第221話 ロード帝国。

 ローラが準備してくれていた弁当を食べながらアレン達は休憩に入っていると、疲れ切った表情でライラが弁当のサンドイッチを食べながら呟く。


「はぁ……疲れたわぁ」


「ライラも、なかなか動けるな。普通に戦士としても戦えるんじゃないか?」


「戦士って……そもそも戦う方には興味ないわよ。私は歌い手になるためにわざわざ村から出てきたのに……戦いは見るだけで充分よ」


「……もしかして、ライラは村の外に出て行くのをだいぶ反対されていたんじゃ?」


「そりゃ大変だったわね。しかし、私の夢は誰にも阻めないわよ」


「ライラらしいな」


 アレンは小さく笑うと、食べていたサンドイッチを口の中に放り込んで、水の入った木のコップに手を伸ばした。


 そこでローラの食事が止っていることに気付く。


「どうしたんだ?」


「いえ、屋敷にあったあの紋章が……ここにも」


「あぁ、バルべス帝国のヤツな」


 ローラが指さした先には、屋敷の出入り口などに刻まれた紋章があった。その紋章を目にするとアレンは頷き答えた。


 ただ、そこでアレンとローラの会話を聞いていたライラが口を挟む。


「あの紋章はバルべス帝国のモノじゃないわよ?」


「え? バルべス帝国の紋章じゃないのか?」


「違うわ。アレはロード帝国の紋章よ。間違いないわ」


「ロード帝国……確か、昔……巨大な国家を築いていたと言う?」


「ええ、ロード帝国の崩壊後に王族が流れて出来上がったのがバルべス帝国と言う訳。だから、ロード帝国とバルべス帝国の紋章が似て見えるのよね?」


 ライラが黙って話を聞いていたルシャナへと話を振った。


「え、えっと……」


 ライラはバルべス帝国の元第二皇子であるルシャナも当然知っているだろうと話を振ったのだが……当のルシャナは視線を逸らして言葉を濁した。


 そのルシャナの様子を目にしたライラは信じられないと言った様子で更に口を開く。


「まさか、気付いていなかったの?」


「バルべス帝国の祖がロード帝国の王族であることは知っているのだけど……紋章の違いまでは」


「そうなの? バルべス帝国にはロード帝国の文献の一つも残っていないの?」


「勉強不足の可能性もあるけど。……少なくとも歴史教師からは習わなかった」


「そう……もしかしてロード帝国を崩壊させたことを暗になかったことにしたかったのかしら? まぁ、今はそんなことどうでもいいわね……ちなみにロード帝国とバルべス帝国との紋章の違いは真ん中にある鳥の足の本数が違うのよ」


「足?」


「ん?」


 ライラに違いの場所を教えてもらっても、アレンとローラはピンと来ていない様子で紋章を見ながら首を傾げた。


 そこで、ルシャナがどう異なっているのか先に気付いて答える。


「あ……二本。バルべス帝国の紋章の真ん中に居る不死鳥は三本足だった」


「なるほど……本当に違う紋章のようだな。つまり……ここは過去に崩壊したロード帝国の遺跡だったと言う訳か」


 口元に手を置いたアレンが紋章をもう一度見て、次いで地下通路を見回して呟いた。


「そうよ」


「ロード帝国……高度な魔法技術があったと聞くが。ライラの一族にはロード帝国についてどこまで伝わっているんだ?」


「……ロード帝国の文献はいくつか残っているわ。けど、ロード帝国のことを村の外で詳しく話すことは固く禁じられているわ」


「いや、今さっきロード帝国の紋章について話していたじゃないか?」


「それは……紋章くらい……当然ルシャナも知っていると思ったのよ」


「そうか。まぁ言えんなら仕方ないな。しかしそのロード帝国はこんな魔物領域に屋敷と迷宮を作ったんだろうな」


「……それはわからないわ。さすがに私の一族でもロード帝国のしてきたことがすべて文献として残っている訳じゃ……けど、ロード帝国は各地に多くの地下遺跡を残していることは知られている。その中の一つじゃない?」


「サンチェスト王国内にもいくつかあったが……。まぁ、ここで考えても分からないか」


「そうね。この屋敷は謎が多いわ。私の読めない本を含めて……私が歌うことをしばらく休むくらいには興味深い」


「ライラが屋敷にずっと居るのには何か理由があるとは思っていたが」


「駄目だった?」


「いや、俺は気にしない。ないと思うが、もし本当の持ち主……正当な後継者的な奴らが帰ってきた時に困るから……持ち出しは禁止しとくか」


「そう……ね。村の連中に見せたら何か分かることもあると思うけど、仕方ないわね」


 納得したように頷いて、サンドイッチを手に取って、千切って口の中へと放り込んだ。


 それから、アレン達は昼食を進めていくのだった。

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