第307話 ガンバ。
夕方ごろ。
ここは地下休憩所の外、すぐ近く。
そこではアレンが商人側から出された青年一人と見張りがてら、たき火をしていた。そこにガポラが欠伸をしながらやってくる。
『ふぁー』
『ガポラ様』
アレンと一緒にたき火をしていた青年がバッと立ち上がって、ガポルの方へ視線を向けて声を上げた。
『うん、メントー君は休んでいなさい』
『は、はい』
青年……メントーは頭を下げて、地下休憩所に降りて行った。メントーを見送ったガポラは石に座ってアレンへと視線を向ける。
『おはようございます? いや、こんばんは?』
『コンバンハ。ダイジョウブカ? ネムタソウダケド』
『ハハ、ちょっと眠たいですね』
『ソウカ、ソレデチカキュウケイジョハドウダッタ?』
『お陰様で』
『ヨカッタ。ヨカッタ』
『しかし、あの石は……めちゃくちゃありましたねぇー大変でしたよぉ』
『イシヲ、ハコブマホウハ、ツカエナイカラ』
『そのようですね。見張りをしていたルルマさんから聞きました。いや、それでも……あの地下休憩所というのは素晴らしいですな。砂漠の暑さも……そして夜の寒さも気にならない』
『マァ、テンマクヨリイイヨナァ』
『いや、もしかしたらルバ村の私の家よりも環境的にはいいかも知れませんよ。あぁーアレン様がこんなことができると早く分かっていれば……家の改築を頼んでいましたのに』
『ハハ……ソレハヨカッタ』
『まぁ、それはいいですか。それよりも……この地下休憩所がエルバレス王国へと続く道中にできるということは。今後の商売にプラスになりますから』
『エ。コッカラサキニモ、ツクルノカ?』
『頼みますよ。もちろんお金は払いますんで』
『オレハ、イイガ……イシハコビガンバ』
『あっ』
アレンの言葉を聞いたガポラは表情を盛大に強張らせたのだった。
アレン達が切り取られた土地から出て二十七日目。
昼過ぎ。
ここは砂漠のど真ん中……灼熱の太陽が照っている。
そんな中で、アレン達とガポラ一行はラクダに乗って砂漠を進んでいた。
アレンは布を被り太陽の光を遮りながら器用にラクダの背に横になっている。それでも、暑いのだろう布の隙間から太陽を睨み付ける。
「あー暑い」
「ふひー本当に暑いですね」
アレンの後ろをラクダに乗っていたカトレアが額に流れる汗を拭きながら答えた。アレンは後ろを振り返ってカトレアに問いかける。
「カトレア、大丈夫か?」
「大丈夫です。さっき休憩入れたばかりです……もう少しでオアシスがあるという話ですし」
「……いつも言っているが、いつ休憩したなんか関係ない。きつくなったら、すぐに言うように」
「はい、わかっています」
「ふう、その草の民の王国の近くにあるというオアシスとやらはまだなのかな? 今日くらいには着くと話であったが……ルルマ」
アレンは先頭を行くラクダに乗ったルルマへと視線を向けて問いかけた。すると、ルルマがキョロキョロと視線を巡らせ、首を傾げる。
「マダ、ミエナイ」
「そうか。ルルマが見えないとなると……今日中に、そのオアシスには着きそうにないな」
「タダ」
「ん? 何か見えたのか?」
「ウン、マッスグ……バシャガハシッテイル」
ルルマは一度頷いて、進行方向を指した。ルルマの言葉を耳にしたアレンが顎先に手を当てて首を傾げる。
「……ん? 馬車?」
「ソウ……ア。ソノ、バシャノウシロニ、スナボコリ……アレハサンドクロコダイル? ソワレテイルカモ?」
「おーサンドクロコダイルか。当たりじゃん」
ラクダ車よりもサンドクロコダイルの方に食いついたアレンが体を起してラクダに座り直した。
ルルマは目を凝らすように、目を細める。そして、口元に手を置く。
「キケンカモ。カナリ、オオキイ……アンナオオキイノ、ハジメテ」
「そうか。そうか。それはいいな。今日はワニの肉を気兼ねなく食えるな。ルルマ……俺のラクダ頼むな」
「ア、ウン」
「ちょっと行ってくる」
アレンはルルマにラクダの手綱を渡すと、ラクダから飛び降りた。
吊るしていた赤の柄頭に手を乗せて……タンッと砂漠を強く蹴って、走り去っていく。
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