第171話 フォルの役割
レオニスとマキシもフォルを撫でて完全ノックダウンした後、皆で昼食を摂ることにした。
「フォルの好物って何だろう?やっぱり野菜とか果物かな?」
「んー、とりあえず皆の食事内容を別系統にして、一通り並べてみるか」
ラウルの提案で、レオニスに肉系、ライトに魚系、ラウルに野菜系、マキシに果物系を出して、テーブルの真ん中にフォルを置いて選ばせてみることにした。
大小様々な皿が並ぶ中、フォルは鼻をスンスン鳴らしながら匂いを嗅いでいる。
いくつかの皿の匂いを嗅いだ後、初めて口にしたのはやはり野菜系のサラダであった。
シャクシャクと可愛らしい音を立ててレタスを食むフォル。その愛らしさに、周りの四人はほぼほぼ骨抜き状態だ。
「んー、やっぱりフォルは野菜が好きみたいだねー」
「おっ、今度は果物のところに行ったぞ」
「ブドウ食べてるー、可愛いいいい」
ブドウを皮ごと食べるフォル。その顔も、心なしか嬉しそうな表情に見える。やはり野菜や果物が好きなようだ。
「そしたらラウル、今度から新鮮な野菜や果物を多めに仕入れておいてくれる?ただの草木ならカタポレンの家の方でも山ほど用意できるけど、ちゃんとした野菜や果物は無理だからさ」
「おう、任せとけ。市場でいいもん見つけたら、フォルのためにしこたま買い溜めしとくわ」
フォル信者第一号のラウルが、ライトのお願いを快く引き受ける。
「ラウルってば、張り切っちゃってー。でもいいなー、僕もフォルちゃんのために何かしてあげられることないかなぁ」
フォル信者第二号のマキシ、自分の目の前の皿のブドウを食べたフォルの口元についた果汁を優しく拭き取ってあげている。
「んじゃ俺は、カタポレンの森の警邏中にフォルが好きそうな野草や花や山菜とか見つけたら持って帰ってくるかー」
フォル信者第三号のレオニスは、自分の仕事中にフォルの好きそうな物を見つけたら手土産で持ち帰る宣言をしている。
「レオニス、お前仕事にかこつけてフォルの好物を見つけようとか、抜け目ないな」
「何だとぅ?ラウルこそ市場でいいもん見つけたらしこたま買い溜めするとか、お前だって職権濫用する気満々じゃねぇか」
「んもー、二人とも言ってること大差ないどころか全く同じですからね?僕もフォルちゃんの役に立ちたいのにー!」
フォル信者一号二号三号が、何やら喧喧諤諤しているようだ。
当のフォルは主のライトのもとでのんびりしながら、ブドウやサラダのおかわりを嬉しそうに食んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、と……これからどうするかな」
ラグナロッツァでの楽しい食事を終えて、カタポレンの森に帰ってきたライト。
レオニスは帰ってきたその足ですぐに森の警邏に出かけてしまった。先程言っていた通りに、森の中に何かフォルにあげられるようなものがないかもついでに探してみるつもりなのだろう。
レオニスが不在なので、気兼ねなく目の前にマイページを開くライト。
改めていろいろとチェックしていく。
すると、左右の◀▶方向に『使い魔情報』という新たなページが追加されていた。これは、イベントで使い魔を得たことにより新たに解放されたのだろう。
使い魔は常時五体まで使役することができる。その五枠のうち、四つは空欄で一つが既に幻獣カーバンクルの顔写真?つきデータが表示されていた。
では、他のの使い魔はどうやって増やすのか?その方法は、カーバンクルの顔写真の下にあるボタン『お使いに出す』が鍵となる。
ブレイブクライムオンラインの使い魔は、ちょっと特殊だ。
普通、使い魔といえば戦闘で使役したり、主と共に旅をして常にパーティーの支援を行うといったイメージが強いが、ブレイブクライムオンラインではそういった役割は与えられていない。
では、使い魔とは一体何をするものなのか?
