第392話 魔物達の異変
監視小屋から出て炎の洞窟の入口に向かうライトとレオニス。
しばらく歩いたところで、レオニスがライトに声をかける。
「だいぶ洞窟の熱気が強くなってきたな……そろそろここら辺でベストやカバーを追加で着とくか」
「うん、分かったー」
「にしたって、洞窟の入口はまだだいぶ先だってのに……この位置でもうこんな熱さになるとはな」
「本当にね……ここら辺だけならもう夏と変わんないよ」
プロステスの街の中もほとんど寒くなかったし、監視小屋の辺りなど春の陽気と言っても過言ではない暖かさだった。
そこから炎の洞窟に近づくにつれ、どんどん気温が上昇していく。まだ洞窟の入口にも辿り着いていないのに、既に夏のような熱気だ。
ライトとレオニスはマントを一度脱ぎ、空間魔法陣やアイテムリュックからそれぞれベストやネックカバー、アームカバーを取り出して身に着ける。どれも凍砕蟲糸の生地でできており、ひんやりとした冷気が熱さを和らげてくれる。
再びマントを羽織ったライト達は、改めてフードを深く被りマントに魔力を通し始める。
それまで夏の如き熱さだったのが、マントに魔力を通したことで瞬時に熱気が下がりエアコンの効いた室内空間のような快適さになる。
「おおー、魔力通したら涼しくなった!このマント、すごいね!」
「ああ、予想以上にすごいな!さすがカイ姉の作る新作装備だな!……っと、ライト、ほれ、口開けろ」
「あーん」
新作マントのすごさに感激するライトに、同じくカイを褒め称えていたレオニスが思い出したようにマントの内ポケットから飴玉を二つ取り出す。
一つはライトの口にポイーと放り込み、もう一つも自分の口に含んで飴玉を舐め始める。
もちろんこの飴玉はただの飴玉ではない。MP回復効果のある飴玉である。甘くてほんのり爽やかなミントの香りがライトの口の中に広がる。
着替えで立ち止まったついでに、二人してその場に座って炎の洞窟の内部地図を地面に広げて確認する。
「いいか、ライト。炎の洞窟ってのは天然の洞窟だから、人工的な階段や階層は一切ない。ひたすら地下に下って潜っていく構造だ」
「この地図を見ると、いくつかの分かれ道が存在するようだが。何ヶ所か分岐点があって、最奥の一番広い空間に炎の女王がいるとされている」
「炎の洞窟に入るのは今日が初めてだし、ひとまず様子見で一番最初の分岐点の本筋じゃない方を一回りして戻るつもりだ」
「最初の分岐点はここ、本筋はこっちでハズレはこっち。ハズレの方はすぐに行き止まりになるっぽいから、炎の洞窟の下見としては距離的にもちょうどいいだろう」
レオニスが地図を指差ししつつライトに説明していく。
洞窟は全体的に見てそこまで複雑な構造ではないようだ。レオニスが指で差した最初の分岐点も、入口を入ってわりとすぐの位置にある。
二人で場所の確認をし、レオニスは地図を折り畳んでマントの一番大きい内ポケットに仕舞い込む。
「さ、じゃあ行くか」
「うん!」
ライトとレオニスは立ち上がり、埃をパッパッと払い落としてから再び洞窟の入口目指して歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うわぁー……でッかぁ……」
炎の洞窟の入口の真ん前に立つ、ライトとレオニス。ライトは入口を見上げながら、その雄大さにただただ感嘆する。
入口は小高い岩山にあり、高くて幅広の入口は威風堂々とした佇まいで侵入者を待ち構えている。
その入口は、遠く離れた監視小屋からも見えるほどの大きさだっただけに、目の前まで来るとさらに巨大さを実感する。
「これだけ大きいなら、炎の洞窟の熱気でプロステスが暖かくなるのも分かるってもんだな」
「本当だよねぇ」
炎の洞窟の入口から時折吹いてくる風。その風はそよ風なんて可愛らしいものではなく、猛烈な熱気を含んでいる。
ライト達は特製のマントを着用しているからいいが、全くの準備無しでは洞窟に入ることなどできないであろう。いや、洞窟に入る以前にこの入口付近にすら近づくのも厳しいはずだ。
二人はネックカバーで口を覆うために、改めて鼻の上までカバーを引き上げる。
レオニスが意を決したように、一歩前に足を踏み出す。先頭に立って歩くレオニスの後ろを、ライトは離れないようについていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
炎の洞窟に入って曲がりくねった下り坂を下りていき、外の光が全く見えなくなった頃。
クイーンホーネット、極炎茸、レッドスライム、マンティコア、火の精霊など、炎の洞窟を住処とする魔物達が次々とレオニス達に襲いかかってくる。
襲い来る魔物達を迎撃し、大剣を振るいバッタバッタと倒しまくるレオニス。その後ろでライトはレオニスが倒した魔物をアイテムリュックに収納していく。
