第52話 寝床の作成。愛の巣の作成? その4

 話を本筋に戻そう。


 弓の素体となるイチイの木の枝も手に入れたわたしと咲子は、蔓の大収穫に満足しつつ美琴の待つ洞穴の拠点へと戻ったのだった。


 美琴は待ちかねたようにわたしの腕に絡みつき甘えてくる。

 同性とはいえ、美少女にここまで好かれるのはとても気分が良い。そもそも女性はボディコミュニケーションを好む傾向にある。


 甘える子猫を想像してみてほしい。なかなか以って、良いものではないか?


 あー。男の手に渡したくないなー。たとえ嫁ぎ先の、宗家の男に対してでも。

 そうだ。とりあえず彼女の処女性は、わたしが頂くとしよう。

 うん、そうしようそうしよう。もうね、この好意に甘えちゃっていいかなと思う。


 わたしたちは一度レジャーシートに腰を下ろした。


 靴を脱ぎ、足を延ばす。

 尻に当たる檜の葉のクッションが妙に心地よい。


 美琴は気を使って、椀に煮出した笹の葉茶を汲んでくれた。

 湯気に息を吹きかけて、ゆっくりと飲む。

 熱いが、染み渡る香ばしさだった。


 咲子はまるで戦国武将のように椀の茶をあおり、うむ、と何かに頷いていた。


 洞穴は奥からゆるやかに流れる冷風で非常に心地よい。

 ぼんやりと、わたしは簡易コンロで燃える焚火を見つめる。


 ああ、目が離せない。薄暗い洞穴に浮かぶ、この妖しき炎の滾りよ。


 小さいとはいえ確かに燃え上がる炎は、どこか官能的で、頬に当たる熱気は、なんとも言えず幻想と幻惑を与えてくれるようで。贅沢な一瞬を浪費し続ける。


 そういえば催眠術に、炎を使うパターンがあった気がする。魅入ってしまう一瞬の心の隙間に偽りの言葉を忍び込ませるのだ。それで誰かを洗脳したいなー。


 ふと、正気に戻ると、美琴は勝手にわたしの膝を枕に寝転んでいた。


 彼女はくるりと態勢を変える。股間部に顔が行く。

 ああ、ダメ。そこは、オンナノコの匂いが充満しているの。

 慌てて体勢を変えようとする。だが美琴は、こちらの腰に腕を回してしまう。


「ミコト、それはダメ。それはアウツ。臭いよ。汗かいてるし、その、アレだし」

「いいの……だって大好きな匂いだもん。あまさずぺろぺろしたい……」

「えぇ……」


 そう来るかー。ここに飛ばされて、さらに恋のリミッターが外れちゃってるね。

 しばし沈黙して、もういいや、とわたしはミコトを頭を撫でた。


 どうせペッティングした仲である。近いうちにそれ以上のコトもするだろう。


 益体もなく想いを遊ばせながら咲子を見る。

 彼女は先ほど集めた蔓を使って、無心に何かを作っていた。


「サキ姉ちゃん、それって何なの?」

「川魚を取るための、魚籠状の捕獲罠を作成しようと思ってな」


「おおー。ついに本格的な狩猟に乗り出すわけね。どうやって作るのそれ」


「初めに骨子となる蔓を五本と六本に分けて用意し、交差。六本の側は一本だけ半分の長さに、中央から伸ばして時計回りにぐるぐると交差部分を縫って土台を作る」


「うん」


「次にこの土台の一本の蔓を起点に、骨子の蔓を一本ずつ縫うようにして形を作っていく。言葉にするとわかりにくいだろうが、実際に手を動かすと簡単だぞ。蔓が足りなくなったら、途切れた部分から少し遡ったところより蔓を足し、また縫っていく」


「うん」


「そうすると胴長の壺を横に割った形になっていくので、今度は骨子を調節し、節を作るように合わせて縫う。で、入り口部分を骨子でアーチ状に整えて、完成だな」 


「スゲェー。めっちゃ手馴れてるし。滑らか過ぎて手品を見てるみたいだよ」


「ちなみに、この蔓は秋ごろになると良い感じに水分が抜けて扱いやすくなる葛のそれだ。田畑の厄介者だな。しかしこうしてやれば、利用価値のあるものに化ける」





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