使い魔の使命とも言えるべき最たる役割、それは『お使いに出かけること』である。
実はこれはイベント開始直後に出てきた内容詳細文にも【旅に出た使い魔は、様々なアイテムを持ち帰ってきてくれます】と明記されている。
つまり、ブレイブクライムオンラインでの使い魔の使役とは『お使いに出していろいろなアイテム類をお持ち帰りさせる』ことを指すのだ。
使い魔を得たユーザーは、まず使い魔をお使いに出す。
行き先はランダムで、海や山、河、草原等々様々な場所に出かける使い魔達。その行き先で、いろんなものを拾ってきては持ち主に渡すのだ。
故にユーザー達は「お使い魔、の間違いじゃね?」などとよく揶揄したものだったが、実はこの使い魔の持ち帰る品々が案外馬鹿にならない。
普段はポーションやエーテル、お菓子や飲み物といったイベント限定回復剤などといったしょうもないものが主なのだが、極々稀に超レアアイテムを持ち帰ってくることがあるのだ。
それは、時に聖剣などというトンデモ武器防具だったり、一度だけ即死攻撃を回避できる身代わりの実だったり、課金通貨の入った宝箱やレアスキルが得られる書物なんて代物も拾ってきたりする。
そして、持ち帰る品の中に稀に『使い魔の卵』がある。そう、使い魔を増やす手段とは『お使いに出した使い魔が新たに別の使い魔の卵を持ち帰る』ことなのである。
ちなみにお使いに出かける時間は、短ければ1時間から数時間程度、行き先によっては半日とか丸一日、長ければ丸二日帰ってこないこともある。
そして持ち帰ってくる成果は、お使いに出かける時間が長ければ長いほど良いものを拾ってくる率が高い。
ライトも早速カーバンクルのフォルをお使いに出してみようかな、とは思ったのだが、どうにも心配でならない。
あの小動物のようなサイズでは戦闘能力などほぼ皆無だろうし、もし森の中で他の魔物や大型の肉食獣にでも出くわしたら一発で食べられてしまいそうだ。
ゲームの中ではそんなことは一切起きなかったから何の心配もせずに済んだが、今のこの世界では何が起こるか分からない。
ライトがフォルの身を心配するのも、無理からぬことだった。
「んー、そしたらどうしよう……このままずっと旅に出さずに、大事なペットとして手元に置いておくことも可能だけど……」
「でもやっぱり、使い魔のお使いシステムは活用したいし、部屋に閉じ込めておくだけじゃフォルにとっても良くないよなぁ……」
「んーーー……そうだ!」
どうやらライトは何か妙案を思いついたようだ。
窓の方を見てみると、外の陽はまだ明るい。
善は急げ!とばかりに、ライトは出かける支度をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラグナロッツァの屋敷に再び移動したライト。
二階から階下に下りていくと、ラウルが姿を現した。
「よう、ライト。さっきカタポレンに戻ったばかりなのに、またこっちに用事ができたのか?」
「うん、さっきラウル達にも紹介したフォル用に魔導具を作ってもらおうかと思ってね、今からアイギスに行こうかと」
「魔導具?そりゃまた何でそんなもんを?」
ライトの話に、ラウルが首を傾げながら問うてきた。
「フォルは基本的に森に住まう生き物でしょ?ぼくやレオ兄ちゃんがおうちにいない間、森の中を自由に駆け回れるようにしてあげたいの」
「ん、そうだな、フォルにしてもそっちの方がのびのびと暮らせていいだろうな」
「でしょ?だけどほら、フォルって絶対に戦闘は不向きじゃん?森の中で魔物や大きな獣に襲われたら、どうしようもないし」
「ああ……あのちっこい身体で他の魔物に襲いかかられたら、ひとたまりもないだろうな……」
ライトに具体的な話を聞かされて、ラウルもだんだんとライトの言わんとすることが理解できてきたようだ。
「そうなんだよね。だからって、ずっと家の中に閉じ込めておくのも可哀想だし」
「だな」
「だから、アイギスでフォルの身を守れそうな魔導具を作ってもらおうかと思ってさ」
「そりゃ良い案だな。フォルのためにもいいと思うぞ」
「そういう訳で、今からアイギスに行ってくるね!」
「おう、気をつけていってこいよー」
ライトの話に納得したラウルに見送られながら、ライトはラグナロッツァの屋敷を後にした。
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今まで主人公のライトが一番のアイドルポジションでしたが、フォルはライトの更に上をいくスーパーアイドル的存在になりそうです。
ま、ライトだっていずれは成長していくし、それに伴いどんどんゴツくなっていくでしょうからねぇ。男の子が可愛らしいと思える時期なんてのは、本当ーーーにほんの一瞬だけの短い期間だけなのだ!ということを、甥っ子達を見て作者は知っているのです。
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