第七話 入学式

入学式の時間となり、体育館へ移動した。


ずらりと竝んだ新入生の中に一冴はいる。女子しかいない中、男の身体を自分は隠している。


入学式が始まった。


祝辞は麦彦が述べた。


麦彦の肩には、大勲位白百合しらゆり旭日きょくじつ双光章そうこうしょう頚飾けいしょくが輝いている。二つの学園の理事長を長年に亘って勤めてきた勲功によって、昨年、下賜されたものだ。無論、そのような勲章を下賜されるほど麦彦は立派な人間ではない。財力カネ人脈コネに任せて大臣たちに工作して得たものである。


それでも、祝辞を述べる麦彦の姿は、完全な常識人のように見えた。


式の途中から尿意を感じ始める。


周囲の女子たちにちらりと目を遣った。


――この人たちに混ざって這入るのか?


職員用トイレを除けば、学校には女子トイレしかない。


菊花と外出したときは多目的トイレを使っていたし、寮のトイレは個室なので気にかからなかった。しかし、女子生徒たちに混ざって女子トイレへ這入るのは気が咎める。だが使わないとなると、我慢し続けるしかない――そんなことが可能なのか。


入学式が終わり、教室へと移動する。


その途中、女子トイレの前に差し掛かった。


どうせ、いつかは使うことになる。ならば、その始まりがいつでも同じだ――そう考え、思い切って足を踏み入れた。


周囲の女子の目を気にしながら、唯一空いている個室へ這入る。


その個室は和式便器であった。


数年前に建て替えられた校舎なのに、なぜ便器は和式なのか。抵抗を感じたものの、今はこれを使うしかない。ショーツを下ろし、ペニスストッキングを外し、しゃがみ込む。さすがに立小便はできない。


用を足し終わり、ペニスストッキングとショーツを履き、水を流した。こんな面倒なことを今後は続けなければならないのか――そう思いながらドアを開ける。


ドアの前には菊花が立っていた――トイレが空くのを待っていたらしい。


目と目が合う。


見る見る菊花は頬を紅くしていった。

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