魔物達が人間を見ると問答無用で襲ってくるのは、いつものことでありこのサイサクス世界の常である。
だが、ライトとレオニスともに違和感を感じ取っていた。
「ねぇ、レオ兄ちゃん。何かおかしくない?」
「ああ、お前も感じるか」
「うん……炎の洞窟の魔物って、こんなに強いの?」
「洞窟の入口付近の魔物がこんなに強いはずはないんだが……」
リポップするような通常モンスターはステータスが弱く、どれだけ大量に襲いかかってこようともレオニスの敵ではない。
だが、この炎の洞窟の魔物達はどうにもおかしい。いつもならばレオニスが大剣を軽く
とはいえ、一撃で倒せないだけで瀕死に近い状態なので、二撃目を加えれば仕留められる。
だが、本来なら雑魚敵であるはずの魔物達がレオニスの一薙に耐えられるはずがないのだ。
「これは……いつものような軽い振りで通らせてはもらえなさそうだな」
「本腰入れるか」
レオニスは大剣の柄を握り直し、気合いを入れて剣を振るい始めた。
今までの軽い動きから一転したその鋭い剣筋は、あっという間に魔物達を一閃し一撃で倒していく。
冴え渡る剣捌きで襲い来る魔物達をどんどん退けていく姿は、まさに大陸一の最強冒険者に相応しい。
レオニスの後ろで魔物の死骸を収集しているライト。
その合間に、レオニスに襲いかかる魔物達の観察をしていた。
見た目や姿そのものは前世のゲーム内で見ていたモンスターと変わりない。だが、何かが違う。
魔物達は皆一様に目が血走り、毛や尾は極限まで逆立ち、ときかく殺気が半端ない。
『ちょっとステータスを見てみるか……』
そう考えたライトは、クイーンホーネットに対して『アナザーステータス』を使いステータスデータを見てみた。
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【名前】クイーンホーネット
【レベル】33
【属性】火
【状態】狂乱
【HP】2180
【MP】1340
【力】915
【体力】735
【速度】215
【知力】685
【精神力】700
【運】40
【回避】110
【命中】410
==========
『ちょ、何だこれ……!?』
『俺の知るクイーンホーネットのステータスじゃない!通常の五倍から十倍に跳ね上がってんじゃねぇか!』
『何でだ、何でこんなことになっている……』
『……状態異常、『狂乱』か!!』
クイーンホーネットのステータスデータを見たライトは、あまりのことに愕然とする。ライトが見たデータは、クイーンホーネットの通常状態の数倍も跳ね上がっていたからだ。
そもそもこの炎の洞窟は、ゲーム内では冒険の中盤で出てくる中級相当のフィールドだったはずだ。
中級相当のフィールドモンスターがHP1000を超えることなど、ライトの常識ではあり得ないことだった。
だが、それを可能にするのが状態異常、狂乱である。
そのことに気づいたライトは、内心でますます焦る。
『どうして通常の雑魚モンスターが狂乱なんて状態異常になってんだ……あんなもん精霊以外にかかるもんじゃないはずなのに!』
『まさか……クイーンホーネット以外のやつも全部狂乱状態なのか!?』
ライトは急いで他の雑魚魔物のステータスも見てみた。すると、ライトの予想通り極炎茸、マンティコア、レッドスライムなど、見る魔物全てに状態異常の狂乱がステータスデータ内に表示されていた。
この結果を受けて、ライトはレオニスに声をかける。
「レオ兄ちゃん、ちょっと一度外に出ない? まだ入口からそう遠くないし、対策練り直した方がいいんじゃないかな」
「ああ、そうしたいのはやまやまなんだが……一足遅かった」
「え?」
魔物の襲い来る波が一旦途切れ、レオニスがじっと前を見据えている。
レオニスの意外な返しを聞いたライトが、レオニスの視線の先を追うと―――そこには火の精霊とよく似た禍精霊【火】がいた。
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炎の洞窟の内部にようやく足を踏み入れたライト達。
あー、ここまで何だか長かった……ぃぇ、冒険以外の日常シーンとかも好きなんですけど。
ちなみにマントの寒暖コントロールは、魔力の込める量で調整できます。
魔力を強めに流せばより冷たくより暖かく、弱めに流せば冷たさも暖かさも弱めになるので、外気の状況により微調整ができます。
とはいえ、魔力の少ない者が長時間着用していると魔力切れを起こすので要注意。ここら辺はやはり魔力の多いライトやレオニス向けの装備と言えます。
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