第27話 ドリーという宝石商
宿屋に着くと、もうドリーが一杯ひっかけて赤ら顔で待っていた。
「マローンは今日は酒を禁止する。理由はわかっているのだろうな?」
「はい、カレン。おれはミミーを泣かせちまいました。どうもすみません!! みんなも、変な空気にしてしまってすみませんでしたっ!!」
「あやまるのなら、ミミーにあやまりたまえよ。何百回あやまっても、あやまりきれないくらいのことをしたのだからさ」
一度言葉につまるも、でも、どうしてあのタイミングでミミーが泣いたのかわからなくて。あ、やっぱり無理をしておれのことを好きだと言ってくれたんだろうか? だとしたら相当気持ちが悪かったんだろうな。本気でもうしわけない。
「ごめんなさい、ミミー」
一度鼻をすすってから、かわいたアーモンド型の瞳がふたたび潤みはじめる。
「もう、また泣かせちゃったじゃないのっ!!」
ワッシャンはカレンの愛馬と納屋にいるため、今度はマリンにげんこつをくらった。目の前に星が散る。
「あいかわらずたのしそうにやってるなぁ」
「ドリー。あんた、見てたのしんでたのかよ?」
ドリーはでっぷりと張り出した腹をぱふんと叩いた。
「っていうか、あなたはどういうお立場の方なのでしょうか?」
天界でおれのアクセサリーが流行中とのこと。まだそんなに数は作っていないはずなのに、じゃあ、そのほとんどが天界にあるのだとしたら、ドリーって一体何者なんだろう?
わからない。今日はわからないことが多すぎる。
「まぁ、そう詮索してくれるな。いずれあきらかになるさ」
そう言うと、ドリーはおれとマリンをいざなった。ようやくイスに座れるー、と思ったのもつかの間。今度はマリンにイスを引ったくられる。
「ミミーを泣かせた罰よ。しばらく座ることはゆるさないわ」
「おい、マローン。おまえさん一体、なにをやらかしたんだ」
「それは、言えません」
妙にしおらしくなるおれに、とりあえず今日作った分のアクセサリーを見せろと要求するドリー。さすが宝石商。いや、今はただの宝石商でいいか。色々と詮索されたら、おれも都合が悪いことがあるからな。
と、言うことで皮袋を取り出すと、アクセサリーを出す前にマリンに止められてしまった。おいおい、今度はなんだよ?
「石の種類が増えているの。そちらも相当の金額を支払ってもらうことになるでしょうけど?」
大丈夫かしら? と言わんばかりの笑みを浮かべるマリンに、ドリーはほいきたとばかりに腹を叩く。
「いいさ。こっちも買い手が見つかってほくほくの状態だ。言い値で買うよ」
「そう? なら、いいわ」
そう言うとマリンは、おれの手から皮袋をひったくると、絹のハンカチの上におれが作ったアクセサリーを並べる。そのうつくしさに、おもわずほうっとため息が出たのをおれは見逃さない。
「どう?」
「ほう? アクアマリンにアマゾナイト、ローズクォーツもあるのか。これは、お嬢様方に人気が出そうだな」
ドリーが言うところのお嬢さんがどんな方々なのかは想像しておくにとどめておこう。ともかく、カードはそろった。そしておれは石の名前をひとつも知らない。おそらくジョージも知らないだろう。
「言い値で買うとしよう。ついでに、宿屋の割引券もサービスしよう」
「あらぁ。ありがとうー!!」
これにはマリンも大満足だ。針のむしろの上でコツコツアクセサリーを作っていた甲斐があったというもんだ。
こうしておれは、食事も抜きという罰をあたえられて、空腹をまぎらわせるためにまたアクセサリーを作るのだった。
つづく
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