第282話 引き返す。

 アレン達が切り取られた土地と共に砂漠に飛ばされ十八日目、切り取られた土地から南へ向かい四日目。


 少し日が出始めた、早朝。


「ふー今度のヤツは本物のようだな……」


 予定よりも遅くなったがアレンは巨大遺跡が遠くから望むことができる位置までたどり着いていた。


 その巨大遺跡は巨大な岩が綺麗に積み重なり、高さ、横幅一キロはありそうな六角すいの形状の遺跡となっていた。


 しばらく歩き巨大遺跡に近づいてところでアレンの足がピタリと止まった。


 おそらく気配を絶っていて普通の人間は気付くことはできないだろうが……アレンは気付いた。


 いや、気付いてしまった。


 アレンはバッと顔を上げて遠くに見える巨大遺跡を見据える。アレンの表情からは余裕が一切消えて……険しさが増していく。


 絶対に戦っていけない化け物がこの先に居る。


 アレンには……心当たりがあった。


「……っ!」


「ふーこっから先にゴキブリの魔物が居たわ……」


 アレンが巨大遺跡を見据えて立ち止ったところで、ちょうどコニーがアレンの前に降り立った。


 黙ったままでいたアレンの様子を変に思ったのか、コニーは首を傾げて問いかける。


「どうしたの?」


「……ここを離れよう」


 アレンは絞り出すようにそう言った。


 無意識に帯刀していた赤の柄頭に手を置いたアレンの手がカタカタと震えている。


「え……なんで?」


「巨大遺跡の中にはやばい魔物だらけなんだがから……そのやばい魔物が霞むほどに……やばい奴いる。この気配は……ナンバーズか」


「ナンバーズ?」


「世界に十九いるとされるやばい魔物のことを人間はナンバーズと呼んでいる」


「そう? よくわからないわよ?」


「気配は隠匿されていて……気付きにくいが。俺は一度そのナンバーズの十三番目の魔物ルビア・シャイン・ハイレーゼ・レッドドラゴンと戦ったことがあるから分かる。アレは関わっちゃいけない奴だ」


「え、じゃあの遺跡には行かないの? 気にならない?」


「行かない。殺されるぞ……コニー引き返す、上空からあの遺跡方向を警戒しといてくれ」


「分かったわ」


 コニーが飛び上がったのを見送ったアレンは引き返そうと振り返る。すると、ちょうどカトレアが少し遅れて姿を現した。


 カトレアは息を絶え絶えにしながら、木の棒を杖にして歩いてきた。


「はぁ……はぁ……」


「大丈夫か?」


「ええ、お待たせしました。はぁ……はぁ……」


「カトレア……いや、悪い。一刻も早く帰るぞ」


 アレンはカトレアに声を掛けると、来た道を歩き出した。そのアレンの歩測は着た時よりも早くなっていた。


 突然のアレンの行動……アレンの深刻そうな表情を目にしたカトレアは戸惑いの表情を浮かべる。そして、アレンに追いながら問いかける。


「ど、どういうことですか?」


「あの遺跡の中にはナンバーズが居る」


「は?」


「ナンバーズが居る」


「……急ぎましょう」


 アレンとカトレアは来た道を引き返し……切り取られた土地へと戻ることになるのだった。



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