第173話 三つの条件
アイギスでの話し合いを済ませ、カタポレンの森の家に戻るライト。
家にはレオニスが既に森の警邏から戻って帰ってきていた。
「レオ兄ちゃん、おかえりー。そしてただいまー」
「ライト、おかえりー。どこ出かけてたんだ?」
「アイギスのカイさん達のとこだよー」
「何だ、カイ姉んとこ行ってたんか?何か用事でもあったんか?」
「うん、そこら辺は晩御飯食べながら話すよー」
「了解ー」
そう言いながら、二人は今夜の晩御飯の支度を始める。
全て整えたところで、レオニスはいそいそと空間魔法陣からたくさんの野草やら草花、キノコに木の実などを取り出しては、種類毎に皿を分けて乗せてテーブルの上に置いていく。
何のためにそんなものを山ほど出すかと言えば、当然の如くフォルのためである。
「森の警邏のついでに、いろいろと採ってきたぞー」
「レオ兄ちゃん、またたくさん採ってきたねぇ……」
「おう、フォルの好みがどんなもんかまだ全然分からんからな」
「ありがとう!ある程度分かればレオ兄ちゃんの空間魔法陣に入れておいてもらえるもんね」
その量を見るに、森の警邏そっちのけで採取の方に全力で励んでいたんじゃないの?と思わず疑ってしまうが、レオニスがあちこち見回るだけで警邏になるのだから森の恵みの採取と兼ねていても何ら問題はないのだ。
というか、『森の警邏のついでの採取』がそのうち『採取のついでに森の警邏』に逆転してしまうのではなかろうか。まぁ、逆転したところでどちらも抜かりなく遂行できてさえいればこれまた何の問題もないのだが。
さて、その警邏のついでの採取の成果だが。山盛りに積まれた野草やら木の実と違い、葉っぱが三枚とか蔓が二本だけという極小量のものが置かれた皿がいくつかある。
それらを見たライトが、不思議に思いながらレオニスに尋ねる。
「レオ兄ちゃん、この少なめのやつは一体何?もともと採れる量が少ない種類とかなの?」
「ああ、それは人間には毒の成分が含まれているやつだ」
「えッ、そんなのも採ってきたの!?」
「獣の中にはこういうのを好む種類もいるからな。まぁカーバンクルが食べる可能性は少ないとは思うが、一応確認のためにな」
まぁ確かに、前世で言うところの『蓼食う虫も好き好き』だとか、コアラの主食は毒性のあるユーカリなことで有名とかの事例もあるにはある。
ライトも蓼やコアラの例を考えると、レオニスの話はごもっともだとは思うのだが、まさかフォルの食用サンプルに毒草まで採取してくるとは考えてもなかった。
ライトはレオニスから返ってきた答えに渋い顔をする。
「んー……まぁ、食べなかったら次にはもう採ってこなきゃいいだけの話だけど……」
「そゆこと。もし万が一食べた後に様子がおかしくなったとしても、何が原因か最初から分かってるからそれに応じた解毒魔法かければいいしな」
そんな二人の会話を他所に、フォルは木の実やいくつかのキノコを美味しそうに食べている。特に木の実とキノコが好きなようで、たまにキノコを食べてはすぐにまた木の実の皿のところへ戻り、これまた実に美味しそうにポリポリと食べていた。
「んー、フォルは木の実とキノコが好きっぽいね」
「そうだな。今はちょうど秋だし、たくさんの木の実やキノコがなる旬の時期だから今のうちにできるだけ確保しておくか」
「うん、ぼくも木の実を中心に探しておくね」
そんな会話をしながら、ライトとレオニスも晩御飯を食べていく。
ちなみにお試しで採取してきた毒草や毒キノコの類いは、フォルには見向きもされなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
晩御飯が済んでから、食後の飲み物を手に居間に移動する二人と一匹。
ライトはそこで、日中アイギスを訪ねた経緯をレオニスに話して聞かせた。
「フォルのための魔導具か。そうだな、それは絶対に必要だな」
「でしょ?だからカイさん達に依頼しに行ってたの」
「金は俺が出しておけばいいか?」
「あ、そのことなんだけど……」
ライトはカイから持ちかけられた、御守や装飾紐の取引のことをレオニスに報告した。
