第187話 お持ち帰りアイテムの山

 その後はまた和やかな会話で過ごし、龍虎双星のメンバーも満足気に帰っていった。

 龍虎双星のメンバーの帰りを見送った後、ライトはレオニスとともに客間に戻り一息ついた。


「レオ兄ちゃん、今日もありがとう。龍虎双星の人達の話を聞けて、本当に良かった」

「いや、俺も神殿のことを知りたかったからな。だから昼間も冒険者ギルド総本部に行って、回復師や祈祷師のやつに聖遺物の話を聞いてきたし」

「レオ兄ちゃんの方も、何か情報得られたの?」


 レオニスが日中不在だったのは、やはり聖遺物に関する情報収集に出かけていたからだったようだ。


「あの聖遺物の名前や、聖剣と魔剣の両面を持っているという話は聞いた。さっきのネヴァンの話と同じだし、そのくらいなら信徒全員が知ってて当たり前なんだろう」

「だが、それ以上のことは聞けなかったな。魔剣としての性質や聖剣の時の姿とかその効果、そういった肝心要のところは上層部にしか伝えられていないんだろう」

「そうなんだ……じゃあ、龍虎双星の人達にわざわざ来てもらうこともなかったかな」


 少しだけしょんぼりとするライト。

 レオニスが冒険者ギルドにいた仲間から得た情報と大差なかったなら、龍虎双星の人達をわざわざ屋敷に呼んで来てもらったのも無駄足だったのかもしれない。

 そんな落胆の色を浮かべるライトに、レオニスは優しく諭す。


「そんなことはないぞ?モルガーナの同級生の話も聞けたし、代替わりした新しい総主教が方針転換したことまでは俺の方では聞いてなかった」

「だから、今日は龍虎双星の五人に来てもらったのは正解だったな。彼らから貴重な話を聞けて良かったよ」


 ライトの落胆を見透かした上で、ちゃんとフォローするレオニス。

 確かにレオニスが聞いて回ったのは聖遺物に関すること限定だったので、その情報しか得られていなかったのだ。


 二人でそんな話をしていると、来客中は二階で過ごしていたマキシとフォルが降りてきてライト達のいる客間に来た。

 それとほぼ同時に、晩餐の後片付けを済ませたラウルも客間に戻ってきた。


「あっ、ラウル、お疲れさま。晩餐のおもてなしもありがとうね、今日もラウルのご馳走美味しかったし、お客さん達もすっごく喜んでたよ!」

「おう、ライトもお疲れさま。聞きたい話は聞けたか?」

「うん。おかげさまでいろんなお話を聞けたよ」

「そうか、良かったな」


 ラウルがライトを労うように、ライトの頭をポンポンと軽く撫でる。


「マキシ君もフォルを預かってくれてありがとうね。フォル、良い子にしてた?」

「フォルちゃんはずっと良い子でしたよ!むしろ僕の方がフォルちゃんに癒やしてもらってたくらいですし」


 客間に入るなり、抱っこされていたマキシの手を離れてライトのもとに飛び込んできたフォル。

 そしてそのフォルといっしょに客間に入ってきたマキシ、本当にニッコニコの笑顔だ。思う存分フォルを眺めたり、とっておきのおやつなどをいっしょに食べたりしてマキシ的にはさぞ大満足な時間を過ごしたに違いない。


