第300話 自己責任と選択

 拙作をいつもお読みくださり、本当にありがとうございます。

 今回で300話到達です!もう嬉しくて嬉しくて、200話同様滅多に書かない前書きでもお礼書いちゃいます!重ね重ね御礼申し上げます!

 よろしければこれからも本作をご愛読いただけたら嬉しいです!よろしくお願いいたします!



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 翌日、ライトとレオニスはカタポレンの家でのんびり過ごすことにした。

 前日は二人とも一日中動いていたので、昨晩は帰宅後早々に寝てしまったのだ。

 子供のライトはともかく、驚異的な体力と強靭さを誇るレオニスでも疲れきって早々に寝るというのは珍しい。

 だが、午前中はラグナ教プロステス支部の再調査のあれやこれやに、午後は午後でプロステス領主のアレクシス・ウォーベック侯爵を相手に極秘調査など、超過密なスケジュールに精神的疲労も重なればくたくたに疲れるのも致し方ない。


 休日でもいつも通り起きる習慣がついているライトとレオニスだが、今日ばかりは朝になっても起きてこない。

 晴れ渡る空に昇る太陽が頂点に差し掛かろうかというあたりで、二人とものそのそと起きてきた。


「あー……レオ兄ちゃん、おそよーぅ……」

「……おう、ライト、おそよーぅ……」

「もうお昼近いねぇ……ふぁぁぁぁ……」

「だなぁ、こんな疲れたのは久しぶりだわ……」

「まぁ昨日はずっと忙しかったもんねぇ……」

「……とりあえず、顔洗って昼飯にするかぁ……」

「はぁーい……」


 まだ完全に眠気が抜け切らないライトとレオニス。背伸びとあくびを繰り返しながら起床の挨拶を交わす。

 洗面所で顔を洗い、二人で朝食兼昼食の支度をする。昼食の支度といっても、昨日のプロステス領主邸での晩餐でお持たせでもらった食事をレオニスの空間魔法陣から取り出すだけだ。

 サンドイッチやフルーツ盛りなど、手軽に食べられて休日の昼食に相応しい品々が食卓に並ぶ。


「「いっただっきまーす」」


 さすがプロステス領主邸で出されたサンドイッチ、分厚いパイア肉のカツレツサンドや卵やチーズと組み合わせた肉系サンドイッチなど絶品揃いだ。

 侯爵家での晩餐のご馳走を、持ち帰って翌日の昼食にいただくなど何とも贅沢な話である。

 もっとも、そんな場でのご馳走を遠慮なくお持ち帰りできるのもレオニスくらいのものだろうが。


「こーんな豪華なサンドイッチ、なかなか食べられないよねぇー」

「パイア肉はプロステスの特産品だからなー。そういや市場で大量に肉買ってきたよな?ラウルに渡せば同じものを作ってもらえるぞ」

「そうだね!」


 お腹も十分に膨れて目も完全に覚めてきたところで、お互いに昨日の報告をする。

 まず最もライトが気になっていたのは、自分が同行できなかったラグナ教プロステス支部の再調査だ。

 昨日の昼にプロステスで現地合流した時にも、レオニスがかなり疲弊しているのはライトの目からも見て取れていた。


 そのことをライトが真っ先に問うと、レオニスは昨日の午前中の再調査で起きたことをライトに話して聞かせた。

 聖具室と呼ばれる場所に怪しい司教杖があり、その司教杖がレオニスの魔力を喰っていたこと。その司教杖と対峙した際に自分レオニス以外の時間が停止し、司教杖の宝玉が目を見開くかのように変貌して廃都の魔城の四帝の一角【賢帝】と会話をしたこと。

