第二話 草木も眠る

自分だけ帰宅していた菊花が寮へ帰ってきたのは、その日の夕方のことである。


連休中、食事や掃除の当番は停止されていた。再開されるのは末日からだ。ゆえに、六日の門限までに寮生は帰らなければならないと定められていた。


その夜ふけのこと。


ベッドに入っても、菊花は寝つけなかった。翌朝から学校が始まるので、早く眠らなければならない。それなのに、どうしても目が冴えてしまう。まぶたを閉じると、眠りに落ちそうにはなる。だが、どうしても眠れない。


そうして、一時間ほど経ったころのことだ。


まぶたを閉じ、浅い眠りに落ちようとした。


ふっと、温かい感触がして目を覚ます。


目の前に女の顔があった。


心臓が止まりかかる。


よく見てみると、それは蘭であった。同じ布団に入って、菊花に覆い被さっている。妙なぬくもりは蘭の体温だったのだ。


「あら、菊花ちゃん、目を覚ましましたの?」


可愛らしい声と共に蘭はほほえむ。


あまりのことに、すぐには言葉は出なかった。


「あ――な、な、な――」


「いえ、ちょっと添ひ寝に参りましたの。菊花ちゃんがお厭でなければ、夜這ひでも構ひませんが。」


「よ――よ――よば――?」


「えゝ、連休中は会へなくて寂しかったのですよ。わたくしは菊花ちゃんと仲良くしたいのに。どうせ一つ屋根の下で暮らしてゐるのなら、お互ひに身体を温め合ひませんか?」


「は――は――はぁ?」


「大丈夫です。紅子さんならばぐっすりと眠っていらっしゃいますわ。」


蘭は、菊花の寝間着のぼたんを外し始める。


細い指によって、一つ、二つと胸元が開いてゆく。


菊花は絶叫した。


「厭アアアアアアァァァァッ!」


その声は寮全体へと響き渡った。


目を覚ました寮生たちが、次々と部屋の明かりを点けだす。


素早く蘭は窓から逃げ出した。


そして蜘蛛のように壁を這い、二階の自室へ帰って行ったのである。

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