「マキシ、羨まし過ぎるぞ……次は俺もフォルといっしょに二階に篭もる!」

「えー、ラウルはこのお屋敷の執事でしょ?この家にお客さんが来たら、執事として絶対におもてなししなくちゃならないから二階に篭もるのは無理じゃない?」

「うぐっ……」


 ラウルの羨望の眼差しを、バッサリと正論で返り討ちにするマキシ。幼馴染相手だからか、なかなかに容赦ない仕打ちである。

 だが、紛うことなき正論だけにラウルも反論できず打ちひしがれる。

 二人のそんなやり取りを見ていたライトは、苦笑いしながらラウルに話しかける。


「そしたら今度、フォルをラグナロッツァに連れて来た時にはラウルといっしょにお留守番してもらうね」

「何っ!本当だな!?ライト、絶対に絶対だぞ!?」


 ライトの言葉を受けて、ラウルがガバッ!と顔を上げてその目を輝かせている。

 やはりフォル信者第一号という栄誉はラウルにこそ相応しい。


「じゃ、ぼく達はそろそろカタポレンの森に帰るね」

「おう、そうだな。明日の学園は普通に通えそうか?」

「うん、体調の方はもう大丈夫。明日も普通に通えるよ」

「そうか、そりゃ良かった。じゃあ、また明日な」

「ラウルもマキシ君もお疲れさま。また明日ね!」


 ライトはそう言うと、レオニスとともにカタポレンの森に帰っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 転移門でカタポレンの森の家に戻った、ライトとレオニス。


 もともとこの転移門は、ライトがラグナロッツァのラグーン学園に通うために設置されたものなので、その利便性を考慮して主な使用者たるライトの部屋の隅にある。

 だが、この転移門を利用して出入りするということは、ライトの部屋は転移門を使って来るライト以外の者にも丸見えということである。とはいえ、それは現状ではほぼレオニスにしか該当しないのだが。


 故にライトは誰に見られてもいいように、常々自分の部屋をきれいに片付けているのだが、今日に限っては若干散らかって見える。

 何故かと言えば、机の上を中心にフォルが外から持ち帰ってきた様々なアイテムがまだところどころに散らばっていたからだ。

 レオニスもライトが倒れて以来、ラグナロッツァに詰めっきりでカタポレンの家には全く帰ってこれていなかったので、この惨状?を目にするのは初めてである。


「これ……フォルが外に出ている時に持って帰ってきた物か?」

「え?……う、うん、多分そうだと思うよ」

「にしてもまぁ、何やらたくさんあるな。一体何を拾ってきてるんだ?」

「今から片付けがてら、全部確認しておくよ。もしかしたらフォルにとっての宝物もあるかもしれないから、ぼくが勝手に捨てるのは良くないと思うし」


 ここでまさか『フォルは使い魔で、お使いに出すことでいろんなアイテムを拾ってきてくれるんだよ!危険な物は絶対にないよ!』などという真実を、レオニスに明かす訳にもいかない。


「そうか、まぁここはお前の部屋だしな。カーバンクルのフォルが拾ってくるもんなら、爆発したり猛毒だったりの危険な代物もないだろうとは思うが」

「それでももしライトが見てもよく分からないものがあったら、俺に聞けよ?特に草花や木の実、キノコの類いは食用もあれば猛毒のものもあるからな」

「そこら辺があったら分けておけよ、後で俺が確認するから」

「はぁーい」


 レオニスはそう言うと、ライトの部屋から出ていった。

 何とかやり過ごせたことに、ライトはふぅ、と一息つきながら改めて部屋の中のところどころにまだいくつか散逸していたアイテム類を集めて机の上にひとまとめにする。

 フォルが持ち帰ってきたアイテム類は、主に薬草やポーション、エーテルなどの回復剤系アイテムが多かった。他には月見団子やチョコチップクッキー、ヴィンテージワインなんて珍しい品もある。


 それらをひとつひとつ手に取りながら、マイページのアイテム欄に収納していく。


 後でレオニスに見せても問題なさそうなものをいくつか残しておいて、テキパキと仕分けしていくライト。

 雑然としていた机の上のアイテムがどんどん整理されていき、アイテムの山がほぼ消えて片付け終えようとしていたその時。


「……ん?これは……」


 ライトが見つけた、最後のアイテム。

 それは新たな【使い魔の卵】であった。





====================


 自称人見知りの軟弱者のラウル、なまじ執事なんて肩書を持っているせいでお客さんが来たらちゃんとした対応をせねばなりません。奥に篭りっきりの執事なんて話になりませんからねぇ。

 フォルを人目から隠すという大義名分のもと、堂々と篭っていられるマキシのことがさぞ羨ましいに違いない。

 でもまぁラグナロッツァの屋敷に人が招かれること自体が滅多にないことなので、たまには執事として働いてもバチは当たらんでしょう!

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