第223話 一年五カ月。
アレンが国外追放せれて一年と五ケ月。
クリスト王国の短い夏が終わって秋に入り、山々が色鮮やかに高揚していた。
クリスト王国の王都リンベルクの大通りを行き交う人々も長袖を着ていた。
そんな中、アレンが一人で歩いて一見の店の前で立ち止まった。
店は今アレンが背負っている盾を作ってもらった武器屋であり、近頃数日に渡りアレンはその武器屋を訪れていた。
アレンの背後には相変わらず獣人による尾行の姿がチラチラと見え隠れするが、アレンは気にする様子もなく武器屋の中に入って行く。
「おっさん」
「ん……ん……」
「おっさん」
「ん……ん……んお?」
カウンターの奥の椅子に座ってコクリコクリと居眠りしていた武器屋の亭主にアレンが声を掛けると、目を擦りながら目を覚ます。
「おっさん、居眠りか? 奥さんに怒られるぞ?」
「あぁ、アレンか……誰かさんが依頼してきた面倒な武器を夜なべして超特急で仕上げさせられたからなぁ。ねみぃーんだって」
「ハハ、誰だろうね。そいつは……まぁ、それで注文していた面倒な武器とやらは出来たのか?」
「できたてるぜ。ただ、一個一個……面倒な加工に加えて、素材の指定やらいろいろと注文を付けてきたから予想よりも金が掛かっちまった」
「それは仕方ないね。いくらになったんだ?」
「小ナイフを三十本、小型のブーメランが十本、それから丈夫なロープ三本と鞄を付けて……前金で金貨五枚もらったから……あとは金貨十二枚ってところだな」
「確かになかなか……するね」
「あぁ、そうだな。これが現物なんだが……よっこいしょ」
座っていた椅子から立ち上がった武器屋の亭主がウエストに巻くタイプの鞄を二つ、カウンターの上に置いた。
鞄がカウンターに置かれると、すごく重いのかギシッと揺れた。
鞄の中にはすでに小ナイフと小型のブーメラン、ロープが綺麗に並べられて仕舞われていた。
始めに小ナイフはトランプのスペードを長細くしたような形で、刃のついた先端から持ち手までの長さが八センチ、厚み二センチほどの大きさ。
持ち手のところには一から三十まで数字が小さく彫り込まれているのと三センチほどの丸い穴が開いる。
次いで、小型のブーメランは九十度に曲げられたような形をしていて端から端までの長さが八センチ、厚み一センチほどの大きさ。内側にも外側にも刃が付いていて鋭く……普通にナイフとしても使えそうであった。
トランプのスペードを長細くしたような形の小ナイフに比べて白っぽくもしかしたら別の金属が使われているようだった。
アレンは鞄に仕舞われていた武器を手に取って、確める。
「うん……急がせちゃったけど。なかなか良い出来じゃん」
「だろ? 頑張ったんだぜ? だから金の方もちゃんと頼むぜ? もちろん分割でもいいから……払って貰えねーと、この店潰れちまうかも知れねぇ」
「ハハ、金は大丈夫だよ。最近、冒険者活動をちゃんとやってるからなぁ」
持っていた小ナイフを鞄に仕舞い直したアレンは懐から巾着袋を取り出す。そして、巾着袋から金貨十二枚を手に取って武器屋の亭主に渡した。
「お、丁度だな。そういやーまた噂になっていたぜ? お前さんとこの冒険者パーティー……銀翼と言ったか?」
「ん? そう? けど、噂ってどうせ草刈りとかでいっぱい稼いでいるとかだろ?」
「まぁ、確かに草刈りで稼いでいるともよく聞くが……強い魔物をどんどんと狩っているみてーじゃねか?」
「あぁ、なんだか知らんが……冒険者に復帰したリナリーが相当に頑張っているからなぁ」
「ん? 前に一緒に連れてきた嬢ちゃんか?」
「んー? たぶん、そうだな。最近だと……狩り過ぎて魔物の肉をたまに安く買いたたかれている時があるから……そんなに頑張らなくてもいいと思うんだけどなぁ」
「ガハハ、じゃあ俺はその嬢ちゃんに感謝しなくちゃな」
「ん? なんでだ?」
「戦後食料が高騰して極貧だった食卓に……最近少し肉が乗るようになったのはその嬢ちゃんが魔物をいっぱい狩ってきてくれるようになったおかげだからじゃねーか?」
「ハハ、どうーだろね? そこまで考えての行動かな? 単純にストレス解消のために……って感じに見えなくもないからね」
「ガハハハ」
「笑いごとじゃなく……付き合わされる俺も大変なんだが」
「ガハハハハ」
「はぁ……さてと、この鞄はこうやって腰に巻くのか?」
「おう、重くなっちまったが……アレンなら持てるか」
アレンはカウンターの上に置かれていた鞄のベルトを腰に巻いて、二つある鞄を左右に分けて背負った。
「ちょっと重いかな? ズボン落ちそう。ズボンも新しく買った方が良いかなぁ……重さに関しては大丈夫か……最近運動不足だから筋トレになっていいかな」
アレンは屈伸したり、足を高く上げてみたりと、動作確認していく。そのアレンの様子を目にした武器屋の亭主は呆気にとられた表情を浮かべて笑う。
「ガハハ……本当に呆れるくらいの怪力だな。見た目に反して……そういやぁーお前はアレに出るのか?」
「アレ?」
「セーゼル武闘会だよ。前前から噂されていて、王宮より正式開催が発表されたじゃねぇーか」
「あぁ……最近はその話ばかりだな」
アレンは苦笑を浮かべて、頬をポリポリと掻いた。
アレンの言葉通り最近街中やギルド内で聞く話はそのセーゼル武闘会の話で持ち切り、ことあるごとに話を振らせていた。
「いやいや、テンション低いな。楽しみじゃねーのか?」
「楽しみだけどね。一応出るし」
「おぉ、そうか。そうか。じゃあ、お前に賭けていれば儲けられそうだな」
「いや、俺は冷やかしだ。適当なところで負けるつもりだ」
「なんだ? そうなのか? つまんねーなぁ」
「ふふ、悪いね。……さて、武器も受け取ったし、そろそろ帰るかな」
「おう、また頼むな」
武器屋の亭主に見送られながら、アレンは武器屋を後にしたのだった。
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