第31話 隠し砦の三少女 その7

 ならば薪はどうか。木を切り倒して燃料とするか。


 否、それは現実的ではない。木こりの真似事くらいはできるけれども。

 木を切る。ただそれだけではダメなのだった。


 そもそも薪は来たる冬に備えるために木を切り倒したり剪定したりした材木を割り、集めて干しておく代物である。木は切って簡単に燃やせるものではない。


 不安気にこちらを見つめる美琴を横に考えを巡らせ、これもやむなしと提案する。


 わたしは先ほどこう言った。ハードルが高ければ潜ればよい、と。

 実は、手段を問わなければ、焚き木ではなく薪を手に入れるのは可能だった。


「ミコト、あの木をカラカラに枯らしてちょうだい」

「えっ、そんなの……む、無理だよぉ……」


 わたしが指さしたのは――、

 林の中でぽつりと一本だけ、綺麗に背を伸ばしたヒノキだった。


「できる。できるのよミコト。レーベくんを使って対象のを吸い取るの。ついでに空間を割って木を切り倒して。現実的に無理なら、超現実的にやっちゃえ」

「うう。わかったよぉ……」


「で、拠点に置いてきたシャベルとノコギリを持ってくるからさ。シャベルって、あれの刃の部分ってノコギリになってたでしょう。切り倒したら枝葉をバラバラにしてしまおう。本体は、そうね、石斧を作ってそれでバラバラにしよう」

「力仕事……」

「まあね。でも、頑張ろう。火の木でヒノキだから、良い燃料になるわ」


 美琴はするするとくっついてきて、なぜかこちらと密に肌を合わせてくる。

 あれ? 今、甘える要素なんてあったっけ……?


「あの、ね。初めてだから、優しくしてね……」

「ああ、うん。そうだね。緊張するよね。ミコトはどうすると安心できるかな」

「えっと、じゃあ、わたしを後ろから抱き留めてほしい……」


 なるほど、そう来たか。

 本当は彼女がイヌガミを使役している間にシャベルとノコギリを取りに行く予定だったのだが、仕方ない。ホント、甘えん坊のおひい様なんだから。


「いいわよ。それくらい、いくらでもしてあげる。あっと、そうだ。手順だけど、先に木を切り倒してそれから若さを吸ってしまおっか。切り口はわたしたちのいる側を高く、向かいを低く。こちらではなく、向こう側へ切り倒すようにする」


 先に枯らしてしまうと、もしかしたらこちらにぼっきりと倒れてくる恐れがあることに気づいての修正である。木の切り方への指定も、同じ意味合いを持つ。


 わたしは美琴に後ろから静かに抱きついた。んっ、と美琴は嘆息した。彼女は軽く体を預けてくる。残暑が続く林の中、汗と熱を帯びる少女が二人。


「タマちゃん、大好き。わたしだけの英雄さん……」

「うん、わたしもミコトのこと好きだよ、可愛いおひいさま」


 昔からべたべたとくっついてきたけれど、やはりあのときが決定的なんだよなー。

 と、胸の内でわたしは思う。ついでに彼女のおっぱいの感触を楽しむ。

 出来事については後々に書き出すとして、しかし今は薪である。


「さあ、やってみよう。レーベくんに頼んでみて。わたしらのほうに木が倒れないようにこちらを高く、向こうを低く空間を割る。大丈夫、わたしがいる」





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