カイからは正式な商取引として提案されたこと、ライトはその提案を引き受けたこと、その報酬は自分のお小遣いとして貰うことなどを話していく。
ライトが懸命に話している間、レオニスは真剣な顔つきで静かに聞いていた。
「保護者であるレオ兄ちゃんに相談する前に、引き受けてきちゃったけど……いいよね?」
「カイさん達は、ぼくの作った御守を認めてくれたんだ。ぼくにお小遣いをあげるためとかじゃなくて、職人としての厳しい目で見て、その上でカイさん達のお眼鏡に叶ったってことだから」
「それに、ぼくも自分の技術でお金が稼げるなら、ちゃんとそれを活かしていきたいんだ」
「レオ兄ちゃん……どうかな?……ダメ?」
ライトは心配そうに、レオニスの顔を覗き込む。
レオニスはライトの真剣な眼差しを見据え、小さなため息をつきながら口を開いた。
「……お前の決断に、俺が良い悪いを言うことなどない。もし俺が異を唱えて口出しするとしたら、それは余程人の道を外れるような非人道的なこととかあまりにも危険な内容を含む時くらいだ」
「お前がそうしたい、やってみたい、と思うなら何でもやってみろ。お前の人生だからな、いろんな経験を積むのはいいことだ」
「ただし、三つ条件がある」
ライトはレオニスが口にした「三つの条件」に、思わず息を呑みながらも小さく頷き静かに聞き入る。
「まず、一つ目。学業を疎かにしないこと。お前は今はまだ学園で学ぶべきことがたくさんある。学園生の本分である勉強を疎かにして、小遣い稼ぎにばかり精を出すなんて本末転倒なことは絶対に許さん」
「二つ目。仕事として引き受けるからには、きちんと納得のできる仕事をしろ。お前の腕を見込んで提案してくれたカイ姉達を落胆させるような、雑な仕事はするな」
「三つ目。稼いだ金は無駄遣いするな。お前自身が稼いだ金をどうしようとお前の勝手だが、小さいうちから散財を覚えてもろくなことにはならん。使うべき時に使うためにも、普段はなるべく貯金に励め」
レオニスが条件として出してきたことは、どれもが紛うことなき正論であった。
その全てを言い切った後、ふぅ、と一息つきながらライトに向かって再び語りかける。
「……まぁ、お前ならこんなこと言わずともちゃんと分かっているとは思うがな。一応念の為というか、お前の意志確認だな」
「どうだ。俺が今言った三つのこと、守れるか?」
レオニスは真剣な眼差しで、ライトを見つめる。
ライトもレオニスの顔を見ながら、強い意志を持って応える。
「もちろん!絶対に守るよ!」
「……そうか。勉強も仕事も、両方頑張るんだぞ」
「うん!!」
レオニスがライトの頭をくしゃくしゃと撫でながら、誰に言うともなく呟く。
「本当にお前は、グランの兄貴そっくりだなぁ……」
「あっ、それカイさん達にも言われたよ!」
「だろうなぁ、カイ姉達もグランの兄貴のことをよく知ってるからな」
「うん!しっかり者のところは母さんに似たんだね、とも言われた!」
「ああ、グランの兄貴はすごい人だけど時々やらかしたりしてたからな。そういう時は、レミ姉の出番だったわ」
「ぼく、父さんにも母さんにも似てるって言われて、すごく嬉しかったんだ!」
ライトはこの世界での両親の顔を全く知らない。写真や動画など全くないこの世界では、故人の顔を後世の人間が知る手立ては殆どないと言っても過言ではない。
だが、ライトが知らない両親の姿を知っている人達がいる。そしてその人達から語られる両親の姿が、立派なものであればあるほどその子であるライトには誇らしかった。
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レオニスの出した条件、本当に正当なものばかりで実の親以上に立派にライトの保護者してます。
レオニスが結婚して実の子を持つようになったら、きっと素晴らしい父親になれることでしょう。
……ま、結婚の前にまず彼女を見つける方が先なんですがね!
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