第10話 覚悟を決めろっ!!

 裏庭は、ほのかに明かりが差していた。その狭い庭のあちこちで、冒険者たちが鍛錬している姿がうかがえる。みんな真面目だな。と言っても、魔王城に乗り込むのならばやはり命がけだ。鍛錬に力が入るのはあたりまえか。むしろここまでヒールの力のみで乗り込んだおれは無謀なんだろうな。


 首が後ろ前のおれと、美女三人、それにイヌワシのワッシャンをしたがえているおれたちは目立ってしまって、なんだか避けられてるみたいだ。


 ワッシャンは大賢者なので、事の成り行きを見守りたいと言うことで、連れてきた。どうやら大賢者様は夜目もきくらしい。


「おいおい、こんな場所でいちゃいちゃすんなよな?」

「おじょーちゃーん。そんなむさくるしいおっさんなんか捨てて、おれたちのところに来ないー?」


 そんな野次も、三人の美女はまったく気にしていなかった。なんという気高さだろう。おれは心から感心した。


 宿主にランタンを借りてきたので、あかりは十分だ。


 適当な広さのあるところまで移動すると、カレンがランタンを手に取った。


 ミミーはヒールの準備を、マリンは浄化の準備をしている。


 そういやおれ、ヒロユキに首斬られたまま、着替えてないから、甲冑が血まみれなんだよな。まぁ、しょうがないか。


「じゃ、いくけど。前からがいい? 後ろからがいい?」


 重々しくジョージが剣を構えると、修練にはげんでいた者たちがざわめき始める。


「なんだ、なんだ? 仲間割れか?」

「女の取り合いとか? まさかな、あのおっさんじゃあーな」


 がははと笑う男たちを無視して、おれは腹に力を込めた。


「背中側から斬ってくれたら、頭を受け止められると思うんで、それでお願いしたい」

「もし万が一の時にはわたしがそなたの首を受け止めよう」


 ワッシャンのありがたい申し出に、小さくうなずく。ここでデュラハンになってしまっては身も蓋もないんで、慎重にいきたい。


 おれが言うと、ジョージはわかったと息を吸った。


「三、二、一、でバサッといくよ? オーケー?」

「オーケー。オーケー」


 覚悟を決めたおれに、剣を構えるジョージ


「いくぜっ。三、二、一っ!!」


 ズドンと衝撃が首に走る。やばい。二回目とはいえ、これはかなり痛いやつだ。


「ヒールっ!!」


 ミミーの魔法で首の血が止まる。おれはあわてて首をおさえると、後ろ前をきちんと確認して首をつけた。


「ヒールっ!!!」


 もう一度、ミミーがヒールをかけてくれると、痛みがふわっと軽くなる。


「すべての汚れを浄化!!」


 カレンのおかげで血が消えていった。


「おおー。元に戻った」


 野次馬が騒いでるおかげで、首が元に戻ったのだと確信した。


「どうだ?」


 自分の顔を手でまさぐりながら、おれはみんなに聞いた。


「はい、マローン。よくがんばりました」


 ミミーがやさしく、鏡を見せてくれる。おおっ、ブサイクなことに変わりはないが、これこそおれだ。元に戻ったぁーっ!!


「やったぁーっ!! みんなありがとぉーっ!!」


 ロックシンガーさながらに、おれは叫んでいた。とっても窮屈だった一日が、こうしておわりを告げていた。


 おれは、酔っていたのも手伝って、そのままばたりと眠りに落ちた。


 完全に眠ってしまう前に、マリンの声が聞こえる。


「ねぇ、ミミーってやっぱり本当は――?」


 本当はなんなんだ?


 つづく

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