第301話 初めてのレシピ生成

「さて、と。軽く森の警邏と魔石回収に軽く回ってくるか。ライトも昨日は一日中出かけて疲れただろうから、今日は一日ゆっくり休め。気分転換で外を走るにしてもあまり遠出するなよ」

「はーい」


 プロステスでの出来事の報告会議?の後、レオニスは日課であるカタポレンの森の警邏に出かけた。

 ライトはライトで午後にやろうと考えていたことがあるので、昼食の後片付けをしてからいそいそと自室に向かう。

 ライトが自室でやりたいことといえば、もちろん決まっている。そう、マイページやクエストイベントのチェックだ。


 早速自室のベッドの上に座り、マイページを開く。

 まずは三日前に大神樹ユグドラシアや神樹ユグドラツィからもらった加護の扱いがどうなっているかのチェックだ。

 部類的に考えて称号類に該当するはずなので、称号欄を見てみるライト。


「……ン?称号の表示が二列になってる?」


 同時につけられる称号は、今まで五個だったはずだ。

 だが、過去に自分で選択した称号五つの上に新たに列が出現し、その列の中にユグドラシアの【大神樹の加護】とユグドラツィの【神樹の祝福】がついて合計七個の表示になっているではないか。

 称号の付け外しをした覚えもないのに既についているということは、これはパッシブスキルのように獲得した時点で常時効力を発揮するタイプのものだろうか?

 あるいはいつの間にか得ていた他の称号と違い、神樹族という高位の存在から直接賜った加護だから扱いが異なるのかもしれない。


 いずれにしても、ライトにとってお得なことに変わりはない。

 それに、せっかく神樹族から厚意でもらったものだ。それらをお蔵入りさせることなく活かせるのは、ライトの心情的にも嬉しいことだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 称号チェックを一通り終え、次はマイページ内の『レシピコレクション』を開く。

 昨日の午前中に、翼竜牧場にてイノセントポーションの素材『地虫の大顎』を確保できたので、今のうちにイノセントポーションをガンガン作っておくためである。


「えーと、何ナニ……単眼蝙蝠の羽五個にエクスポーション三個、エネルギードリンク二滴、巌流滝の清水二個、地虫の大顎三個か……」

「エネルギードリンクは、この魔法のスポイトで取り出して、と……」


 ライトはマイページ内のアイテム欄から『魔法のスポイト』なる道具を取り出す。

 これはクエストイベント5ページ目『★小人族の危機に備えよ act.2 【闘水】を作ろう!★』の25番目クエスト『茶色のぬるぬる1個』のクエスト達成報酬品である。


 この魔法のスポイトは、瓶などに入った液体を開封することなく中身を取り出せるスグレモノだ。これにより、取り出す側の未開封状態を保てるという利点がある。今回のエネルギードリンク数滴取り出す他にも、エリクシルなどの貴重な回復剤類を一滴単位で取り出すのに今後とても重宝するだろう。

 また、微量の成分のみを指定して取り出すことも可能だ。ただし、大量に成分を取り出したい場合はスキルの遠心分離を使う方が手早く有効である。

 1回使用につきMP10消費するが、その程度のMPなどアークエーテルを一口二口飲めば全く問題ない。


 まずは固形物素材の下処理からだ。

 アイテムリュックから地虫の大顎を取り出し、細かめに手で割っておく。

 翼竜牧場で買い取った際に四分割にしてから収納したので、四つ分の欠片を一個として取り出してちまちまと割り砕く。

 ちなみにこの地虫の大顎、元はビッグワームの大顎なのだが。顎の骨やら歯なのでかなり硬い。前回の分割はラウルにやってもらったが、今日はライト自身の手でこなさなければならない。


 だが、ライトは難なく大きな歯を一個一個へし折っていく。ギザギザで鋭い部分もあるので、手や指を切らないように慎重に折っては横に置いた大きめの籠にポイーと入れていく。

