第220話 カチンッ。

 カチンッ。


 アレンがのんきに歩いていると、床が少し沈んで金属音が辺りに響いた。アレンは首を傾げて、足元に視線を向ける。


「ん?」


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 床が沈んで金属音がした後、アレン達の背後から地鳴りのような音が響き出した。


「「「「んん?」」」」


 アレン達は一様に地鳴りのする方へと振り向き視線を向けた。


 アレン達の後方から……大量の水が波をたてて津波となって押し寄せてきていた。その様子を目にしたアレンが声を上げた。


「おいおい……これはヤバいんじゃないか!? 地下で水攻めはさすがに卑怯だろ!」


「だから、言ったじゃない!」


 最後尾をついて来ていたライラがアレンの横を走り抜け、我先にと逃げていく。アレンが呼び止めるようにライラへ声を掛ける。


「おい、ライラのシールドで何とかならないのか?」


「……防ぎきれるかわからないでしょう!」


「っ! 逃げ……立ち止まってないで逃げるぞ! ローラ! ルシャナ!」


 アレンが顔を青くしていたローラとルシャナに声を掛けた。すると彼女達は我に返って頷き、走り出す。


「は、はい!」


「こんな……っ」


 アレンも彼女達の最後尾について走る。そして、前を走っていたローラに声を掛ける。


「ローラ、限界が来たら早く言えよ。背負うからな」


「それでは……」


「非常事態だ。仕方ない」


「す、すみません。その時はよろしくお願いします」


「……ちょっと津波の速度を遅くしてみるか……っ【神斬】」


 アレンは反転して……立ち止まって青い剣を構える。そして、閃光のような速度の剣速で剣を振り抜き、迫り来る津波を切り裂き吹き飛ばした。


 津波を押し返して、津波の速度を遅くしたアレンは再び反転して……ローラ達を追いかけて走った。


 その時、先頭を走っているライラから声が上がった。


「ちょっとアレン!」


「なんだ? どうした?」


「走っていると地面が沈んでカチカチって……うわ! 槍が降ってきた」


「ッ!」


 ライラの言葉通りに頭上から、槍が降ってきた。


 ライラの言葉よりも先に槍へ反応していたアレンは青い剣を軽くジャンプして、ヒュンっと風を切る音を響かせながら剣を振るった。


 すると、刃の形に圧縮された空気が鋭い斬撃となってアレン達の頭を通り過ぎて降り注ごうとした槍を両断した。


「ライラ……上……いや左側に【シールド】」


 アレン達が走る中で、アレンの言葉と同時に通路の両側から鋭い槍が打ち出された。


 ライラはアレンの指示通りに左側に【シールド】を展開して槍を防ぎ、右側から打ち出された槍はアレンが剣を振るって斬撃を発生させて吹き飛ばした。


 それから、後方から迫る津波……上下左右から降り注ぐ槍を防ぎながら、アレン達は迷路のように入り組んだ通路をただがむしゃらに走り抜けた。




 罠を踏み抜いたアレン達は大きな扉の前にまで辿り着いていた。そこにたどり着くと、津波も収まって、槍の雨も止んでいた。


「……はぁはぁ」


「はぁはぁ……疲れたわ」


 苦悶の表情を浮かべたルシャナとライラが息も絶え絶えにしながら座り込んでいた。


 彼女達の後ろでは、アレンが周囲に危険がないことを確認するとローラをその場に降ろす。


「ふぅ……よっと、降りれるか? ローラ」


「あ、ありがとうございます。アレン様」


 ローラは恥ずかしそうに嬉しそうな残念そうな表情を浮かべて、抱っこしてくれていたアレンから降りた。


「……しかし、ハードなダンジョンだな」


「アレン様が居なかったらと思うと恐ろしいです」


「ふ、そうだろう。そうだろう。……もしホランド達に任せていたら……危うかったか」


「そうですね……ホランドさん達も強くなっていますが、最悪死んでいたでしょうね」


「どうやって屋敷に戻るのかっていう問題はあるものの……とりあえず、安全地帯まで辿り着けた。ここから進むよりもとりあえず……休憩するかな」


「あ、はい。お弁当を出しますね」


 アレンの言葉に頷いたローラは持っていた鞄から弁当と思われる箱をいくつかを取り出していった。

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