第437話 ギルドカードとタグプレート

 翌日の午後三時頃。

 ラグーン学園から帰宅したライトとラウルは、いつものようにおやつタイムをのんびりと楽しんでいた。


「おおおー……これがラウルの冒険者資格、ギルドカードとタグプレートなんだね!」

「おう、タグは明日作るから明日の昼以降に取りに来いって昨日言われてな。さっき受け取ってきたばかりだ」

「すごいなぁ……ぼくも早く冒険者登録して、ギルドカードとタグプレートほしいなー」


 冒険者ギルド総本部で、何とか冒険者登録を済ませてきたラウル。早速ライトに出来上がったばかりのギルドカードとタグプレートを見せて自慢する。

 初めて目の当たりにするギルドカードとタグプレートに、ライトは目をキラキラと輝かせながら見入る。


 冒険者登録すると、身分証としてギルドカードとタグプレートの二種類が発行される。

 登録しに行ったのが夕方だったので、タグプレートの発行の方は当日には間に合わなかったらしい。


 タグプレートは小さく薄い板状の長方形の金属板で、本名と冒険者登録した本支部名、登録年月日が刻み込まれる。

 例えば今回のラウルの場合だと『ラウル ラグナロッツァ総本部 813/2/22』と書かれている。


 一方ギルドカードには、表面に本名、階級、昇級年月日が記載される。

 裏面には一見何も書かれていないように見えるが、本人認証のための指紋登録に加えてその後の賞罰や昇級履歴、依頼達成数や討伐実績などが随時記録されていくという。

 現代日本でいうところの、メモリーカードのような仕組みだろうか。


 ここでライトがふと呟く。


「……そういえば、ぼくまだレオ兄ちゃんのギルドカードやタグプレートって見たことないなぁ」

「そうなのか? まぁ俺も一度も見たことないが」

「うん。レオ兄ちゃんが冒険者ってのが当たり前過ぎて、ギルドカードとか改めてちゃんと見せてもらったことないんだよねー。……よし、そしたら今日レオ兄ちゃんが帰ってきたら、二つとも見せてもらおーっと!」

「俺も今度見せてもらうか。伝説の金剛級冒険者のギルドカードというものを拝んでみたいしな」


 ラウルのピッカピカの新品ギルドカードを見て、ライトは気づく。よくよく考えると、ライトは今まで一度もレオニスのギルドカードのことを見せてもらったことがなかったのだ。

 レオニスも冒険者ギルドの各種窓口では必要に応じてちゃんと提示しているのだろうが、生憎ライトがそういった場面に居合わせることはほとんどなかった。

 そもそもライト自身まだ冒険者ではないので、そうした場面に立ち会う機会がないのも致し方ない。


 ライトは改めてラウルの新品のギルドカードを手に取り、実に羨ましそうに眺めながらラウルに話しかける。


「ラウルもやっぱり紙級から始めるんだねー」

「ああ、魔力量や攻撃力だけなら黄金級以上らしいんだが。料理もそうだが、やはり何事も一から経験を積まねばならんからな」

「そういえば、こないだネツァク支部で見た砂漠蟹の殻処理依頼。あれ、依頼を受けられるのは石級以上からって依頼書に書いてあったよー」

「そうか、そしたらまずは石級を目指して頑張るか。……って、石級って紙級のいくつ上だ?」

「えーっとねぇ、ちょっと待ってねー……ああ、あったあった、これだ。冒険者階級はねぇ、紙から始まって、木、石、青銅って順で上がっていくんだって。石級は紙級の二つ上だねー」


 ラウルが冒険者登録時にクレナからもらってきた小冊子『冒険者の手引き~一流冒険者に至るための基礎知識とコツ~』をパラパラと捲り、冒険者階級について解説しているページを探す。