 それはまるで細い木の小枝を折るかの如くペキパキと軽快に、鼻歌交じりで作業を進めていくライト。

 このビッグワームの大顎、本来なら子供の手で折れるような代物ではないのだが。ライトがここまでいとも簡単に割り砕いていけるのには理由がある。


 その秘訣は、先程チェックした称号欄。

 合計七個の加護および称号で強化された各種ステータスのおかげで、ライトはレベル一桁の完全非戦闘員でありながらかなりの力を得ていたのだ。


 歯を全部顎骨から割り取った後は、顎骨を細かく割っていく。

 遠心分離の器に入れるには、あまり大きいままだと入れられないだからである。

 これら一連の処理を地虫の大顎三個分、計十二個の欠片を順次繰り返し行っていくライト。


 地虫の大顎三個分を全て砕き終わったら、次は単眼蝙蝠の羽五枚分の処理だ。

 こちらは以前オーガの里の襲撃事件時にレオニスが電撃魔法で撃退し、死骸を回収していた分の素材である。

 ところどころ焦げたり破けたりしているが、完全炭化していなければ問題ないだろう。

 この羽も焦げた部分だけ丁寧に取り除き、なるべく細かく千切って別の籠に入れていく。こちらは個数が少ないので、さほど時間もかからず処理できそうだ。


「【遠心分離】、起動」


 固形物素材の下処理を終え、スキル【遠心分離】を起動させるライト。目の前にバスケットボール大の球体状の、うっすらとした空間が現れる。

 その中に向けて、エクスポーションを三瓶、巌流滝の清水を二瓶注いでいく。

 次いで細かめに砕いた地虫の大顎と千切った単眼蝙蝠の羽を投入する。

 最後に魔法のスポイトで採取したエネルギードリンク二滴を入れれば、材料は全て投入完了だ。


 ライトは満を持してスキルを実行する。


「【遠心分離】、開始。ポチッとなー♪」


 ライトは掛け声を発するとともに、目の前のスキルパネルを指でタッチする。

 すると、先程材料類を投入した空間が超高速回転を始める。


「おおー、なんだかまるで洗濯機の脱水のようだー。この世界に洗濯機ないけど!」


 その超高速回転は10秒程度で止まり、空間の中で透明な水分と薄黄色の有効成分の二つの塊に分離した。

 この薄黄色の有効成分の方がイノセントポーションである。


 イノセントポーションが溜まっている部分に、巌流滝の清水で洗ったエクスポーションの空き瓶の口を近づける。

 すると、空間の中のイノセントポーションがシュルシュルシュル……と空き瓶に注入されていく。


「おおおお……如何にも魔法というか、超絶ファンタジーっぽい!」


 目の前で繰り広げられる摩訶不思議な光景に、ライトは思わず歓喜の声を上げる。

 前世の現代日本ではゲームや漫画、アニメ、映画などの仮想世界でしか見ることのできなかった、魔法という不可思議な力。

 それを目の当たりにすることもだが、それ以上に自分がその力を行使していることが感慨深かった。


 イノセントポーションの全量が瓶に収まったのを見届けてから、瓶の口に蓋を差し込む。これでイノセントポーションの完成だ。

 念の為マイページを開いて確認するライト。

 マイページ内のアイテム欄には、しっかりと新アイテムのイノセントポーションが反映されていた。


「やったー!これでイノセントポーションを作れるようになったぞー!」


 如何に前世の世界でBCOというゲームを遊び尽くしたライトでも、クラフト系コンテンツは全く未知のジャンルだった。

 そのため若干の不安があったのだが、見事に使いこなすことができて喜びも一入ひとしおだ。


「よーし、この調子でイノセントポーションをガンガン作るぞー!」


 一度成功してしまえば、後は同じ手順や過程を繰り返すだけだ。その手順を忘れないうちに、暇を見ては作り続けるのが上達のコツである。


 この先に控えている、まだ見ぬクエストイベントのお題でもイノセントポーションを度々要求されるだろう。

 そのために、今から作れるだけ作っておかねばならない。

 ライトは新しいコンテンツであるクラフト、生産職を極めるのもいいな、と思いながら再びイノセントポーション作りに励むのだった。





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 ライトの初めてのレシピ生成です。

 作中で地虫の大顎をいとも簡単に割り砕いていますが、これは先日翼竜牧場にてラウルが足を使って割ったのを見て

「ラウルに割れるなら、シアちゃんやツィちゃんから同じ加護をもらった自分にもできるんじゃね?」

と思ったことから試しにやってみたところ、イケた!という訳です。


 ぃゃー、称号や加護の強化ステータス分もどこかで掲載したいと思いつつ、なかなか良いと思える機会というかタイミングが来なくてですね……

 あの、数字ばかりが並ぶステータス画面て文章だとすっごくつまらないというか、文字数稼ぎや嵩増しにしか見えないんじゃ?というのがあるんですよねぇ……

 文字だけの世界というのは、なかなかにというか本当に厳しくも難しいものです。

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