第36話 迷惑な好意
ヒロユキに殺したいほど好かれてるっていうことがわかったものの、いっしょに魔王城へ行こうだなんてそんな都合のいい言葉を信じるもんか。こいつは前世で取引先にワイロを贈るような男だったんだぜ。
前世ではおれのクビを、今世ではこの首をはねるようなことまでしてくれた。
それでもな、やっぱりおれは、おまえを信用できない。みんなも信用できないと言っているんだ。いっそ、木に吊るしたまま立ち去ろうともしたさ。時間も食っちまったからな。だがな、それでもミミーがやっぱりかわいそう、なんて仏心を見せるから、おれもそうかな? なんて考え始めてる。
「ちなみに。前世でおれの妻と不倫してたやつと同一人物ってことはないよな?」
「あ、それは思い出せたんだ?」
「やっぱり、おまえかぁっ!!」
「しょーがないじゃん。栗山ちゃんのこと好きだったんだから。手に入れようと思ったら、奥さんからたらしこむしかないじゃん」
「おまえはおれのトラウマをわざわざ掘り起こすなっ!!」
やっぱり不倫男はヒロユキだったかぁ。しかし、こうも前世でおれにからんでおきながら、名前すら出てこないというキャラの薄さよ。
「じゃあおまえは、野生動物のメシにでもなっていればいい。その方がまだ世の中の役に立つってもんだ」
もうかばう必要はないと、おれはヒロユキに背を向けた。めざせ、魔王城よっ!! おれにつづけとばかりに、みんなが後をついてくる。その背中に、ヒロユキの悲鳴に近い声がかぶさってきた。
「待ってくれよっ。おれといっしょだと便利だぜ? 盗賊に場所を教えなくなるしさ。ほら、おれってかしこいから」
「ずるがしこい、のまちがいだろう?」
「そうとも言う。けど、敵を手中に収めておいた方が、気楽なんじゃね?」
自分でそれを言うのか。もう、いいかげん先に進みたいんだ。このまま暗くなったら、それこそ盗賊のいいエサになっちまう。
「今日も宿屋に泊まるんだろ? でも、ドリーのおっさんとケンカしちゃったから、宿屋には泊まれないと思うぜ?」
ふいにかけられた言葉で、反射的に後ろを向く。
「それは一体、どういうことだ?」
「なんてことないさ。ドリーはこの地域の、いわば地主みたいな存在だから、みんなドリーには逆らえないんだ」
ヒロユキの爆弾発言に、おれは息を飲み込んだ。勘違いとはいえ、おれたちはなんてやつにケンカを売っちまったんだっ。
つづく
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