第91話 可乃子、誤解を解く(?)
その日も、いつものように公園でぼんやりしていた。
「もう4時。帰らなくちゃ」
その日も、いつものように公園でぼんやりしていた。
「もう4時。帰らなくちゃ」
11月になり5時から4時に鳴る時間を早めた公園のカリヨンが、子どもは帰宅する時間だと鳴り響いた。それを潮にのろのろと腰を上げる。と、そのとき、遠くから、あら、九条さんのお孫さん? 奇遇ねえ、こんにちは! と呼びかけられた。声の方を振り向くと、そこにいたのは、例のホテルで会った貴禰さんの同窓生の、えっと、ましばさん? あれ? あそうさん?
「あ、こんにちは」
依里子は引きつった笑顔でぎくしゃくとあいさつを返すが、その様子にはまったく気づいていない可乃子は足早に近寄り、今日はおひとり? と笑顔で話しかけた。
「はい、あの、仕事帰りなので」
「あらそうなの。お仕事をなさっているの? 偉いわねえ。私なんて、たまにひ孫の相手をするくらいしか、お仕事らしい仕事が無くて。今日もこの辺をぶらぶらお散歩して過ごしてたのよ」
仕事が偉い、だって。仕事をしなければ生きていけないじゃないの。…それとも、この人はお金持ちの家の奥様で、一度も働いたことは無いのかしら? 依里子の内心の思いも当然気づかず、可乃子は両手を胸の前で、ぱん! と打ち鳴らして言った。
「ああ、そんなことより! 私、あなたに謝らなければと思っていたのよ!」
「謝る? 何をです?」
わざと心当たりなさそうに言うのは、あの一件を、蒸し返されたくなかったから。だが、相手は委細構わず、それを口にした。
「ほらあれよ、まごにも衣装って」
「…ええ」
「ごめんなさいねぇ、私、意味を勘違いしていて」
「え、勘違い?」
「そうなの。あれね、私、孫が可愛いとあれこれ甘やかしちゃう、っていう意味だと思っていたの。九条さん、じゃない、久住さんも、やっぱりお孫さんが可愛いのねって、そう言ったつもりだったのよ」
「ええ?」
「ねえ、もの知らずでびっくりよね? こんないい歳したおばあちゃんが」
「いえそんな…」
「ほんとに、ねえ、ほら『可愛い子には旅をさせよ』って言うじゃない? あんな風に、子どもや孫を大事にしているって、そんな意味だと思っていたの」
「え?」
「え?」
「…たぶんそれも、意味違っています」
子どもが可愛かったら、成長させるため可愛がるばかりでなく苦労をさせろという意味ではないでしょうか、と言うと、
「えええ? あらいやだ、私ったら!」
と絶叫された。…どうやら本当に、意味を勘違いされていたみたい?
何度も頭を下げて謝りながら、可乃子は去って行った。誤解だったということは、わかった気がする。でも今さら、どうすればいいのかわからない。
『もしも愚痴りたければ、どんと来い! なり。直接知らない相手になら言えるってことあるなら、聞かせてなり』
ふと、Moiの言葉が頭に浮かんで、依里子はグループチャットにアクセスした。
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