 そこから該当ページを探して見つけ出し、ラウルの質問に答えるライト。


 その小冊子は、新規登録者全員に配布される品だ。言うなれば『初心者向けガイドブック』である。

 数枚の紙の上部を綴り紐で綴じただけの、質素で簡単な小冊子。だがその手作り感が何とも素朴で味わい深い。

 将来ライトが冒険者登録した時にも、きっとこれと同じものがもらえるのだろう。ライトも自分用にこの小冊子がもらえる日が、今から待ち遠しくて仕方がない。


「紙から二つ上がればいいのか。一日も早く砂漠蟹の殻を手に入れるためにも、まずは石級目指して頑張るか」

「とりあえず、受付嬢のクレナさんに相談するといいんじゃない? 素早く昇級するコツとか手順とか、いろいろと教えてもらえると思うよー」

「そうか。そしたらあの姉ちゃんにもまた何か差し入れしとくか」


 ライトのアドバイスに素直に従うラウル。

 クレナならば、冒険者になったばかりの新人初心者に対して適切なアドバイスや指導をしてくれるだろう。


「明日は土曜日だから、ぼくとレオ兄ちゃんは目覚めの湖の湖底神殿散策ツアーに出かけるけど。ラウルは早速冒険者ギルドで依頼こなしてくる?」

「そうだな、紙級でもすぐに受けられるものがあればやってみるか。もし一つも受けられなくても、どんな依頼が出てるか掲示板見て勉強してくるわ」

「それがいいねー。ラウルなら何をやっても上手くできると思うけど、無理しない程度に頑張ってねー」


 明日の予定を話し合うライトとラウル。

 今日は金曜日、明日明後日は待ちに待ったライトの休日。なので、先日水の女王と約束した『湖底神殿散策ツアー』に出かける予定である。

 ラウルはもともとそれには同行しないので、冒険者ギルドで依頼を受けたりその他冒険者としての勉強をしてくるつもりのようだ。

 かなり前向きな姿勢のラウルを見て、ライトは「料理の他にも打ち込めそうなことができて良かったね!」と心から安堵していた。


 そもそもラウルは冒険者になるつもりなど全くなかった。

 だがここ最近持ち上がった家庭菜園計画を始めとして、砂漠蟹の殻の入手やオリハルコン包丁の代金稼ぎ等々、様々な要因により晴れて冒険者デビューすることになったラウル。

 ラウルにとって冒険者稼業とは、料理という至高の趣味をより充実させることのできる最良の手段であることに気がついたのだろう。


「ライト達も湖底神殿散策ツアー楽しんでこいよ。……って、そうだ、頼まれてたピクニック用の食事。もう一通り作ってあるが、今のうちに渡しとくか?」

「あッ、そうだね、今ここで受け取れるならその方が楽だよね!二階からアイテムリュック持ってくるから、ちょっと待っててねー」

「了解ー」


 明日の予定の話の流れで、ラウルがピクニック用の食事をもうライトに渡せると言う。

 今週は家庭菜園用の温室に関する事前調査やら何やらで多忙だっただろうに、ライトの依頼であるお出かけ用ご飯もちゃんと用意してあるとは。さすがは万能執事ラウルである。


 ラウルの言葉を受け、早速ライトは二階の元宝物庫の転移門部屋にアイテムリュックを取りにいく。

 パタパタと軽やかな足音が遠ざかるのを聞きながら、ラウルは空間魔法陣を開いてせっせとライトに渡す明日の食事を取り出していた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日の土曜日。待ちに待った土日の休日である。

