師走は大忙し

第279話 新種の素材

「5ページ目はこれで全部クリアしたから、早速次のクエストページに……」

「いや、それより先に5ページ目報酬のイノセントポーションとセラフィックエーテルのレシピを見ておくか」

「多分この先のクエストのお題で両方とも出てくるだろうからな」


 クエストページ5ページ目の報酬を全部受け取り、ページトップのタイトル文の完了承認も得たライト。

 クエストの最新ページをチェックする前に、先程のクエスト報酬で得た新しい回復剤類のレシピに目を通すことにする。

 ちなみにレシピ類は、マイページ内に新しく出現した『レシピコレクション』というページに収納されており、一度獲得したレシピは見たい時にいつでも閲覧できるようになっている。



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 ☆イノセントポーションレシピ☆


【材料】

 単眼蝙蝠の羽5個

 エクスポーション3個

 エネルギードリンク2滴

 巌流滝の清水2個

 地虫の大顎3個


 これらを混ぜ合わせて【遠心分離】1回かけて濃縮する



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 ☆セラフィックエーテルレシピ☆


【材料】

 螢光花の花弁5枚

 アークエーテル3個

 エネルギードリンク2滴

 聖魔の泉の湧水2個

 暗黒茸の柄3個


 これらを混ぜ合わせて【遠心分離】1回かけて濃縮する



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 レシピに表示された各種素材リストを見ながら、メモに書き留めて今後の算段を考えるライト。


「お、単眼蝙蝠の羽か。これはオーガの里の襲撃事件の時にアホほど回収したからたくさんあるわ、ラッキー!」

「地虫の大顎、これはビッグワームの素材だからドラグエイト便のシグニスさんに相談してみようかな」

「螢光花と聖魔の泉の湧水、暗黒茸の柄は新たに調達しなきゃなー……これ、全部セラフィックエーテルの方か、チッ」

「逆にイノセントポーションは地虫の大顎さえ入手すれば作れるから、こっちの方を先に揃えるか」


 メモの書き留めを終えたら、次はクエストページの最新6ページ目のチェックだ。

 久しぶりのイベント進行に、ライトはちょっとだけ高揚しながらイベントページを開いた。



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 ★小人族の危機に備えよ act.3【退魔の聖水】を作ろう!★


