第十一話 順応性の違い
菊花は悶々としていた。釈然としない思いでいっぱいだった。
その日の一時間目と二時間目は試験の続きだった。三時限目はホームルームだ。
ホームルームが始まる。委員会を決めましょうと担任は言った。そして、委員会の種類と職務について紹介し、それぞれの委員会について立候補者はないかと順次訊いてゆく。
菊花は一冴へ目をやった。
伸ばされた背筋――。スカートの
「えー、次に、図書委員、なりたい人は?」
はい――と、控えめな声で、しとやかに一冴が手を挙げる。
「上原さん、図書委員ですか? 経験はありますか?」
「はい、中学のときに。」
完全に女子だ――外見も、仕草も、声も。
一年前までは髪の短い男子だったのに。
しかも「美少女」だ。それが少年だと認識すると混乱する。女子トイレで顔を合わせたときがそうだ。女子校へ通う以上、そのような事態が起こるのは当然だが、菊花は何も考えていかった。
自分はまだ初恋を経験していない――はずだ。
ここは女子校である。好きになる人はいない。
そこに男子がいる。何しろ自分が入れたのだ。
無理やり女子校へ入れて、あとは
まさかとは思うが――女装した男が自分は好きだったのか。
「東條さん? ――東條さん!」
担任のその言葉で、菊花は我に返る。
「あ、はい?」
「委員を決めてないの、もう東條さんだけになりましたよ?」
恥ずかしくなった。どれだけ自分はぼうっとしていたのだろう。
「そうですか。—―何が残ってますか?」
「体育委員です。」
授業が終わる。
昼休憩――昼食を終えたあと、体育委員は教師から呼び出された。来月に行なわれる球技大会のことで打ち合わせがあるのだ。体育委員をやりたがる人が少なかったのはこのためである。
打ち合わせは教室棟の会議室で行われた。
決めることは意外と多く、なかなか終わらない。
菊花は苛々してきた。
午後からは――身体検査があるのだ。
授業が始まるまでに、生徒たちは体操着に着替えなければならない。下手したら一冴と一緒に着替えることとなる。それだけは厭だ――何としても避けなければならない。
――でなきゃトイレで着替えるとか?
いや、変人がられるに違いない。
結局、打ち合わせは昼休憩の大半を食い潰した。
菊花は急いで教室へ帰る。
教室へ這入った。
一冴の姿はない。もたもたしているのは性分ではない。
一冴が来る前に――と思い、セーラー服を菊花は脱ぐ。
教室の扉が開いたのはそのときだ。
這入って来たのは、運悪く一冴と梨恵だった。
心臓が縮み上がる。
しかもその瞬間、一冴と目が合った。
咄嗟に一冴は顔を逸らす。
セーラー服の下に着ていたのはキャミソールだ。別に胸元を見られたわけではない。
しかし、下着姿をもろに見られた。
梨恵は首をかしげる。
「あれ、菊花ちゃん、先に来てたんだ。」
「あ――うん、まあ。」
急いで菊花は体操着を着る。
「どしたん、一体?」
「あ――いや――別。」
顔を逸らしたまま、一冴は上着を脱ぐ。
下には体操着を既に着ていた。
――あっ。
梨恵が声をかける。
「いちごちゃん、もう着替えとったんだ?」
「うん。まだ寒いから。」
「ああ、寒がりだかあ。」
自分もそうするべきだった――と今さら思った。
しかし、暑くなってきたらどうなるのだろう。
一冴は手早く着替え終える。そして、やや恥ずかしそうな顔となった。
「じゃあ――ちょっと私、お手洗い行ってくるから。」
「うん、行っトイレ。」
そそくさと一冴は教室から出た。
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