第20話 剣の稽古

 そんわなけで、ドリーとの契約を交わしたおれたちは、事前に泊まる宿屋を教えることに決めた。


 ところが、そのせいで後でカレンにどやしつけられることになった。


「マローンは警戒心がないのかい? もしあのドリーという男が計画的にぼくたちをおそってきたらどうするんだい? 魔族が若い女性をさらう事案も聞いたことがあるだろう?」

「そ、それはそのっ。わかりました。ミミーを守るためにも、これからジョージに剣の稽古をつけてもらおうかと思いますです」


 たしかにそうだ。宿屋をめぐるたびにミミーを危険な目にあわせてしまったらと思うと今から胸が痛む。が、当のジョージはけろっとしたもので、ならいつでも稽古するよとにこにこしている。


「それに、もう少しねばれば市場の四倍の値段で買い取ってくれたはずだわ」


 マリンの冷静な指摘にはっとなるも、時すでに遅し。ドリーの姿はもうどこにもなかったのだった。


「まったく。戦闘で役に立たないどころか、商売のコツも知らずに取引するだなんて。これから取引は、このあたしにまかせてちょうだい」

「おっしゃる通り、おまかせしますです」


 もうマリンに平伏するしかない。で、食後しばらく休んでからはジョージに剣の稽古をつけてもらう。これがもうスパルタなんだわ。


「ほら、マローン、もっと腰を落として。前傾姿勢を忘れないで」


 いつもぽやっとしているジョージだが、稽古となると人が変わったように饒舌になる。もちろん手も出す。


「隙ありっ!!」

「ぐあっ。腹は、食後に腹はやめてくれぃ」


 なさけない声をあげつつ、自分でヒールの魔法をかける。こりゃまたまぬけな姿だ。裏庭で稽古にはげんでいた見ず知らずの連中にも爆笑される。


「すかさず隙ありっ!!!」

「げぇっ。舌噛んだ」


 今度は頭に直撃かよ。木刀だからよかったものの、これが真剣だったら死んでいたぞ。まぁ、三秒ルールで生き返れそうな予感もするがな。


「ちょい待ち。ジョージ、少しは手加減してくれよ?」

「なさけないこと言わないでよ、マローン。これからは、あなたが作るアクセサリーをねらって盗賊におそわれるかもしれない。その時おれは、マリンしか守らないからね。カレンはきっとミミーを守るし。だから、自分の身は自分で守るしかないんだよ!?」


 あちゃー。まさかの読みの浅さに、自分がなさけなくなってくる。そうだ、盗賊は金目のものが好きだから、おれのアクセサリーのことは宿屋で見聞きした連中が吹聴する可能性がある。その時、一番最初に狙われるのはきっとミミーだ。そんならおれ、別行動しようか?


 だが、それもまた浅はかすぎて、ジョージに見破られてしまう。


「おれたちから離れていたって、連中はミミーをねらうさ。だってミミーは――」

「なんの話をしているの?」


 優雅にお茶を飲んでいるはずのミミーたちが突然、乱入してきた。


「ああ、ジョージがミミーが盗賊にねらわれるって話をしていたんだ。で? なんでなんだ?」

「あのっ。そうだ、あたしが猫耳だからだよ。獣人族って、人数が少ないから、見世物にされちゃうこともあるんだ」

「へぇー? そうなんだ。大変だなぁ。じゃあ、おれもっとジョージに稽古つけてもらって強くならなくちゃな。いくらこの剣がすげぇからって、使うおれがへっぽこじゃ、しょうがないからな」

「うんっ!! マローンがんばってっ!!」

「うおっしゃあっ!!」


 しかしまぁ、なんだな。そこまでしてミミーはいったいなにをかくしているのかな? そろそろ鈍いおれでも気づき始めているんだが。いや、しかしまだはっきりしたことじゃないんだし、今はなにも言うまい。


 つづく

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