 〔退魔の聖水 原材料〕

【26.紫牙蘭の花弁10個 報酬:スキル書【詳細鑑定】 進捗度:0/10】

【27.濃縮イノセントポーション1個 報酬:甚三紅色の香炉1個 進捗度:0/1】

【28.聖魔の泉の湧水3個 報酬:エネルギードリンク1ダース 進捗度:0/3】

【29.濃縮セラフィックエーテル1個 報酬:水縹色の香炉1個 進捗度:0/1】

【30.緑のねばねば1個 報酬:魔法のビーカー1個 進捗度:0/1】



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「ほほう、【闘水】の次は【退魔の聖水】ときたか……」

「でもって、濃縮イノセントポーションに濃縮セラフィックエーテルとな……やっぱり前報酬にレシピが出てきたのはこれの前振りだったか」

「これも濃縮するためには濃縮エクスポ同様、最低でも5個づつは必要になるんだろうな」

「……ん?おい、ちょっと待て……ラストのスライム系素材、『ぬるぬる』から『ねばねば』にランクアップしてんじゃねぇか!」

「ぐああぁぁッ!なんてこった!……くっそー、これ、どうすべ」


 今回の生産アイテム【退魔の聖水】、これは先日ライト達が八咫烏の里と巌流滝の往復の際に使用した『魔物除けの呪符』と同様の効果を発揮する消費系アイテムだ。

 ただし、使用方法や効果はかなり異なる。【退魔の聖水】の魔物除けの効果は一瓶使用で半日とかなり長いが、飲用不可で主に建物やテントなどに使う。

 つまり野外での就寝中に魔物に襲われないようにするための、簡易的な防御結界を張るようなものである。


 この【退魔の聖水】があれば、冒険者になってから長期遠征時に重宝することは間違いない。これが作れるようになれれば、どのパーティーからも引く手数多になるだろう。

 しかし、ここにきてライトの前に難題が立ちはだかる。

 それは『スライム系素材問題』である。


 これまでの各ページのラストのクエストは、スライムからドロップするぬるぬるがお約束の流れだった。

 だが、スライム系素材は実はぬるぬるだけではない。

『ぬるぬる』『ねばねば』『べたべた』の三種類が存在するのだ。

 素材のランクもそれぞれ違いがあり、『ぬるぬる』が一番低いノーマルランク、『ねばねば』は中級のレア、『べたべた』は上級のスーパーレアに相当する。


 そして、本来ならばこれらぬるぬる等のスライム系素材は他の素材同様に狩ることで得るアイテムである。

 だが、ライト一人で魔物狩りをすることは年齢等諸々の事情によりまだ許されていない。

 それ故、魔物狩りを回避しながらぬるぬるドリンクを代用することでイベントクリア判定を得ていたのだ。


 だがそれは、原料が同じぬるぬるだったからこそ通用していた裏技である。

 クエストが進んで難易度が上がり、要求素材がぬるぬるからねばねばにランクアップしたということは、これまでのようなぬるぬるドリンクでの代用は実質不可能になったことを意味していた。


「はーーー、この先のクエストではもうぬるぬるドリンクは使えんか……こりゃいよいよ本格的にスライム狩りしなきゃならんかなぁ……」

「まぁ攻撃スキルは既に物理必中の【手裏剣】を取得済みだから、よほど強くて巨大なスライムでない限りは普通に勝てるはずだが……」

「さすがにまだ俺一人での単独魔物狩りの許可はもらえん、よなぁ……まだジョブの適正判断も受けられん歳だし」

「んーーー、最悪こっそり狩るという手もあるが……まずは何か他にいい手段がないか考えながら、今の時点でも集められそうな他の素材探しや濃縮エクスポ濃縮アクエ作りを進めていくか……」


 ライトは頭を抱えながらも、今の段階でできることをこなしていこうと考えた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 久しぶりのクエストイベント進行に夢中になっていたライトだったが、ふと気がつけばもう昼食時間になっていた。

