第196話 クエストイベント開始

 ライトと長が和解の握手をした時に、森の奥の方に行っていた衛士がライト達のもとに戻ってきた。その手には何かがしっかりと握られている。

 衛士は長の横に来て、その何かを長に渡した。


「長、言われたものをここにお持ちしました」

「うむ、ご苦労であった」


 長は衛士から受け取ると、ライトの方に身体を向き直した。


「こちらを彼の御仁の弟御にお貸ししよう。これは我等が認めた者にのみ、貸与することを許される品。貴君が里の友であり、我等の友であることを示す証だ」

「すまぬが、手をこちらに出していただけるか?」


 ライトは長に言われた通りに、長の前にとりあえず右手を差し出す。

 長はライトの右手首に、先程衛士が持ってきた勾玉の首飾りのようなものを括りつけた。

 見た目的にはちょうどブレスレットのようになった。


「これは【加護の勾玉】といってな。これを身につけている間は、結界に阻まれることなくこの里の中に入ることができる」

「ひとまず貴君の話を中で聞こうではないか。彼の御仁の弟御ならば、中に入った途端に無体なことや豹変したりもするまい」

「貴君を里の客人として歓迎しよう」

「……!!」


 長の言葉に、ライトの顔はパァッと明るくなり、満面の笑みが浮かぶ。


「ありがとうございます!」

「ぼくの名前はライトです。えっと、貴君とか弟御とかそんな大層なものでもないですし、何だか恥ずかしくてむず痒いので……ぼくのことは、ライトと呼んでください!」

「承知した。我等の真名は教えられぬが、後ほど個々で呼称なり愛称なりお教えしよう」

「はい!」


 ライトは長とともに森の奥に入っていく。

 先程むにょん、と弾き返された結界のあった辺りを通り過ぎても、何の抵抗もなく歩を進められた。加護の勾玉の効力がバッチリ効いているようだ。

 長の前を衛士が歩き、長の後ろをついていくライト。

 二体の案内により、ライトは小人達の集落に入っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 長達の案内で奥に入っていく間に、ライトは歩きながらマイページを開いてみた。

 イベント欄の【湖の畔に住む小人達の願いを叶えよ】をクリックして詳細をチェックするライト。すると、イベント名の下に新たなウィンドウが開いている。

 そしてそのウィンドウ内には、これからこなすべきクエストが複数個書かれていた。



『よし!これでようやくイベントが開始したようだ』



 ライトは内心でガッツポーズを取る。

 どうやらライトの予想通り、小人達の集落の中に入ることでクエストイベントが発動したようだ。

 ウィンドウに出てきたクエストは、次のような内容だった。



 ====================



 ★小人族の人達と仲良くなろう!★


【クエスト1.ポーション1個 報酬:100G 進捗度:0/1】

【クエスト2.エーテル1個 報酬:100G 進捗度0/1】

【クエスト3.ポーション10個 報酬:1000G 進捗度:0/10】

【クエスト4.エーテル10個 報酬:1000G 進捗度:0/10】

【クエスト5.橙のぬるぬる1個 報酬:ブロードソード 進捗度:0/1】



 ====================



 まず、クエストをクリアするにはお題目の通りに進捗度を満たすことが必要だ。この進捗度を完全に満たすことで、報酬を受け取ることができるようになる。

 そして、報酬を受け取ればそのクエストは完了となる。


 ちなみに、クエストは基本的に1ページにつき5個づつ出てくる。消化の順番は順不同で、同じページ内のものなら好きな順でこなしてもいいことになっている。

 ただし、次のページに進むにはページ内のクエストを全部完了させなければならない。ページ内の5個のクエストを全部クリアして報酬を全て受け取り完了することで、新たなクエストが書かれたページが出てくる仕様なのだ。