 さらには【賢帝】との会話の中でレオニスは『奴等に連なる者』と言われ、司教杖を餞別としてくれてやるなど言われたことなどなど。

 聞いているライトも驚くばかりで、衝撃的な話が続く。


「これが、その司教杖だ。今はこんな淡い黄金色の杖で宝玉は鮮やかな赤紅色だが、時間が停止する前はくすんだ銀色の杖で宝玉も一回り大きいオレンジ色だったんだ」

「へぇー、色や宝玉の大きさまで変わっちゃうんだ……」


 レオニスが空間魔法陣から司教杖を取り出し、ライトにも見せる。

 ライトは司教杖が変貌する前の状態を見てはいないが、現在の黄金色の状態は神々しいオーラに包まれていて禍々しさを全く感じない。


「ねぇ、レオ兄ちゃん。これ、触っても大丈夫?」

「この状態なら大丈夫だ。今俺が直接触りながら空間魔法陣から取り出しても大丈夫だったろう?」

「そうだね……ぼくも持ってみてもいい?」

「ああ、いいぞ」


 レオニスの許可を得て、黄金色の司教杖にそっと触れるライト。ひんやりとした感触だが、魔力を喰われるといったような感覚は一切起きない。

 手に持ってみるととても軽く、細い木の枝一本程度の重さしか感じられない。

 何とも不思議な感覚の杖だなぁ、とライトは司教杖を持ちながら興味深そうに繁繁と眺める。


「こうなる前の司教杖が俺の魔力を喰いにかかっていたことから、これはラグナ神殿に祀られている魔剣と同じ類いのもの―――つまりは聖遺物だと思われる」

「!?!?!?」


 レオニスの言葉に、ライトは心底驚愕した。あまりに驚き過ぎて、手に持っていた司教杖を思わず落っことしてしまいそうになったほどだ。

 あばばばば、と慌てて落としかけた杖を何とか救い上げて床への落下を防いだライト。


「え、ちょ、待、ウソ、何、ここここれ、聖遺物なの!?」

「ああ、大教皇もそう認定した。銘こそ分からんが、これは聖遺物の聖なる状態、光の聖杖であると断言した」

「ぅぇぇぇぇ……そんなんぼくが触ってもいいの?ていうか、レオ兄ちゃんが持ってていいもんなの?」


 今自分の手に持っている司教杖が聖遺物だと聞かされ、慌てふためくライト。

 ライトが狼狽えつつその所持の是非を問うも、レオニスもため息混じりで事情を説明する。


「俺もそう言ったんだがな?そもそもラグナ教側も、この司教杖の存在すら把握してなかったようでな。プロステス支部にこんなもんがあるなんて全く知らなかったらしい」

「大教皇ですら知らなかったもんを、今更わざわざ新たな聖遺物として存在を公に明かすこともないだろう、と言われてな」

「オラシオンにも、知らなきゃ知らないでその方が都合がいい、とまで言われたよ」


 ああ、そりゃ確かにそうだろうな、とライトも内心思う。

 下手に聖遺物の新発見を公に知らせたら、その価値の鑑定や管理を巡って面倒くさいことになりそうだ。

 ここはオラシオン達の言う通り『知らぬが仏』を貫く方がいいだろうことは、ライトにも察せられた。


「それに……【賢帝】はこれを『通行手形だ』とも言った。ならば、これはいずれ廃都の魔城の四帝を殲滅しに向かう俺が持つべきだ、とオラシオン達に言われてな」

「でもって、おそらく【賢帝】以外の他の四帝に対応する聖遺物がエンデアンとファングにもあるだろうってのと、ラグナ神殿の聖遺物もそれに含まれるだろうってことと」

「そして、廃都の魔城の四帝を殲滅しに向かうには、これら聖遺物を全て聖の状態で集めなければならない、とも言われたな……」


 あまりにも急激かつ壮大な展開に、ライトは絶句する。

 ゲームでいえば冒険ストーリーの更新が相次いだようなもので、突如激増した新情報に理解が全く追いつかない。


「聖遺物を聖の状態にするって、どうやるの?」

「さぁなぁ、それも今のところさっぱり分からん。司教杖はたまたまそうなっただけで、本当に偶然の産物だしなぁ……」

「きっと何か条件とかあるんだろうね……」

「そうなんだろうなぁ。……ま、それよりもエンデアンとファングにあるだろう他の聖遺物を見つけるのが先だがな」

「そうだねー」


 ライトはひとまず司教杖をレオニスに返し、レオニスもそのまますぐに司教杖を空間魔法陣に仕舞う。


「次に、プロステス領主邸の極秘調査だが……ライトは昨日の晩餐で何か情報は得られたか?」

「うーん、ちょっと引っかかることがひとつだけあったかなぁ」

「何だ?」

「筆頭執事とメイド長が不在だって話」


 そう、昨晩の晩餐でライトとレオニスはそれぞれに分かれて情報収集を行っていた。ウォーベック家の人々と会話をすることで、ごく微量ほど残っていた悪魔の痕跡の手がかりが得られるかもしれないからだ。


