第207話 こちらも動き出す。

 アレン達が談話室に地下へ行く隠し階段を見つけた丁度翌日早朝のことだった。


 ここはサンチェスト王国の王都ノースベルク。


 そして、王都ノースベルクの中央部……サンチェスト王国の国王が住まう王城近くにあった倉庫である。


 倉庫には二百人ほどの人間が集まっていた。


 そこで集まっていた人々は鎧を身に着けていたり、貴族がよく着るマントを纏っていたりと恰好から察するに身分も職種もさまざまであった。


 そして……その中にはホーテを先頭に赤い鎧を身に纏った集団もみてとれ、更に冒険者服を着て装備を整えたホランド達の姿もあった。


 緊張した面持ちのホランドがぽつりと呟く。


「これから……」


 ホランドの前にいたラーセットが後ろに目を向けて苦笑する。


「ふふ、ホランド……貴方緊張しすぎよ」


「あ……すーはーふぅーすみません」


「まぁ、緊張しないで……っていうのは難しいかしらね。そもそも、ここに集まったほとんどが緊張でガチガチだもの……どうしても緊張が移っちゃうわよねぇ」


 ラーセットの言葉通り、倉庫に集まった者達はほとんど緊張と決意を同居させた……強張った表情を浮かべていた。


 倉庫の中で一人の白いマントを纏った男性……サンチェスト王国の王弟にあたるアルフォンス・ファン・サンチェストが笑いながら前にでてきた。


「ハハハ……皆、表情が硬いねぇ。硬い」


 アルフォンスは無造作に置かれていた木箱の上に飛び乗る。


 そして、いつものヘラヘラした笑みを浮かべて集まった者達を見回す。


「まぁ、無理もないかな? けど、皆が元気そうで何よりだよ。本当なら、酒を飲み明かしたいところだよ……その時は二、三日じゃ帰さないよ?」


 アルフォンスの言葉を聞いた倉庫に集まった者達からは緊張が抜け……ふっと表情を緩めた。


 アルフォンスは倉庫内に流れていた少し強張った空気が緩まったのを感じ取って口角を少し上げた。そして、口元に手を当ててワザとらしく咳払いをする。


「おほん、冗談はさておき。いろいろ準備で忙しい時に集まってもらっちゃって……悪かったね。でも、こう言う決起集会的なヤツは必要って聞くからね」


 アルフォンスはそこでフゥーッと長く息を吐いた。


 そして、ヘラヘラした表情を引っ込めて真剣な表情を浮かべて口を開く。


「このまま行くと希望的観測で三年、絶望的観測で半年……どちらにしても短い時間で俺達が生まれ育ったサンチェスト王国はバルべス帝国によって侵攻されて跡形もなくなり、地図から消えて無くなってしまうだろう。そして、サンチェスト王国国民……俺達の家族は職を奪われ、土地を奪われ、奴隷……いや、奴隷ならまだいいか……多くは凌辱の限りを尽くされて、惨殺される」


 アルフォンスは自身の言葉を噛み占めるように苦々しい表情を浮かべてギュッと目を瞑った。


 アルフォンスの言葉を聞いた倉庫に居た者達は眉間に皺を寄せて体を震わせ……歯を食いしばった。


「これは英雄アレンを失った時にサンチェスト王国破滅の運命は決まっていたのかも知れない。俺が……サンチェスト王国を変えようとする動きはすでに遅いのかも知れない。……しかし、それでも俺は反乱と言う強引な手段を用いても、その運命から抗いたい! ここに集まってくれた時点で、もう皆に問うまでもないと思うが。言葉にしないと伝わらないこともある。改めて、言おう……力無き王弟の俺に……みんなの力を貸してくれ!」


 アルフォンスは声を張り上げた。


 倉庫に集まった者達は……決意を秘めた強い瞳で、アルフォンスの声に呼応するように声を上げる。


「「「「「「おうっ!!」」」」」」


 倉庫に集まった者達の声を聞いたアルフォンスは目を細めた。そして、頭をサッと下げて感謝の言葉を口にする。


「ッ……ありがとう!」


 ザワザワ……。


 アルフォンスが頭を下げたことに、倉庫に集まった者達は目を見開き、動揺が走った。


 それも無理もない……本来、王族が誰であろうと頭を下げるなどあってはならないことだからだ。


 その動揺を知ってか知らずか、アルフォンスはすぐに顔を上げて強く意志ある瞳で前を見据えた。そして握り拳を作って突き上げる。


「俺……いや、俺達の反乱は……」


 アルフォンスは一際大きな声を張り上げる。






「サンチェスト王国の家族を守るためのモノである!」






 倉庫に集まった者達も拳を握りアルフォンスと同様に上に突き上げて答えるのだった。

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