第289話 交渉。

 三時間後。


 ズドン。


 アレンが作った地下住居へ降りるために開けられた出入り口用の穴から、何やら重たいモノが落ちてきた。


「あ、お帰りなさい」


 カトレアが出入り口にやってきて落ちてきたモノ……アレンへと声を掛けた。対するアレンは頷き答える。


「ただいま」


「せっかく梯子作ったんですから使ってくださいよ」


「これくらい、飛び降りたり、ジャンプした方が早い」


「はぁ、そうですか。ん? それは」


「今日はでっかいハリネズミを仕留められたぞ」


 アレンは針をすべて折られた状態のアレンの体くらいのハリネズミが背負われていた。


 それを目にしたカトレアは表情を少し綻ばせる。


「お、少しは余裕ができますかね」


「そうだな。コイツがもっと……頻繁に狩ることができれば苦労ないんだが。狩れるのはでっかいゴキブリと蜘蛛ばかりだ。魔石がこんなに」


 アレンはハリネズミを地面に下ろすと、次いで麻袋を開き見せた。


 麻袋の中には赤ちゃんの拳ほどの大きさの紫色の結晶がじゃらじゃらと大量に詰まっていた。


「すごい……それ換金したらいくらになりますかね」


「金貨百枚は行くか?」


「いやいや、二百枚は行くでしょう。おそらく今までのすべてを合わせたら屋敷が建つのでは?」


「どうだろうな。換金できる場所まで行けなくちゃ……燃料くらいにしかならんのだが」


「ですね。しかしすごい量です。ほとんどがゴキブリですか?」


「あぁ」


「あのゴキブリは厄介ですね。次から次へと集まってきて……もしかしたら、一匹倒すと周囲の仲間を集めるのかも知れませんね」


「だろうな。ただ、向こうから襲ってくるんだ、倒さないと邪魔だからな」


「まぁ危険度で言ったらA相当ですか? 一体辺りはBからCなんですが」


「そうだな……っとこれの解体を頼めるか?」


「はい」


「頼む。じゃ俺は汗かいたから、風呂にでも入るか……」


 アレンは手で扇ぎながら、風呂場へ向おうと歩き出した。ただ、何か思い出したように途中で立ち止まって続けてカトレアへと問いかける。


「あ、そう言えば、あの二人はどうしていた?」


「おとなしくして居ましたよ? 男の方……ガルパラさんの方も起きたようですよ」


「そうか、それはよかった。よかった」




 三十分後。


「ふう……」


 風呂から上がったアレンは半袖Tシャツにズボンと言う軽装のままガルパラとルルマがいる部屋に訪れた。


 アレンの姿を目にしたガルパラはナイフの柄頭に手を置いて、警戒する。


『ガルパラ』


『分かっている』


 ルルマがガルパラの静止するように服を掴んだ。


 ガルパラはナイフの柄頭から手を離して警戒を解いた。ただ渋い表情を浮かべていた。


 そのやり取りを見ていたカトレアがアレンの後ろから現れて、アレンへと耳打ちする。


「まだ警戒されていますか?」


「うーん。女の方は話が出来そうだ……離すか。男の方は風呂にでも突っ込んでおけ。拘束しているが気を抜くなよ」


「分かりました」


 ガルパラは多少抵抗したものの、ルルマと少し会話をするとおとなしくなってカトレアに風呂場へと連れていかれた。




 ガルパラとカトレアを見送ったところでアレンはガルパラが寝ていたベッドに腰かける。


 そして、ルルマと向き合う。


 アレンを前にしたルルマはどこか緊張した様子でゴクリと喉を鳴らした。そして、小さく呟く。


『私が一族の命運を握っている』


「どうした?」


 ルルマの緊張した様子にアレンは覗き込むように問いかける。


 ルルマにはアレンの言葉が分からないもののなんとなく問いかけられたことを察して、胸に手を当てて……まだ固いながら笑みを浮かべる。


「大丈夫なんだよな? じゃあ、今日も少し話を進めようか。では、ここら辺の地理を」


 アレンはジェスチャーを始めようとした。ただ、ルルマが手を前に出して静止される。


『待って』


 ルルマはここの水が欲しいと言うことを拙いながらもジェスチャーで伝えていく。そして、代わりに何が欲しいか問いかけた。


 対するアレンは事前に予想していたためルルマのジェスチャーを理解するのに時間はかからなかった。


 実際に納得したような表情を浮かべて顎に手を当てている。


「あぁ、やっぱりその結論になったのか。つまり、何が欲しいか問いかけられている。さて、どうジェスチャーすれば伝わるか……まずは周辺地図を見てもらうか」


 アレンは言語、周辺地理、食料調達の術などを知りたい。更に言うなら、海の辺りまで道案内を頼みたいとジェスチャーで伝えようとした。


 二、三十分ほど時間を掛け……辛うじて、アレン達が欲しいモノがお金や物ではないことは伝わったものの、上手く伝わっていない様子であった。


 実際にアレンがジェスチャーしている間、ルルマはずっと首を傾げていた。


『むむ? お金や宝剣、女がいらないのはなんとなく分かった。ただ、他に何が? どういうこと?』



「んがーっ!」

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