第287話 ジェスチャー。
十五分後。
「ほい。お疲れ様」
アレンは疲労で倒れたガルパラの両腕を踏みつけて動きを止める。そして、ニコリと笑って短剣をガルパラの首元に突き立てていた。
ガルパラは苦悶の表情を浮かべて気を失う。
『ぐ……』
「病み上がりで頑張り過ぎだろう。まぁこれだけ動ければ死にはしないだろう」
アレンはガルパラが気を失ったのを目にすると、短剣を引いてガルパラの腕から降りた。
咳払いをしてカトレアが部屋の中に入ってくる。
「おほん、私が風呂と沸かしている間にガタガタしていると思って来てみたら……何をやっているのですか?」
「ん? ちょっとナイフを向けてきたから」
「だから、武器を奪っておきましょうって言ったんですよ」
「……どうするかなぁって思って」
「こちらを拘束しようとするに決まっているじゃないですか」
「そうかな。まぁ……拘束しといた方がいいかも知れないな。少なくとも、こっちの男の方はお前より強いし」
「そうですか? やっぱり……」
「まぁ……あっちで寝たふりしている女の方は攻撃する意思はないみたいだし。すまないが水と食い物を持って来てくれるか?」
「え? 起きているんですか?」
「まぁアレだけドタバタしていたら……起きちゃうよね。ほら、水と食い物を」
「あ、はい」
カトレアが急ぎ走り去っていくとアレンは倒れたガルパラを持ち上げる。そして、ルルマの隣の木で作られたベッドに運ぶ。
アレンはルルマの方へと視線を向ける。
「それで? 君はどうする?」
アレンの問いかけで、ルルマはビクンと震える。そして、眉間に皺を寄せるや、瞳を開けた。
『……ガルパラを無傷で制圧できる人がいるなんて』
緊張した表情のルルマは上半身をゆっくり起こして、アレンへと視線を向けた。
「やっぱり言葉が分からないな」
『言葉が分からない……?』
「どうしたものかな」
アレンとルルマが首を傾げていると、水とスープが注がれた木の皿を持ったカトレアが現れる。
ルルマは我を忘れたようにそれらを飲み食い始めた。
カトレアはアレンの耳元へと近づくと声を掛ける。
「あの何かわかりましたか?」
「いや……言葉が通じないんだよな」
「そうなんですか?」
「どうしようかな?」
「……帰ってもらいますか?」
「それもありかも知れないが……」
アレンは水やスープを切羽詰まった様子で飲み食いするルルマに視線を向けて続ける。
「かなり切羽詰まった感じだな」
「……水には余裕ありますが。食料にはあまり余裕は」
「だよなぁ。どうしたものか」
難しい表情を浮かべたアレンは腕を組んだ。
ルルマは何かを感じ取ったのか、バツが悪そうな表情を浮かべて食事を止めた。
『何か……不味かった?』
「伝わるか分からんが……ジェスチャーで会話を試みるか。こっちの女の方が会話になりそうだ。まずは自己紹介から」
アレンは自分を指さしながら『あ』と『れ』と『ん』と大きく口を動かし声をだす。
それを繰り返しているとルルマは意図を理解して、ゆっくり口を動かす
『ア……レ……ン、それが貴方の名前? じゃ私も……』
ルルマもアレンに習って『る』と『る』と『ま』と口を動かして声を出した。
それからアレンとルルマの間でジェスチャーを交わして会話を繰り返した。
一時間後。
「ふうーつまり、ルルマはこの砂漠に住む民で? 自分の国(?)の水が無くなって、隣のガルパラと新たな水を探して砂漠を探し回っていた? って感じか? 確認しようがないからどうしようもないか?」
アレンが顎に手を置きながら、ジェスチャーでの会話で分かったことを口走った。
ちなみにルルマは追加で持ってきた水を飲みほして……また眠りについてしまっている。
背後に控えていたカトレアがアレンに声を掛ける。
「なるほど、そう言うことですか。なら、水を渡して帰ってもらいますか?」
「ハハ……水に困っているだけなら、それも有りだが。しかし、ここにその国のヤツを大勢連れてきそうで怖いけど?」
アレンは苦笑しながら、腕を組んだ。
「そ、それは困りますね」
「彼等には何かこの砂漠で生活する術でもあるのかな? 特に食い物関係……この地でも育てることができる」
「確かにそれを教わることができるなら受け入れる価値がありますね。どうせ、水だけならば渡すことはできますよね? 私達はいずれここを離れるんですし」
「そうだな。早く帰りたいよなぁ。もう暑いのは嫌だし」
「ですね。私の場合は早く戻って婚活しないと。結婚適齢期が終わって……うぐ」
「そ、そうだな。頑張ろうな」
「今のところクリアしているは水だけですからね。後は……情報と食べ物でしょうか?」
「そうだな。この二人に取引を持ち掛けるか? ここの井戸を引き換えに」
「問題は言葉ですか」
「あぁ、こいつ等と言葉が通じないと言うことは……この一帯の地域で言葉が通じない可能性がある。ジェスチャーでどこまでやれるか」
「むう、仮に人のいる村や街に着いたとしても食料や水……情報を手に入れるは苦労しそうですね」
「一つの言語を覚えるのはさすがに辛いな。しかも、こういう砂漠で隔離された土地だと訛りが強くて、更に難度が上がるんだよな。最小限の日常会話を教えてもらっても難しいかなぁ」
「……どうでしょう。少し彼等の言葉を聞きましたが独特な発音ですよね」
「あぁ、苦労しそうだな。俺は少し寝るかな」
「あ、風呂入らないのですか?」
「そうだな。入る。入る……少しコイツ等の見張りを頼むな。ガルパラは縛っているが、気を抜かないように」
「はい、わかりました」
「眠すぎる。そろそろ限界」
「なら、無駄な戦闘なんてしなくてもよかったでしょう。手刀で一撃だったのでは?」
「……そうな。面白いナイフ術だったから……ついな。ふぁふぁ」
「それから……」
「なんだよ?」
「それから、ナンバーズの件は大丈夫そうですか?」
「これだけ時間が過ぎても来ないと言うことは道端に落ちている石のようなに興味なかったか……それか何か理由があるのだろうな。まぁ、寝不足で戦いにもならないから……仮に今来たとしたら生命を諦めるしかないなーふぁふぁぁ」
その場にカトレアを見張りに残して、アレンは欠伸しながら離れて行いくのだった。
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