第281話 歩き出す。


 アレン達が切り取られた土地と共に砂漠に飛ばされ十四日目。


 時刻は昼過ぎの辺りで、強い日差しが照って……立っているだけで全身から汗が噴き出し……その汗もすぐに蒸発してしまうほどの灼熱となっていた。


「ふぅ……ふぅ……暑い今日は特に……」


 体全体を覆い隠すようなローブを身に纏ったアレンは短く息を吐き。


 そして、柔らかい砂漠の砂に軽く足を取られながらも歩いていた。


 気になるのは彼の持ち物である。


 自身の体ほどあるリュックを背負い、更にカトレアが作った木の風呂をソリのように改造したものを引きずり歩いていると言う異常さが凄まじかった。


 なぜ、アレンが砂漠を歩いているかと言うと切り取られた土地から南……巨大遺跡へ向かっていた。


 アレンはふと立ち止り振り返った。


「おーい。遅れてきているぞぉ」


 アレンの振り返った先にはもはや豆粒サイズに見えるカトレアが居て、ノソノソと歩いていた。


 カトレアは女性ながら軍人であり、体力は一般人をはるかに上回っている。


 そんな彼女を持ってしてもこの砂漠を早朝から歩き始めて六時間が経った今現在では途中で拾った木の枝を杖にしながらヨタヨタと歩くのがやっとな状態になっていた。


「カトレアはそろそろ限界か? 本当は休憩とか入れてやりたいんだが、休めそうな場所なんてないんだよな」


 アレンはそう呟くと共に視線を巡らせてみるも、アレンの言葉通り見渡す限りの灼熱の砂漠が広がっているだけで……休めそうな場所は一切なかった。


「ここは暑い中でも一度長い休みを入れた方がいいか? しかし、こんな暑い中では休めんなぁ……どうしたものか」


 カトレアが追いついてくるのを待つ間、アレンは顎先に手を当ててブツブツと呟きながら考えを巡らせ始める。


「コニーの言った通りだったなぁ。休める岩場すらないのは……やはり辛いな。どうしたものか……辛いなぁ。辛いなぁ……さすがの俺も辛いなぁ」


 その時、アレンの額にあった汗が頬を流れ、顎先からポタリと地面に落ちて……地面を濡らした。


 自分の汗でぬれた地面へと視線を向ける。


「む……無いのなら……無いならば……作ってしまえばいいじゃない。休める場所を」


 アレンはニヤリと笑みを浮かべるのだった。






 数分後、アレンは空に居た。


 アレンの体勢は空中で横になるようになった。そして、赤を真後ろへと構えると言う独特な剣の構えを見せる。


 アレンはカッと目を見開き、口を開く。


「【神震】……」


 アレンは【神震】と呟いた時、刀身は姿が消えた。


 それと同時に、ヒュッと警笛のような甲高い音が辺りに鳴り響く。


 消えたアレンの赤の刀身は、一瞬の時の後にまっすぐに地面へと突き立てられていた。


 次の瞬間だった。


 砂漠の砂が柔らかいゼリーを別つがごとくスーッと深い切れ込みが入っていく。


「さぁーて、もう一回」


 アレンは赤を構え直した。


 それから、アレンの剣による穴掘りはしばらく続くのであった。






 一時間後。


 戸惑いの表情を浮かべたカトレアはアレンの掘っていた穴を覗き込んだ。すると、十メートルほど深く掘られた穴の底にアレンは佇んでいた。


 アレンを見つけたカトレアはアレンへと声を掛ける。


「アレン? 何をやっているのですか?」


「名案が浮かんだ」


 アレンはカトレアへと視線を向けた。アレンの言葉を聞いたカトレアは首を傾げる。


「名案?」


「あぁ、休める場所がないのなら作ればよかったんだ。降りて来いよ」


「お、降りてですか?」


「悪い。悪い。今、ロープを渡してやる」


 カトレアはアレンにロープを渡してもらって穴の底に降りる。すると、カトレアの目の前には大きな横穴が一メートルほど掘られていた。


 アレンが横穴へとスタスタと歩いていくと、座った。


「この横穴、涼しくてな。これなら休めるだろ?」


「まさか」


「そう、こうやって休むことできる拠点を作っていけば……砂漠でも移動はそこまで苦にならんかも知れん」


「なるほど……しかしこれってそんな簡単に作れるものですか?」


「んーまぁ、疲れるが……暑くない場所で休めるのは大きいだろう?」


「……そうですね。この砂漠を舐めていたつもりはありませんが……ここまでの道中も辛かったですね。正直、雪道以上に感じました」


「俺も辛い。てか、今日がなんか特別に暑い?」


「ですよね? 私もそう思っていたんですよ」


「こんな日が続いたら……昼間の行動とか考えられないな」


「昼夜逆転させて行動しますか?」


「そうだな。夜は寒く、暗さで視界が狭まって危険が増すけど……この灼熱の中を歩く方が危険と言う考えもできるからな」


「私としては夜に行動した方が……寒いのには慣れていますし。アレンほどではありませんが私も周囲の気配を探ることはできますので」


「そうしようか。じゃ……今日は休むか。旅は体が資本……無理はよくないなふぁふぁ」


「そうですね」


 アレンは軽く欠伸をすると壁にもたれるようにして座り直した。それに習うようにカトレアも胴回りの装備を外して座り込んだ


 話は変わるが……アレンが気まぐれで作ったこの休憩所は後の世で作られるライフロードと呼ばれる街道が礎となり。


 その街道よりちょうどアレン達が暮らしていた切り取られた土地を中心に巨大国家が作られることになるのだが……それはまた別の話である

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