第241話 守護神。
「化け物とはすごい言われようだ。まぁいい……厄介な【剣隠】を使われる前に俺の番といこう」
アレンは八本の短剣を取り出すや、素早く一斉に投擲した。投擲された短剣はバラバラな方向へ飛んでいく。
実際にルバートへ向かっていったのは四本であった。その四本ともがルバートを目前にして方向をルバートの胴体へ向けて方向を変えた。
ただ、意表を突かれなければルバートにとっては対処可能な速度であった。
実際に目の前に迫る短剣を斬り飛ばそうとした。
ルバートが剣を振り抜こうとした時、ルバートの周囲で一斉にカンっと甲高い音が響いたのだ。
ルバートは瞬間的に視線を巡らせると、アレンが先ほど投擲し、外したと思われた短剣が……すでに地面や木の幹に突き刺さっていた短剣やブーメランにぶつかって方向を変えていた。
そして、その方向を変えた短剣はすべてがほぼ全方位からルバートへ向かったのだ。
「く……」
「まだまだ一斉放射だ」
アレンはさらに追加で、バックに入っていた短剣とブーメランを使い切る勢いでルバートへ連続して投擲した。
最初の方は何とか剣で弾いていたルバートであったが、緩急も織り交ぜられた攻撃に致命傷ではないものの小さな傷を多く負った。
ただ……。
「蛛幻が尽きてしまった」
アレンの言葉通り腰に巻いていたバックは空っぽになり……残っているのは持っている短剣のみとなりアレンの攻撃が止む。
アレンは不満げな表情で続ける。
「んーだいぶ練習しているつもりだが……お前やホーテクラスには通用しないか。なんか遠くからチマチマ攻撃する感じで決定打に欠ける。うむ、何か考えないとな。躱すことが不可能なほどに多面的な攻撃を……魔法の活用も検討しておくか……っと今は蛛幻の改良案は後で考えるとして……さて、まだやるか? まだやるなら剣を抜くが?」
アレンの問いかけに、ルバートは黙って視線を周囲へ巡らせる。
「……遠くからこちらに向かって来る気配がいくつかある」
「そうだな。お前、三日後の夜は大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「……リンベルクの街にある銀老亭と言う飲み屋を知っているか?」
「分かる」
「じゃ、三日後の夜に銀老亭で話をするか」
「分かった……俺は行く」
ルバートは後方へ大きく飛び、ブレインの森の中へと入っていく……気配を消え、姿が見えなくなった。
ルバートを見送ったアレンは顎先に手を置いて難しい表情を浮かべた。
「うむ、【剣隠】を攻略できなかったのが残念だな。前に見た時は特殊な歩法術による分身だと思っていたが……他にあるな。どんなのか分からんが魔法が使われている気配もある。んーいまいちよく分からない技だ。どうやって分身を出したんだ? さらに、俺の視界の外から突然現れた? 鏡を発生させる魔法とかがあるのか? どうやって? 水に光を反射させたり? ただ気になるのは最後……蛛幻の攻撃を躱すのになぜ【剣隠】を使わなかった? 使えなかった? 【剣隠】を使うには一定の条件が居るのか? もしくはポンポンと使用することができない?」
アレンが考え巡らせながらブツブツと呟いていると、ブレインの森の草むらを抜けて鎧を身に付けた男性が顔を出した。
その鎧を身に付けた男性には見覚えがあったのかアレンは特に警戒することはなかった。
「アレンさ……君だったのですね」
「ん? ファルコさんか……どうした?」
鎧を身に付けた男性……ファルコは辺りに残る戦闘痕を見回しながらアレンの前にまでやって来た。
「いえ、アレン君一人ですか?」
「さっきまで一人居たな……厄介なのが二人いるなぁ」
アレンはブレインの森へと視線巡らせた。そして、小さく笑みを浮かべて言葉を続ける。
「一人は俺をいつも追いかけている尾行者君か。そして、もう一人は気配消しが甘いな……少し漏れているこの気配はさっき見かけた守護神グラース将軍殿か」
「……いやはや、まだ甘いかったかのう? さすがはアレン殿だな」
ブレインの森から白い髪を短髪にした老人……グラースが姿を現し、アレンに近づいていく。
「俺とどこかであったことが?」
「仕方ない。アレン殿はほとんど外見を変えないが……私は随分歳を食っていたから」
「歳か……むぅーあ? あぁーあぁー」
しばらくグラースを顔をじっと見ながら首を傾げて考えを巡らせていたアレンであったが、何かに気付いたのかポンと手を叩いて続ける。
「アンタは……だいぶ昔、師匠にどこか軍事練習に連れて行かれた先で見かけた強そうだったオッサンかぁ? ……気付けんよ。歳食って……髪も真っ白」
「思い出してもらって、よかった」
「いや、失礼しました。グラース将軍殿」
「アレン殿……列国より白鬼と恐れられる貴方ほどの方に敬語を使われるのは背中が痒くなるので、やめてほしい」
「そうか、分かった。強いと思っていたけど……あのグラース殿が守護神と呼ばれるようになっていたとは思わなかったな」
「その二つ名はあまり好きじゃないが」
「ハハ……それは誰でも同じだな。それで? 何か用があったんじゃないか?」
「ふむ、この辺りから強き者の殺気の気配が……円形闘技場まで流れてきたんだが。アレはアレン殿のモノだったのか?」
「あぁ、殺気な。アレは俺のじゃなくルバート君のモノだよ」
「……ルバート君?」
「剣隠の」
アレンが口にした剣隠のルバートの名を聞いた、その場に居た者達はファルコ、グラース、陰で隠れていた尾行者すらも反応を示す。
「なっ!」
「なんと……」
「……っ」
グラースは一瞬視線を下げて、口を開く。
「バルべス帝国最強がここに?」
「うん、そんな驚くことか? クリスト王国は自然の障壁によって守られ国土が守りやすい反面。関所を通らずに自然の障壁……険しい道を通って一度入れてしまえば緩い。獣人の暗部とかが入り込めるくらいに緩い」
「なるほどの」
「ふ、死にかけたよ。だいぶ強くなっていた」
「死にかけた割に無傷だが……戦ったのだな」
「俺としては少し話しをしたかったんだが……逃げられてしまった」
「我々が近づいてきたのを気取られたのか」
「そう言うことだ。ちょっとお前らが早かった……っとそろそろ円形闘技場へ戻らなくては試合が始まってしまう」
「そうだな。アレン殿一つ……後で話の場を設けてはくれないかな?」
「ん? いいけど。そうだな……今日のセーゼル武闘会が終わった後で、グラース殿が宿泊している迎賓館行くから……そこで話すか」
「よろしく頼む。では、闘技場にそろそろ戻らねば」
アレン達は雑談を交えながら、セーゼル武闘会が行われている円形闘技場へ戻っていった。
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