第十三話 暗闇と光

朝美がドアを開こうとする直前――菊花はスマートフォンを取り出し、山吹から教えられたアプリケイションを開き、アイコンを押した。


その瞬間、部屋が真っ暗になった。部屋ばかりではない――寮の明かりが全て消えたのだ。


暗闇の中、ドアノブが止まる。


「あら――停電ですか?」


そのとおりだ。かつて山吹が寮の電気を消した方法と同じである。万が一に備え、スマートフォンから明かりを消すことができるよう山吹が細工してくれたのだ。


一冴へと耳打ちをする。


「いちごちゃん、ベッドの中に入って――!」


素早く一冴はベッドへ駆け寄り、布団を被った。


少ししたあと、朝美はドアを開く。


「上原さん――大丈夫なんですか?」


暗闇の中、一冴は応える。


「いえ――何とか。」


注意を惹くように菊花は口を開く。


「あの――いちごちゃん、生理が重くて、あんま動けないんですって。」


「東條さん? いたんですか。」


私もいますよ――と紅子も言った。


菊花は続ける。


「だから、私たち様子を見に来てたんです。それで、ご飯はちゃんと食べれたようですし、お薬も呑んだみたいなんで、あとは安静にしておけば大丈夫だと思います。」


「あら――そうですか。」


紅子が尋ねる。


「ところで――先生、停電ですか?」


「そう――みたいですね。」


「ブレーカーが落ちたんですかね?」


「さあ――ちょっとそれは様子を見てみないと分かりませんが。」


そして、一冴へ向けて朝美は言った。


「じゃあ――上原さん? とりあえず私はこれで失礼しますが、くれぐれも安静にしておいてくださいね?」


「はい。」


それではと言い、朝美は部屋から出てゆく。


私も見てきます――と言い、紅子も部屋から出て行った。


二人が出て行ったあと、一冴はベッドから出た。


「心臓が止まるかと思った。」


「私も。」


ドアが再び開いた。


朝美が戻って来たかと思って、再び肝が冷える。


暗闇の中、梨恵の声が聞こえた。


「大丈夫だった?」


「うん。」一冴はうなづく。「何とか。」


菊花のスマートフォンが鳴ったのはそのときだ。

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