「筆頭執事とメイド長が不在だってのは、俺も領主から聞いたな」

「ぼくはハリエットさん達から聞いたんだ。ずっと仲良くしてた執事やメイド長がいなくて寂しいって」

「それのどこに引っかかるところがあるんだ?」

「執事とメイド長が来なくなったのが、三週間くらい前からなんだって」

「三週間前?…………!!」


 ライトの話にしばらく考え込んだレオニスが、ハッ!とした顔になる。レオニスも何かに気づいたようだ。


「それってあれか、ラグーン学園でラグナ教の大主教が悪魔だと分かった日と近いってことか!」

「うん、時期的に一致するんだよね」

「確かにそれは怪しいな……」

「でも、それだけじゃ何とも言えないんだよね。怪しいってだけで、決定的な証拠は何もないし」

「そうだなぁ。二人の不在の理由は聞けたか?」

「うん。筆頭執事の方は体調不良で、メイド長は故郷の両親が事故に遭ったとかで見舞いに行くとか何とからしいよ」


 ライトがウォーベック家の子供達から聞いた情報をレオニスにも伝える。


「うーん、怪しいことには違いないが……今すぐ追うほどの優先度ではないなぁ」

「そうなんだよねー。その筆頭執事やメイド長の後を追うにしても、何らかの口実がないと難しいよねぇ」

「だなぁ。筆頭執事やメイド長と全く面識のない俺達が見舞いしたいとか言うのも、普通におかしいというか絶対にあり得んしなぁ」


 そう、いくら怪しい嫌疑があっても極秘調査である以上、ライト達は大手を振って調べることができないのだ。


「だから、もし調べるなら後回しでもいいかなって。今のところプロステス領主邸には異変もなさそうだし、もしかしたらその筆頭執事やメイド長もそのうち領主邸に戻ってくるかもしれないし」

「そうするか。俺もこれからちょくちょくプロステスに行くことになったから、その都度領主邸内の様子を見てくるわ」

「ん?レオ兄ちゃん、これからプロステスに通うの?」

「ああ、領主から直々に炎の洞窟の調査依頼を受けてな」

「えっ、そうなの!?」


 話の流れで、レオニスが昨晩アレクシスから依頼された炎の洞窟調査のことをライトにも伝える。

 アレクシスがレオニスに何らかの依頼をし、それをレオニスが受けたであろうことはライトも遠目から見て察してはいたが。まさかその依頼が炎の洞窟に関することだとは、ライトも全く予想だにしていなかった。

 そしてレオニスがアレクシスから伝え聞いた、現在プロステスの置かれている危機的状況を話していく。


「そうだったんだ……確かに昨日のプロステスは、とても冬とは思えないような暖かさだったけど……かなり危ない状況なんだね」

「ああ、このままではプロステスは人の住めない死の街になるだろうな。夏場だけとはいえ、ノーヴェ砂漠より暑い日もあるとか洒落にならん」

「その原因が、火の禍精霊の大量発生、なの?」

「それまでに派遣された調査隊が言うには、洞窟の奥どころか入口付近でもう禍精霊が出てくるらしい。そもそも禍精霊なんてのはそこら辺に転がってるような魔物じゃないからな、そんなもんがうじゃうじゃ出てくること自体が既に異常事態だ」

「そうだね……」


 ライトはこの『禍精霊【火】』の存在を知っていた。もちろんそれは前世のゲームBCO知識からだ。

 久しぶりに出てきたBCO由来の言葉を聞き、ライトは脳内で記憶をサルベージする。



『禍精霊【火】か、こりゃまた懐かしい名前が出てきたな』

『あれはレアスキルやレアアイテムを落とすから、たまーにそれ目当てに狩りに出たことはあったが……』

『だが、禍精霊ってレアモンだよな?エンカウント率1%とか2%程度で、捕まえたくてもそうそう滅多に遭遇しないのに』

『それがうじゃうじゃ出てくるって、完全におかしいだろ……一体どうなってんだ?正真正銘の異常事態じゃねぇか』



 ライトの知識では、禍精霊も精霊の一種で【火】に限らず他の属性【風】【水】【地】【光】【闇】全てに存在する。

 そしてこの禍精霊はいわゆる『レアモンスター』というやつで、エンカウント率が他のモンスターに比べてかなり低い。さらには中ボス程度の強さでHPも2万~3万はあり、それなりの装備で挑まなければ倒せない。そこそこ厄介な敵だ。

