第218話 弓矢。

 三葉亭での食事を終えたアレン、リナリーはスービアと別れ、ペンネと合流して……アレンとリナリー、ペンネの三人でフーシ村近くの空き地へと訪れていた。


 アレンとリナリーの目の前ではペンネ、そしてフーシ村の子達が大きな丸太に付けられた的に向かって弓で矢を射っている。


 食後にアレンがペンネ、そしてフーシ村の子供に弓を教えに行くと聞いていて付いて来たリナリーが感心した様子で矢を射る練習風景を眺めていた。


「へぇ、みんなはなかなか上手いじゃない。離れたところからちゃんと的に命中させているわ」


「なかなかだろ?」


「アレンが弓を教えているって本当だったのね」


「まぁ、教えているって言うよりか、遊びなんだけどな。的当てゲーム」


「遊びね。確かに楽しそうね……優秀な弓兵は厄介だものね。戦争で矢がどれだけ邪魔くさかったか、優秀な盾兵が居なかったら私はおそらく……魔法とほぼ同等の狙撃距離を持っていて……確かに威力は劣っているもののマナが枯渇する心配ないもの」


 リナリーは言葉の後半はブツブツと小声で呟き、考えを巡らせているようだった。


「ん? どうしたんだ?」


「あ。ご、ごめん。ごめん。なんでも。なんでもないわ」


「そうか? まぁ。遊びをどのように使うかは、本人次第だが」


 アレンとリナリーが話していると、アレンの死角から誰かがアレンに抱き付いてくる。


「アレン兄ちゃん!」


「んお?  ルーシー、どうしたんだ? 急に? 今日は、いつもより矢が乱れているようだが?」


「むぅ、それは……それよりもその女は誰なの?」


 死角から現れてアレンの右腕にしがみ付いたルーシーはキッと視線を鋭くして、リナリーを見た。


「誰も何も……冒険者パーティーを一緒に組んでいるリナリーだが」


 アレンがルーシーに視線を向けて、ルーシーの問いかけに答える。ただ、その時左側からリナリーがアレンの服の裾を摘まんで、クイクイと引っ張った。


「ねぇ。アレン、その子はなんの?」


「あ? いや、フーシ村の子供だが? もちろん、弓を教えている」


「ふ、ふーん、アレンは子供に好かれるみたいねぇ」


 アレンの服の裾を掴んだままリナリーもルーシーに向けて鋭い視線を向けた。


「しゃー」


「ふぅーん」


 ……リナリーとルーシーが威嚇し合い、視線がぶつかると、激しい火花が散ったように見えた。


 三分ほど、不穏な睨み合いが続いていた。


 アレンと仲のいい女性と言うのは、得てして女性同士だと仲が悪くなることを知っていた。


 更には、下手に言葉を紡ぐと状況が悪化してしまうことも知っていた……。


 アレンはどうしたものか考えを巡らせていたのだが……答えを出せずにいた。


 そうしていると、弓で矢を射っていたペンネが矢を何射も外した後に声を上げる。


「うわ、全然当たらないよぉ」


「ハハ、ペンネ兄ちゃんは相変わらず下手くそだなぁ~」


「アレン兄ちゃんなんて、これよりもっと遠くから狙って百発百中だったんだぜ! すごーく上手いの!」


「ペンネ兄ちゃん、下手。下手。あの的の赤いところ狙うだけじゃん」


「ここからなら簡単じゃん」


「そうそう」


 フーシ村の子供にまでも下手くそと言われているペンネを目にして、アレンは目にして苦笑する。


 ただ、この時アレンがホッと胸を撫で下ろしていたとは誰も知らないだろう。


 アレンはルーシーとリナリーの頭をポンっと優しく叩くと、ペンネの元へと向かい歩き出す。


「ハハ……どうしたよ」


「アレン、この弓……壊れているんじゃ?」


 フーシ村の子供にまでも下手くそと言われてメンタルを粉々に破壊されて少し涙目にしたペンネは弓を抱えながら、アレンに問いかけた。


「いや、どう見ても壊れていないな」


「そうかなぁ?」


「まぁ、素人が作った弓と矢だから、けっこう癖があるかも?」


「そ、そうか、そのせいだよ」


「まぁ、仮にどんなプロが作っても弓矢は多少の癖が出るモノから……その癖の所為にはできないけどな。つまりはその癖を計算に入れて矢を射るんだ」


「そうかぁー。つまりは僕が下手くそってことになる訳か……」


「まぁ……正確に言うなら下手くそで練習不足かな?」


「あぁあ、アレンは村の子供よりも鋭いことを……これでも言われた通りに練習しているんだけどなぁ」


「そ、そうか。それはなんかごめん」


「謝らないでくれよぉ」


「ハハ、悪い。悪い。まぁ、練習あるのみだな」


「そうだよねぇ」


「まぁ、さっき話した弓矢の癖の話だが……逆にその癖を利用して矢を射れるようになったら」


「ん? 癖を利用して? どういうこと?」


「いや、ただまっすぐに矢を射るだけでは障害物に邪魔されるのが常だろ?」


「ん? 何を言っているんだい? 矢がまっすぐに飛ぶんだから当たり前だろ?」


「ふふ、今のペンネはまっすぐに矢が飛ばないから的に当たらないのではないのか?」


「……え、え? 確かにそうなんだけど……ごめん。どういうこと?」


「んー弓矢に癖があって矢が曲がって飛んでいくことが分かっているのなら。それと障害物の位置を計算に入れて矢を射る。つまり、それで何をやりたいかと言うと……障害物を矢が曲がることで躱し、的を射ぬくって」


 アレンとペンネとの会話を黙ってアレンの後ろで聞いていたリナリーが割って入るように声を上げる。


「ま、待って。アレン? そんな非常識なことができる人が居るの?」


「ん? あぁ、居るんじゃないかな? えっと……昔、俺の村に立ち寄った旅人さんがそんな弓の達人がどっかの国に居るって話していたよ。ただ、誰がと言うとわからないがなぁ。ハハ……」


「そうなのね……」


「矢を曲がるように射って的に当てるのがすごいのね。なら、初めからすごく曲がるような武器になっていたらいいのにね」


 アレンとペンネ、そしてリナリーの会話を聞いていたルーシーが再びアレンの右腕に触れながら、何気なく呟いた。


 そのルーシーの呟きを耳にしたアレンは顎に手を当てて黙る。


 そして、そのルーシーの呟きに反応したのは、どこかムッとした表情のリナリーである。


「何、言っているのよ? それだと、まっすぐに矢を打ちたいときはどうするのよ? 毎回毎回障害物がある訳じゃないでしょ?」


 それから、ルーシーとリナリーの睨み合いが口喧嘩に発展してしまい、その日の弓矢の練習はそこまでとなって解散することになったのだった。


 そして、アレンは誓った。ルーシーとリナリーが鉢合わせないようにしようと。



200PV達成記念にゲリラ投稿。

私が読者の皆様に感謝を表すには小説投稿しかないと…。

読者の皆様、ありがとうございました^ ^

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