 そうしてクエストページを更新していくことで、イベントを進めることができる仕組みである。


 当然のことながら、クエストを進めてページが更新される毎に難易度も徐々に上がっていく。

 もちろんその分報酬も豪華なものになっていくので、結構やり甲斐のあるイベントだ。

 しかし、ここでライトは出てきたクエスト類を見ながら疑問が浮かぶ。



『そういや『ポーション1個』『エーテル10個』等々あるが、これらのクエストはどうやればクリア判定が出るんだろう?』

『ゲーム内では、クエスト対象のアイテムを冒険で入手すれば進捗度のカウントが勝手に進んでいって、そのうちクリア判定が出てクエストを進めていくことができたが……』

『この世界では、一体どうやって進捗度を進めていけばいいんだ??』

『まさか、そこら辺にポーションやエーテルを適当に撒き散らしていけばいいってもんでもないだろうし……』

『つか、橙のぬるぬるなんてどうすりゃいいんだ……あれ、もともとはオレンジスライムから採れる装備品の強化用素材の基材だぞ?』



 ゲームでは、ユーザー個人が特に計算や集計などせずともゲームシステムが取得アイテムをカウントして進捗度を進めていってくれた。

 だが、この世界でクエストイベントを発動させるのは初めてのことなので、勝手が全く分からないのだ。


 ここで、ライトはふとイベントタイトルを思い出す。



『そういや、このイベントのタイトルは【湖の畔に住む小人達の願いを叶えよ】だったよな……』

『てことは、里の中の誰かの願いを叶える、という体でクエストで出されたアイテムを渡す、とかすればいいのかな?』

『うーん……これもしばらく様子を見ながら試してみないと分からんかな……』



 そんなことを考えながら歩いていると、広場のような開けた場所に到着した。小人達が集会を開くためのような場所なのだろうか?

 ライトの先を歩いていた長が、ライトの方に向かって話しかけて。


「ライト殿、すまぬがこの広場での対応でよろしいか」

「何しろライト殿は我等の背丈の倍以上は大きいのでな、ライト殿が難なく入れるような建物がないのだ」

「椅子なども出せぬが、よければここで寛いでくれ」


 長の言うことはもっともだった。

 小人達の集落に、人間用の家や家具などあろうはずもない。


「あ、ぼくは全然平気なので気にしないでください!」

「そう言ってもらえると助かる」


 ライトと長がそんな会話を交わしている間に、里の者達が広場に集まってきた。口々に「何だ何だ」「何が起きた?」「何故こんなところに人間が!?」などと騒がしく、慌てふためいているようだ。

 そんな里の者達に、長が語りかけた。


「皆の者!驚くのはよく分かるが、聞いてくれ」

「こちらの人族の子供、ライトという名の者は里に仇なす存在ではない」

「何故ならば、このライト殿はカタポレンの森の守護神であるレオニス・フィア殿の弟御であるからだ」

「しかもライト殿は、我等と同じ森の友である幻獣カーバンクルや精霊ウィカチャとも親睦を深めておられる」

「今もライト殿の両肩に、カーバンクルとウィカチャが乗っておられるのがその証だ」


 長にその名を出されたフォルとウィカが、それぞれに「キュウ?」「うなぁーん♪」と可愛らしい返事をする。

 ざわざわとしていた空気が、フォルとウィカの返事する姿を見てさらにざわつきが加速する。

 だがそのざわつきは、先程の懐疑的なものから一転して良い意味での驚愕に変わっていた。


「彼の御仁の弟御であり、森の友とも親しくなれる者が我等を害する道理などない」

「今日はこの里の存在を知ったライト殿の方から、我等と友誼を深めるためにお越しくださったのだ」

「だから、皆の者も取り乱す必要などない」

「ついてはライト殿を歓迎するための宴会を、今からこの中央広場にて開く。皆も今日は仕事は無しだ、皆でライト殿を歓迎しようではないか」

「皆の者、ライト殿をもてなすための宴会の準備をしてくれ」


 長が宴会の宣言をすると、集まってきていた小人達は歓声を上げた。

 そして長の指示通り、皆宴会の準備のために各々が動き出して方々に散っていく。彼らの顔は喜びに満ち、とても嬉しそうに見える。

 小人や妖精は宴会が好き、という定番の設定が前世の創作物でもよく見受けられたが、この世界の小人達も宴会が好きなようだ。


 ライトとしても、イベントのため云々を抜きにしてこのように小人達に歓迎してもらえることは純粋に嬉しかった。

 前世の現代日本ではTVや映画、漫画、アニメ、ゲーム等空想の世界にしか存在しなかった小人が、各々の意思でわらわらと動き回り実に楽しそうに過ごしている。

 その光景はまさにファンタジーと呼ぶに相応しい。


 ライトは今、自分の目の前で繰り広げられている温かい光景に感動していた。





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 この手のクエストイベント、ソシャゲやRPGゲームにはつきものというか定番イベントですよねー。作者もRPGゲーム等好きで昔はよくやってましたが、ゲーム進行そっちのけでアイテム拾いに没頭したものでした。

 ほらー、昔からの諺にもあるじゃないですかー、『備えあれば憂いなし』って!

 まぁ、備えどころか必要以上に集めまくるコレクター魂を満たしていただけ、とも言いますが。

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