第34話 クレアの秘密

 クレナに見送られながらラグナロッツァの転移門を使い、瞬時にディーノ村の転移門に移動したライトとレオニス。

 転移門のある部屋から出て、受付のある部屋に移動する。

 そこには、朝と変わらずクレアとアルがいた。

 アルはうとうとと居眠りをしていたようだが、ライト達が帰ってきたことを敏感に感じとり、ピクンと反応した後ライト達が来た方向に身体を向け尻尾を全力でフリフリした。


「ワォンワォン!」

「ただいま、アル!」


 真っ先にライトに飛びつくアル。嬉しそうに顔をペロペロと舐める。


「アル、良い子にしてた?」

「ワウワウッ」

「大丈夫ですよ。アルちゃんは私といっしょに、お利口さんでお留守番してくれていましたよ」


 クレアがライト達の横に来て、アルの身体を撫でた。


「そっか、アル、お利口さんでお留守番できたんだね。ラグナロッツァでお土産たくさん買ってきたからね、後でおうちに帰ったらあげるね」


 ライトはアルの頭を優しく撫でながら褒めた。


「あ、クレアさんもアルを預ってくれてありがとうございます。これ、ラグナロッツァで買ってきたお土産です。よろしければ受け取ってください」

「あらまぁ、お気遣いいただいちゃって。こちらこそありがとうございますぅ」


 レオニスに空間魔法陣から出してもらった、ラグナロッツァの超有名スイーツ店【Love the Palen】の『特選スイーツ詰め合わせセット』をクレアに手渡す。


「あああー、ここのお店のチョコレートプロテインバー、すっごく美味しいんですよねぇ」

「プロテインバー……そうなんですね、ハハハ」

「ええ、あのお店の一押し大人気にして看板商品なんです!うちのクー太ちゃんも、これ大好物なんですよー。あ、もちろんこれはライト君から私個人に頂いたお土産ですから、クー太ちゃんにはあげませんよ?」

「ハハハ、クレアさんもお好きなものだったようで、何よりです……」


 てっきりクッキーの詰め合わせだとばかり思ってたよ。これ、プロテインバーだったんか……一体どこの筋肉マニアの開発品だ……


「あ、そうだ。ぼく、ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部で、クレアさんの妹さん?にお会いしましたよ」

「ああ、クレナですか?あの子、私と違っておっちょこちょいなところがあるんですよねぇ。ちゃんとお仕事できていましたか?」

「はい、大広間の設備とかいろいろと案内してもらいました」

「そうですか、それは良かったです。姉としても嬉しい限りです」


 えー、クレナさん、すっごくテキパキとしてたけどなぁ。

 あれでおっちょこちょいなんて言われたら、他の人とかもっと酷いおっちょこちょいになっちゃうんじゃないか?


「それにしても、お二人とも本当にそっくりですねぇ」

「え?私とクレナが、ですか?嫌ですねぇ、ライト君ってば。私達十二姉妹の中では、私とクレナは最も似てない姉妹で有名なんですよ?」


 ……

 ………

 …………


 今、何てった?え??十、二、姉妹???

 クレアさんとクレナさんの他に、十人も同じ顔の人がいるの?

 やっぱこの人達、クローン姉妹じゃね?

 つーか、あれで最も似てないとか……区別できるようになるの、一生無理くね?


 呆然とするライトに、レオニスが腰を落として耳打ちする。


「な?ライト、こいつの言うことは気にしたら負けだぞ?」


 うん、今ならレオ兄の言ってることが分かる、気がする。

 ここはひとつ、あの呪文の出番だ。キニシナイ!


 きょとんとした顔つきのクレアに、頬をピクピクと引き攣らせるライト。

 レオニスはその横で、ふぅ、と小さなため息をつきながら口を開く。


「さ、今日はライトも疲れたろ。ラグナロッツァのあちこちを散々歩いたしな。カタポレンに帰るぞー」


 ハッと我にかえったライトは、レオニスの言葉に頷く。


「そ、そうだね、レオ兄ちゃん。アルもお留守番ご苦労様。さ、おうちに帰ろっか!」

「ワォン!」

「クレアもありがとうな。また頼むこともあるかもしれんが、そん時はよろしくな」

「ええ。こんな楽ちんなご依頼でしたら、いつでもウェルカム大歓迎ですよ?」

「おう、アルが俺達んとこにいるうちは、な」

「クレアさんも、今日はお世話になりありがとうございました。あと、えーと、その……ひとつ、お願いがあるんですが……」


 ライトは少しもじもじしながら、クレアに向けて切りだした。


「?はい、何でしょう?」

「あの、その……また、この冒険者ギルドに……遊びに来ても、いいですか……?」


 本来なら、冒険者資格のない者が気軽に立ち入るような場所ではない。

 だが、この世界に来て今日が初めてと言っていいほどたくさんの人々と触れ合ったライトにとってはすごく新鮮で、やっぱり人との会話っていいな、もっとたくさんの人と出会いたいな、と思ったのだ。


 クレアは少しきょとんとした後、優しい眼差しでライトを見つめた。


「……ふふっ。そんなことですか。お安い御用ですよ」

「いいんですか?ぼく、まだ冒険者資格もない子供ですけど……」

「ええ、全く問題ありませんよ。子供は立入禁止!なんて規定はどこにもありませんし」

「…………」

「それに、もし万が一悪い人に絡まれても大丈夫、心配御無用です。この私が、けちょんけちょんのこてんぱんのボッコボコのぺっちゃんこに蹴散らして、返り討ちにして差し上げますから」

「……ありがとうございます!」


 クレアから快諾と心強い言葉をもらえたライトは、嬉しさのあまり大きく頭を下げた。


「ライト君は、本当に良い子ですねぇ。うちのクー太ちゃんにも負けず劣らず、本当に素晴らしいことです」

「フッフーン、クレアにも分かるか。そうだろうそうだろう、うちのライトは世界一賢くて優しくて素晴らしい子なんだぞ!」


 レオニスがまたしても兄バカモードを発揮しだしたようだ。

 レオ兄ちゃん、お願いだからやめて?恥ずかしいからッ!


「はいはい。ではお二人とも、気をつけておうちにお帰りくださいねぇー」

「あッ、クレア、何だその如何にも投げやりなその態度はッ」

「アーアーキコエナーイ。レオニスさんの気のせいじゃないですかぁー?」

「くッそー、お前ら姉妹、いつか夜道で誰かに刺されるぞ!」

「その時は、レオニスさんが私の骨を拾ってくださるのでしょう?」

「いいや、俺が拾うのは多分つーか間違いなく襲撃者の方の骨だね。しかも粉砕骨折だらけで、まともな形の骨なんざ1本も残らないに違いねぇ」

「……さ、レオニスさん。今から一週間、ここに泊まり込みでみっちりミーティングしましょうね?」

「やべッ、ライト、とっとと家帰るぞ!アル、ライトを背負って俺についてこい!」


 そう言うや否や、レオニスは外に向かって勢い良く猛ダッシュで走り出した。

 その声にアルも応え、ライトを口に加えて己の背にひょいと乗せ、レオニスの後を追う。


「レオ兄ちゃんったら!クレアさん、また来ます!」

「はぁーい。皆さん、お気をつけてお帰りをー」


 クレアはライト達三人の背を見ながら、送り出すのであった。





====================


 驚愕の事実、クレア十二姉妹。しかも全員同じ顔に同じ声、ほぼほぼ完コピクローン姉妹。

 今のところ長姉クレアと五女クレナの二人出てきていますが。残り十人、果たしていつか全員出てくる日が来るのでしょうか?


 そこら辺全く未定ですけども。

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