第286話 戦う。

 ガルパラとルルマが眠っていた部屋の出入り口にランプを手に持ったアレンが、姿を現した。


『子供だと? なんだ! お前は!? お前か俺達をここに連れてこられたのは!』


「あーなんて言っているのか、わからないなぁ」


 アレンはガルパラの喋っている言葉が分からないのか、首を傾げる。


『……言葉が通じない? 仕方ない人質にさせてもらう』


 ガルパラが会話できないことを察するや、アレンを人質に取ろうと飛び掛かった。


 ただ、アレンはいまだに眠たげな眼のままで、左腕を振り上げる。すると、ガルパラが持っていたナイフを逸らし、ひょいっとジャンプして躱してしまう。


「いきなり危ないなぁ」


『な!?』


「病み上がりなんだから無理しなくても」


『どういう……ただの子供じゃない』


 ガルパラは隠し持っていたナイフをもう一本取り出して、両手にナイフを逆手で構える。すると、目を鋭くさせ……殺気をアレンへと向けた。


 殺気を向けられたとは思えないほどに、背中を見せる余裕を見せながらスタスタと歩き。そして、クルリと振り返ってガルパラへと視線を向ける。


「なかなかいい殺気じゃないか」


『し……』


 ガルパラは地面を強く蹴ってアレンとの距離を詰めて体勢を低くさせる。そして、左手に持ったナイフを振り上げる。


 ナイフは鋭く……風を切る音を響かせながら振り上げられた。


 ただ、アレンがトンッと一歩後ろへ飛んだことで、アレンの鼻先一センチのところを通り過ぎて空を切った。


『っ!』


 ガルパラは続いて右手に握ったナイフを真横に振るった。そのナイフもアレンが少ししゃがんだことで、アレンの白銀の髪先を少し切るだけで空を切った。


 アレンは地面にランプを置いたところで、顔をガルパラの顔にグイッと近づける。


「面白いナイフ術だな……って危ないだろう、俺以外なら死んでいたよ」


 ガルパラは動揺を隠せず目を見開く。


 そして、ダンッと地面を蹴ってアレンと距離を取った。


『はぁ……はぁ……』


 ガルパラが疲労を隠せなくなっていて脂汗を流していた。そのガルパラを目にしたアレンは再び欠伸をする。


「ふぁふぁ、病み上がりなんだから無理するなよ」


『ぐっ』


 ガルパラは意識を保つためか、唇の端を噛んだ。そして、再びアレンへと飛び掛かった。


 対してアレンはやれやれと言った様子でサイドバックの中に入っていた蛛幻の短剣を一本取り出して構える。


「仕方ないな。気を紛らわせるため……そして、面白いナイフ術に免じて気の済むまで付き合ってやるよ」


 アレンとガルパラが持っている短剣とナイフとが青い火花を散らしてぶつかる。


 そして、ギリギリと剣先をぶつかり向かい合う。


『なんなんだ……貴様は。この強さ……まさか『ジーギストのミール』か? それとも『アルブミのママルーア』か?』


 ガルパラは左手に持っていたナイフを正手に持ち直し、アレンへと向ける。


 ただアレンの右手をあげて、ガルパラの手首を掴んで防いだ。


「何を言っているか?」


『やはり話は通じないのか……くっどうしたら』


 ガルパラはアレンへと蹴りを入れようとした。


 対してアレンはガルパラのナイフを押し返して、後方へと飛び去って蹴りを躱した。


「うーん、病み上がりではなく、体調が万全だったら面倒だったかな? まぁ、どちらにしても結果は同じだったか? ……ふ」


 アレンは何かを思い出したように視線を下げた。そして、フッと小さく笑って続ける。


「ナイフで俺に傷を負わせるならラーセットくらい気配を操れて、ナイフの達人で、寝こみを襲わないと無理だろな」


『何を言っている。何が可笑しい』


 アレンが笑ったのが気に食わなかったのかガルパラは眉をひそめた。


「ん? 怒った? 悪い。悪い」


『……っ』


 ガルパラはアレンへと飛びかかる。そして、再び二人の間で激しい戦闘が始まったのだった

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