第247話 決勝戦。
◆
セーゼル武闘会の二日目。
セーゼル武闘会が開催されている円形闘技場。
円形闘技場の関係者専用観戦室。
バッ!
アレンは突然立ち上がった。そして、あさっての方角に視線を向けた。
アレンと一緒に居たノヴァが肉を食べるのをやめて、怪訝な表情を浮かべる。
「む? 突然立ち上がってどうしたのじゃ?」
「いや……殺気が流れてきたような?」
「……そうか? 儂は気付かなかったが?」
「遠く過ぎて位置すらわからん……」
「ほぉ、アレンの気配読みで……特定できんのか」
「あぁ。しかし……ここまで流れてくる殺気を放てる者は世界に何人いるのか? ルバートか? いや、ルバートの殺気とは違うよな」
「まぁ、考えてもわからんことは今考えたところで仕方ないじゃろうて……それよりもこれから始まるセーゼル武闘会の決勝を見るのではないか?」
「あぁ、確かに……そうか。そうだな……殺気の流れてきた方角くらいしかわからんもんな」
納得したように頷いたアレンは……観覧席に座って円形闘技場の中央の舞台へと視線を向けた。
拡張機のような魔導具を持ったメント・ファン・ビルロット男爵が観覧席の一つから円形闘技場に全体へ響くほどの声を上げる。
「今から始まりますは、セーゼル武闘会の最後を締めくくる決勝戦! 対戦する者の紹介しよう。驚異的な身体能力で相手を圧倒し……本大会の本命と思われていた守護神の孫であるイグニス殿をも激闘の末に倒してしまったハンバーク公国の姫君ナミリア・ベル・ハンバーク様!」
メント男爵の紹介と共にナミリアがオレンジ色の髪を靡かせながら舞台に立った。
それと同時に、円形闘技場がかすかに揺れるほどの歓声が上がった。
「類まれなる剣の才で相手を圧倒し……こちらも本大会の本命と思われていた冒険者ロビンとこれまた実力者であった獣人ぺザロをも激闘の末に倒してしまったベラールド王国の王子ラーベルク・フォン・ベラールド様!」
ナミリアが現れたのとは反対側から姿を現したラーベルクが『リナリー! しっかり見ていてくれよぉ! 俺の戦う様を!』と叫び……どこかに手を振りながら舞台に立った。
ラーベルクの登場でさらに歓声が大きくなった。
「このセーゼル武闘会はどうなっているのでしょう! この決勝戦、両名ともに国を治めている王の一族と言う本来ならありえないと思われる結果! さらに戦いには一切の忖度はなし! それは激闘を観戦していた私達が証人である! なんなんでしょう! 最近の王族様達と言うのは自身でも戦えないとだめなのでしょうか!?」
メント男爵は観客に歓声と笑いを誘った。
観戦席から舞台の様子を眺めていたアレンも小さく笑った。
「ふ、確かに……俺もまさか王族の二人が決勝まで勝ち上がってくるとは思っていなかったわ」
「うむ? なぜ王族だとダメなんじゃ?」
アレンのそばにいるノヴァは首を傾げた。
「いや、ダメという訳じゃないが。ふつうは王族と言うのは守られる存在で……一流の武闘家ほどに鍛錬を積むことなんてありえないし。そもそも周りが許さんよ」
「む? よくわからんの? 王……つまり長ならば一番強くあらねばならぬのではないか? 吾輩の親父殿のように?」
「確かに獣達の世界ではそうかも知れないが……人間の世界ではそれはない。あの二人、特に王子様は何やらうるさく暑苦しいが……王族にはもったいないくらい武の才能があったのかもな」
「人間の世界か……確かに強者であるアレンが王になってない時点でそうであったな」
「何を……馬鹿なことを」
アレンはため息交じりに首を横に振った。
「そんなことよりも吾輩の肉がいつの間にか無くなったぞ」
「消えたみたいにいうなよ? お前の胃袋の中にちゃんと入っているから」
「うむ、そうか? 外からいい匂いがしとる。何か買ってくれぬか?」
「いや、今から決勝戦が始まるんだが? 外の出店で買い物をしている時間はないな。それに、外の出店には一度挑戦してみたが……人がいっぱい居て、やっぱり気持ち悪くなってダメだった」
「はぁー親父殿が認めた者が情けないのぉ」
「うるさい。ほら、決勝戦が始まるみたいだぞ?」
アレンが円形闘技場の舞台へ指さすと、出場者の顔見せが終わって……戦いが始まるところであった。
円形闘技場の舞台上では、審判をしていたリンを挟んでナミリアとラーベルクが向き合っていた。
ラーベルクは刃のついていない剣を構え。
ナミリアはこちらも刃のついていない武器……防具の小手にかぎ爪がついたハンバーク公国では一般的な『小手爪』と呼ばれている武器を持参していて……その爪を両手に装備して構えている。
「それでは……決勝戦初めてください!」
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