 今日は目覚めの湖にある湖底神殿に、水の女王達とともにお出かけする日だ。

 今日もカタポレンの森の空は晴れ渡り、実に良い天気で絶好のお出かけ日和である。


 いつもの土日と同じく、朝一で魔石回収兼走り込み修行をこなすライト。レオニスも明け方早くに家を出て、カタポレンの森の警邏に回る。

 二人とも朝の八時少し前には家に戻り、二人揃ってから朝食を摂る。

 朝食をまくまくと食べながら、その日の予定を話し合うライトとレオニス。今日の朝食中の議題は、もちろん湖底神殿散策ツアーについての話である。


「昨日のうちにラウルからご飯やおやつをたくさんもらってあるから、このままいつでも目覚めの湖行けるよー」

「そうか、そしたら朝食食ってしばらく休んでから目覚めの湖に行くか」

「今日もツィちゃんの分体入りのタイピンつけて行こうっと。先週の水の女王様の寝床に行った時も見てくれたかなぁ?」

「先週は俺もいっしょに行ったし、多分見てくれたんじゃね? 俺も一応ロングジャケットには必ずツィちゃんのカフスボタン着けてるし」

「だといいなー。また今度ツィちゃんのところに行った時に感想聞いてみよう」


 朝食を食べ終えて、食器を片付けて一休みするライトとレオニス。

 九時半に出かける約束をして、それぞれ支度するために各自自室に向かう。

 出発時刻になり、玄関先に集合したライトとレオニスは目覚めの湖に向かって駆けていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おーい。イード、ウィカ、アクアー。ぼくだよ、ライトだよー。おはよーぅ」


 目覚めの湖に到着したライトとレオニス。

 いつものようにライトは桟橋の先端に立ち、湖の中にいる友の名を大きな声で呼ぶ。

 しばらく待っていると、小さな水泡とともにまず水の精霊ウィカが現れる。そのウィカの下から、今度は湖の主イードがゆっくりと出てくる。そしてイードの身体が半分くらい出てきたところで、水竜に似た水神アクアのお出ましだ。

 三体とも目覚めの湖に住むライトの友であり、大事な仲間である。


 目覚めの湖の友が勢揃いしたところで、ライトが皆に向けて声をかける。


「皆おはよう!今日は皆で湖底神殿の散策に出かける約束したよね、覚えてる?」

「キシュルルル♪」

「皆で食べるお弁当もたくさん持ってきたからね!」

「うなぁーん♪」

「じゃ、水の女王様のお迎えに皆で行こうか!」

「クルァァァァ♪」


 ライトの言葉に、イード達もご機嫌そうな声音で応える。

 皆ライトとの約束を忘れずに覚えており、ライト同様とても楽しみにしていた様子が伺える。

 後はここに水の女王が加われば、本日のツアー参加者の全員集合だ。

 水の女王は今もあの水草の草原で、ライト達が迎えに来るのを心待ちにしているに違いない。


 ライトとレオニスはウィカに水の結界膜を張ってもらい、イードの触腕に抱えられながら湖の中に潜っていった。





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 冒険者ギルドに登録済みの冒険者がもらえる、鉄板かつ必須アイテムのギルドカード&タグプレートの初登場です。

 拙作では冒険者達が普段ギルド窓口や身分証明書として使うのはギルドカードで、タグプレートは冒険者登録記念品兼サブ身分証です。

 昇級の度に金属プレートを発行し直すのは、手間とコストがかかりますからねー。カードに履歴その他全データを記録した方が、昇級や紛失等の再発行も楽だから、という理由ですね。

 ちなみにカードの素材は、かなり分厚い厚紙に特殊素材を染み込ませて加熱し硬化させたもの。金属板に加工を加えるよりはコスパ安いのです。


 データ記録はまぁ作中でも書きました通り、メモリーカードのように各種データを蓄積していくイメージ。

 ギルドカード裏面の指紋認証は捺印のようにべったりと記載するのではなく、人差し指を軽く押し付けて指紋や本人の魔力をデータとして読み取り保存。

 それらは一体どういう理論で稼働してるの?と問われれば『ファンタジー世界に出来ぬことなどないッ!』とお答えするしかないのですが。


 まぁ転移門の仕様にホログラムパネルを使える世界ですのでね、メモリーカードに似たような機能を持つ魔法技術もあるでしょう!

 ぶっちゃけた話、リアルのmicroSDカードとかだって作者に言わせりゃ立派な魔法ですよ? そこら辺の仕組みを解説したサイトを見ても、私の頭ではさっぱり分かりませんでしたしね!(º∀º) ←一応今回覗くだけは覗いてみた

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