第208話 玉座を貰いに。
アルフォンスの決起の宣言後。
倉庫に集まった者達はそれぞれ王宮、軍の司令部、ホソード・ファン・ガラード侯爵の屋敷、ベロウス・ファン・バリウドス軍総司令の屋敷など要所にわかれて向かった。
「くぷふ、アル……なかなかいい演説だったじゃないか」
「ふぅーホーテ、茶化さないでくれ」
アルフォンスとホーテは緊張感の欠片もない会話をしながら部下を引き連れて王宮内を歩いていた。
ちなみにアルフォンスの根回しがすでに済ませていたようだ。
なぜなら、本来招かれざる客であるはずの武装している彼等が王宮内を堂々と歩いていても彼らの歩みを阻む者は誰一人としていなかった。
「悪い。悪い。あまりに普段の調子とは異なっていたものだからね」
「はぁ」
「なんか、王様ぽかったな」
「やれやれ、ホーテにはいつまで経っても敵わないな。しかし、君は気合入れてくれよ。もう少しで玉座の間だ」
「ふ、下調べは完璧に済んでいる。大丈夫だろう」
そんな調子で雑談に興じながらアルフォンスとホーテを先頭に、部下達は玉座の間へ向かったのだった。
そして、彼等がたどり着いた先には細かく装飾が施された大きな扉があった。
アルフォンスがその扉に手を置いて、ついて来ていた者達に視線を向ける。
「さて、行こうか」
アルフォンスはそう一言言うと、ゆっくりと扉を押した。
扉が開かれると、正面に真っ赤で大きく美しい椅子があって……その椅子には王冠を頭に乗せた中年男性が座っていた。
アルフォンス達を見るや、警戒心を露わにした金色の鎧を纏った衛兵達が中年男性の周囲を固めた。
「やあ、兄さん……いや、国王スルム・フォン・サンチェスト。久しぶりだね」
アルフォンスは王冠を頭に乗せた中年男性……国王スルムを目にすると、軽く手を振ってのんきな様子で声を掛けた。
対して、国王スルムは激高し、声を荒げる。
「きき、貴様! アルフォンス! ソイツらは何だ! ななななな何のつもりだ!」
「何のつもりも何も……言わなくても分かるだろ?」
アルフォンスは一旦言葉を切って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。そして、国王スルムの座っている椅子を指さして再び口を開く。
「その椅子……玉座を貰いに来たのさ」
「な、なななんだと! ホソードが言っていた不徳にも玉座を狙う者達と言うのは貴様だったのか! アルフォンス! 貴様には目を掛けて役職まで与えてやったと言うのにぃぃぃい!!」
「ふふ、目を掛けてやった? 違うだろ? 自分より不出来だった俺を脅威とは感じなかっただけだろ? 俺が殺されないために、わざと不出来なフリをしていたのに気付かすに」
「ぐぬぬぬ……言わせておけばぁ」
「国王様、私にお任せください。このような輩、私が蹴散らして見せましょう」
スルムの周りを囲んでいた金色の鎧を纏った衛兵の一人がスルムに話しかけた。
「おう、そ、そうか!」
「はい。国王様は安心してこの不届き者達を捕えた後、どのように処刑するかでも考えていてください」
「た、頼んだぞ! 我が最強の騎士ルバーガよ!」
「は!」
金色の鎧を纏った衛兵の一人……ルバーガがアルフォンス達の前に歩み出てくる。
対して、ホーテがアルフォンスの後ろから前に出て、ルバーガと向き合う。
「……えっと、確か君は自称サンチェスト王国ナンバーワン剣士のルバーガ・フォン・エクスード君じゃないか」
「貴様は……ホーテ・フォン・オベール」
「俺、君とは一度戦ってみたかったんだよね」
「ちっ!」
「最近、ずいぶんと重たい剣を手に入れてしまってね……この剣を使いこなす修練のためにも剣で手合わせ願いたいところなんだが良いだろうか?」
ホーテは背中に背負っていた愛槍を地面に突き刺すと、アレンから先日受け継いだ雨晴を鞘から引き抜く。
剣の修練といい槍を置いた……ホーテが槍の名手であることはサンチェスト王国の者ならば誰でも知っていることで、自分に槍を向けるに値しないと……舐められていると感じて……プライドの高いルバーガは額に血管を浮き上がらせて激高した。
「剣の修練のためだと!? 俺を舐めているのか!?」
「んーまぁーそうだな。槍だとすぐに決着つきそうだしな」
「っ!」
ルバーガは小さく舌打ちをして、持っていた剣を自身の目の前に立てて構えると言う独特な剣の構えを取った。
「ほぉ、それがエクスード家に伝わると言う剣術の構えか」
「行くぞ。【パワード】」
ルバーガはカッと目を見開くと、肉体強化魔法の【パワード】を唱えた。そして、一気に加速して剣を付き出して……強烈な突きを放った。
対するホーテはルバーガの突きを、剣で受け流しつつ横にズレて躱してみせる。そして、少し呆れた表情で呟く。
「おっと、せっかちだな」
「逃げるな!」
「おいおい、もっと冷静に戦った方が良いぞ? 俺の剣の修練にならんだろう」
「まだ言うか貴様!」
ホーテとルバーガとの戦いは激しさを増して、二人の間には剣と剣がぶつかり合う、金属音と共に火花が飛び散った。
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