 そんな魔物が洞窟内をうじゃうじゃレベルで闊歩しているとか、ライトにとっても予想外の事態である。


 ライトの考え込む様子に、レオニスが心配そうに顔を覗き込んだ。


「ライト、どうした?怒ってるのか?」

「ん?別に怒ってはいないけど……何で?」

「いや、炎の洞窟にいっしょに行こうって約束したばかりだろ?」

「……あー、そういや約束したね……」


 そう、ライトとレオニスはプロステス領主邸内に飾られた炎の女王の肖像画の前で、いつか二人でいっしょに炎の洞窟に行こうという約束を交わしたばかりだった。

 よもやその直後に、レオニスに炎の洞窟調査依頼が来るとは夢にも思わなかったのだ。


「んー……本音を言えば、レオ兄ちゃんといっしょに炎の洞窟調査に行きたいけど……ぼく、まだ冒険者じゃないし」

「ん?そのことなら別に問題はないぞ?」

「え。そなの?」

「ああ。今回の仕事は冒険者ギルドを通した依頼じゃないからな。あくまでプロステス領主から俺個人に来た依頼だ」

「理屈としてはそうなるんだろうけど……」


 本当は炎の洞窟にいっしょに行きたい、という本音を漏らすもついていくことはできないだろうと諦めかけるライト。

 それに対して、シレッとした顔で『問題ない』と言い放つレオニスに、ライトは驚きの顔を隠せない。


「俺個人に来た依頼である以上、冒険者ギルドの規定に縛られる必要はない。誰と組んで行こうが、どういった成果になろうが、全ては自己責任だ」

「もちろん良いことばかりじゃないぞ?自己責任なんだから、最悪それがもとで死んだり手足を失うような大怪我を負っても誰も責められない。自分で選んだ道だからな」


 レオニスがいつになく真剣な顔で説く。


「ただし。まだ10歳にもならん子供のお前に、完全自己責任なんて重い枷を背負わせるつもりはない」

「最奥まで連れていけるかどうかは分からんし、約束もできん。だが、小手調べの入口付近や間引きのための禍精霊狩りくらいなら、準備を万全に整えた上でライトも連れていってやれると思う」

「とはいえ、炎の洞窟は今かなり危険な状態にあることは間違いない。……どうする、それでも行くか?」


 レオニスの放つ静かな問いかけに、ライトが出す答えは唯一つ。


「うん!いっしょに行く!」

「レオ兄ちゃんの足を引っ張らないように頑張る!炎の洞窟まで行ってみて、駄目そうだったらおとなしく諦める。絶対にレオ兄ちゃんに迷惑はかけない!」

「……そうか。それでこそグラン兄の息子だ」


 間髪容れずに即刻首肯したライト。その目はキラキラと輝き、奮起する様がありありと見て取れる。

 そんなライトの姿に、ライトの父グランの面影を見るレオニス。

 レオニスはその大きな手でライトの頭をくしゃくしゃと撫で、嬉しそうな笑みを浮かべていた。





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 まずはちょっとだけ補足。

 前話にてレオニスがアレクシスに依頼を持ちかけられた際に、少しだけ考え込む仕草がありましたが。これは二つのことを考えていました。

 一つはライトと交わしたばかりの約束をどうしようか、ということ。もう一つは、その約束を守るべくライトもともに炎の洞窟に連れていけるかどうかの是非。

 それらを考慮した結果が、本日更新終盤で出てきたタイトルの文言『自己責任と選択』だったのです。


 そして。前書きにも書きました通り、本日第300話目の更新です!ヽ(゜∀゜)ノキャッホーィ!

 ……その割には内容が地味ーな報告会というのが甚だ残念なんですが( ̄ω ̄)

 こればかりは一連の流れにてどうしようもありません。

 ですが!その代わりと言っては何ですが!文字数6000字の増量マシマシでございます!……ウソです、それも内容的に区切りをつけられずに大増量なってしまっただけですぅ_| ̄|●


 こんな適当な作者の生み出す拙作ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。

 次は第400話目指して頑張ります!

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