きずってる?」


 おや? おれ、一言でもそのことをヒロユキに話しただろうか? ない、断じてない。と、すると。


「もしかして、前世でコメント欄におっさんが作ってるって書いたの、おまえだったのか?」

「もしかしなくても。おれしかいないじゃん?」


 やっぱりか。おまえはどうしてそこまでおれに執着するんだ? おまえほど気の利く男なら、どんな人だってよりどりみどりじゃないかよ?


「だって、しょうがないじゃん。前世から栗山ちゃんへの想いをこじらせたままなんだから。あ、そーだ。どうせなら、一回だけ――」

「自主規制だっ!! おまえなんか、全文モザイクかけてやるっ」

「それをわざわざ文字起こししようという、酔狂な人間がいるのもまた事実。どうよ? おれ、前世から栗山ちゃんのことを邪魔しまくってやったぜ」

「なんか頭がくらくらしてきた。すみません、水をください」


 喉が渇いたおれは、宿主に断って、水を口にする。渇いた喉が潤う。


「へぇー? あんたら、相当仲良しなんだな? ヒロユキとは飲み仲間になったから、このネックレス、奮発して金貨三枚でどうだ?」

「ああら? それだけ手の込んだ作品にたった金貨三枚しか払ってくださらないの? 知っているでしょう? あたしたち、おとといの夜、盗賊におそわれたって」

「それは、ヒロユキが盗賊をそそのかしたからだって聞いたが?」

「それでよ。部屋を荒らされたから、宿に金貨三枚払ったばかりなの。おかげでゆうべはおそろしくて眠れなかったわ」


 マリンはわざとらしくしなを作った。女の武器というか、あざとい手を使うつもりだろうか?


「ねぇ、少しでいいから、これに上乗せしてくれない? あたし、このまま貧しい旅をつづけるのなんて、心細いわ」


 わざとらしく目を細めるマリンに、これまたいやらしく鼻の下を伸ばすドリー。結構簡単に落とせそうか?


「そうだよなぁ。嬢ちゃんたち、べっぴんさんだし、金もかかるよなぁ。ヒロユキは飲んべえだしな。わっはっはっ」


 豪快に笑いながら、出っ張った腹を三回叩くドリー。


「よし、奮発して金貨五枚でどうだ?」

「まいどありー」


 語尾にハートマークがつきそうなほどの上機嫌でマリンはおれの渾身の作を簡単に売り渡すのだった。


 つづく





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