 冬休みの間はラグナロッツァの屋敷でラウル達と昼食を摂ることになっているので、ライトは転移門でラグナロッツァに移動する。

 食堂に入ると、ラウルとマキシがちょうど昼食の支度をしていたところだった。


「おう、ライトか。もうすぐ昼食の準備が終わるから座って待ってな」

「うん、冬休みの間はお世話になるね。マキシ君もよろしくね」

「こちらこそ!これからもこのお屋敷で皆と過ごせることになって、とても嬉しいです!よろしくお願いしますね!」


 マキシがにこやかな笑顔で、ライトに改めてよろしくの挨拶をする。

 三人分の食事の支度ができ、皆席についてから「いっただっきまーす!」の挨拶とともに昼食を食べ始める。


「マキシ君の希望が叶って、本当に良かったね!」

「はい!これもライト君やレオニスさん、そしてラウルのおかげです!」

「そしたら、マキシ君はこれからどうするの?何かしたいこととか、やってみたいこととかあるの?」

「それなんですけど……僕はこれから何をしたらいいか、どうすべきか、まだ全然思いつかなくて……」


 ライトの素朴な疑問に、マキシは少しだけ俯きながらしょげている。


「まぁねぇ、今までずっと魔力が少ないと思っていたのが実は間違いで、急激に魔力を取り戻したばかりだもんねぇ。環境がガラリと変わり過ぎて戸惑っちゃうのも分かるよー」

「はい……」

「今はラウルの仕事のお手伝いしてるんでしょ?」

「はい。まずは人里での暮らしに慣れるために、ラウルについていろんなことを教えてもらってます」

「そういえば、前にヨンマルシェ市場でラウルといっしょにいたところに会ったよね。人見知りの方はどう?」

「市場の買い出しでは、いろんなお店でいろんな人と話したりするので……だいぶ慣れてきた、と、思い、ます……」


 ライトの諸々の質問に、かなり自信なさげに話すマキシ。


「ラウルの目から見て、市場でのマキシ君はどう?」

「んー……市場の人々に馴染めるように、頑張って一生懸命に接してるとは思うぞ?」

「そっか、なら大丈夫だね!」

「だといいんですが……」


 ラウルやライトからの太鼓判を得て、マキシは照れ臭そうにはにかむ。


「とりあえずもうしばらくはラウルについて、人族の常識とか生活習慣なんかを学んでいくといいと思うよーラグナロッツァに来てからまだ三ヶ月程度だし、まだまだ分かんないこともいっぱいあるでしょ?」

「そして、いろいろ学んでいるうちにマキシ君にも何かしたいこととか見つかったら、また皆に相談してくれればいいよ」

「これからマキシ君にも、何か熱中できるような趣味とか夢中になれることがたくさん見つかるといいね!」


 ライトはマキシに対して『何かしたいことはある?』とは聞いても『何か行動しろ』とは絶対に言わない。

 マキシがこれまで受けてきた生まれ故郷での理不尽な仕打ちを見てきたからこそ、そんなことは絶対に言えない。むしろまだしばらくはのんびりと休息しててもいいくらいだ、とライトは思う。


 だが、屋敷に篭りっきりなのもそれはそれで不健康な状態に陥りやすいのも事実だ。

 人族のように学園に通ったり外で仕事をするなどはできないだろうが、それでもマキシの気が紛れる程度には外の空気にも触れなければ悪循環になってしまう。

 そうならないように、マキシのしたいことが見つかることを願うライト。


 そうしたライトの気遣いは、マキシにも当然伝わってくる。

 相手に寄り添う気持ちが、ただただ嬉しかった。


「はい……僕もいつかラウルのように、ライト君やレオニスさんのお役に立てるようになりたいです!」

「うん、無理しない程度に頑張ってね!」

「はい!」

「…………」


 マキシに目標としてその名を挙げられたラウル、プシューーー……と音を立てて顔を赤くする。

 もともと料理の腕以外では褒められ慣れていないラウル、親友にダイレクトに褒められて照れ隠しの反論すら浮かばないようだ。


 ニコニコ笑顔のライトとマキシに、手で口元を隠しながら目線が斜めに泳ぐラウル。

 年の瀬も押し迫ったラグナロッツァの屋敷での、平和なひと時であった。





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 えー、私事にて大変申し訳ないのですが。急遽明日から二日ほど家を空けることになりました。

 出先からの更新はちょっと無理そうなので、明日の10月12日と明後日の10月13日は更新をお休みさせていただきます。

 明々後日の10月14日は必ず更新再開しますので、ご了承の程よろしくお願いしいたます。


 ※※※※※※※※※※


 クエストイベントも進行するにつれ難易度が上がり、ついにぬるぬるの上位種『ねばねば』が新たに登場しました。

 しかもこの『ねばねば』は中位種で、さらにその上の『べたべた』なる素材も存在します。

 何というか、粘度の高いものほどドロップ率が低くて稀少性が上がる感じですかね。そのうち未知の新アイテム『ねちょねちょ』とか発生するかも。


 そしてそれらのレア度は作中でも言及していますが、レア度の表記について一応調べてみたところ。やはり個々によって様々なのですねぇ。そりゃまぁ度量衡のように国際的な取り決めのあるような事柄でもないですし。

 でも、ウルレアだのシクレアだのに留まらず、スーパーウルレアやらレジェンドレアやらまぁいろいろありすぎて訳分かんない!

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