プルミエ・ラムール

薄紫式部

第1話あの頃とは違う

20xx年、夏。



アイスを片手にバスを待つ。

東巻凛子、18歳。今日は終業式だった。クラスの可愛い子たちはナイトプールだとか、新しくできたタピオカ屋さんがとか言っていたが、そんなものにはまるで興味が無い。

私は元々1人で居ることが好きだし、第1にこんなに暑い中、人と戯れることで余計に暑くなるようなこと絶対したくない。


そう思いながら帰りのバスを待っていると、


「凛子〜!!!」


と後ろから元気な声が降ってきた。

緊張と平然を装いながら、ダルそうな顔をする。


「凛子、その顔ええ加減やめや?」


彼は私の幼馴染の新庄怜央。彼は関西から私が3歳の頃この街に引っ越してきた。

学校では人気者。特別頭がいい訳でもないし、むしろバカ。だけど、幼稚園の時からやってるサッカーでは圧倒的エースで、クラスマッチでは学校中の女子が彼に黄色い歓声を上げる。

彼と私は小学校の時は仲が良かった。ただ、彼が人気になっていく一方で、1人好きの私は彼ほど友達も居ないし、運動も得意な方ではなかったから、必然的に彼と自分は違う世界にいるんだって気付かされることが多くなった。それから私と彼との距離はだんだん遠くなっていった。と、私は思っている。


「いや、相変わらずうるさいなぁって」


「いや、凛子が静かすぎるんやて。明日から夏休みやん!」


彼にとっては多分、小学生の頃の私たちの距離も、今の自分たちの距離も変わっていないんだろうと思う。いい意味でも、悪い意味でも。

「あ、バスきたで!」

グラグラと揺れる陽炎の景色の中で、バスはこちらに向かって走ってきた。私達は涼しさを求めてそれに吸い込まれるように入っていく。


「なぁ、1口頂戴。」


彼が私に言う。


「あぁ、いいけど。」


彼にとっては、あの頃の私のままだ。だからこんなことも余裕でできる。だけど、当の私は心臓が口から出るほど緊張する。平然を装ってはいるけど、こんな化けの皮はいつ剥がれてもおかしくない。


20xx年、夏。

恋なんて似合わない、誰かを好きになるなんて馬鹿げてる。そんな風に思っていたけど、私は今、多分恋をしている。


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