第206話 ゆるく動き出す。

 ホランド達がサンチェスト王国へ向かって一ヶ月が経とうしていた。


 その日、アレンとライラ、ローラの三人が屋敷の談話室で思い思いにくつろいでいた。


 アレンはロッキングチェアに腰かけて、ライラが持ってきた魔導書を読み。


 そして、ローラは紅茶を飲みながらアレンの隣のロッキングチェアに座って紅茶を飲みながら、暖炉の上にあった森で鳥や動物が戯れている彫刻を眺め。


 最後にライラはアレンの後方に置かれていた三人掛けのソファにゴロンと横になって本を読んでいる。


 アレンとライラが本をめくる音と暖炉の薪がパチパチと燃える音だけが談話室内に聞こえてくる、緩やかな時間が流れていた。


 そんな時、アレンが魔導書を読みながら何かを思い出したように口を開く。


「そう言えば、ライラって……あの魔法は使えるのか?」


「あの魔法って?」


「そっちの一族には伝わっているか? あの詠唱が無駄に長い……」


「あぁ、アレね」


 アレンが言おうとしたことを理解したのか、ライラは読んでいた本から視線を外してアレンに視線を向けた。


「それで?」


「一応使えるは」


「へぇ、すごいな。魔法ではライラには敵わないようだな。今度見せてくれよ」


「規模が大き過ぎて……どこで使っても目立つわ。環境破壊もいいところだし……私には直接的に関係ないけど、地図を書き直すも面倒でしょうし……何より一回使うだけで私の全マナを使用して、倒れてしまうから面倒よ」


「残念……一度見てみたかったんだが。しかし、あの魔法って完成すると、そんな威力の魔法になるんだ」


「アレンって、その変な指輪なければ全属性の魔法を最上位まで使えるようなことを言っていたけど……使えるんじゃないの?」


「いや、できないよ。だから見せてもらいたかったんだけど」


「そうなの?」


「なかなか難しいじゃん? それにダサい詠唱が……調子崩すんだよな」


「……そう言う問題なの? それにあの詠唱はカッコいいわ」


「えーそうか? そもそもあの無駄に長い詠唱って必要?」


「それはあの魔法を制作した人物に対する冒涜でしょう。絶対に詠唱するようにってわざわざ伝わっているんだから」


「まぁ、そうか……ってローラ何をやって?」


 いつの間にかロッキングチェアから立ち上がったローラが彫刻の前まで行き。そして、暖炉の火に気をつけなが暖炉の上にあった彫刻をペタペタと触れ始める。


「ちょっと、気になりまして……」


「? その彫刻に何か?」


「ええ、この鳥が加えている花は……」


 ローラが彫刻の一部である鳥の彫刻に触れると横にグイッと動いた。すると、ガコンという音、次いで床がグラグラと揺れ出して……何かがゴゴッと重たい物が動くような音が談話室内に響いた。


「え、え、これは……アレン様」


 突然のことにローラは驚き、アレンの隣にまで後ずさりアレンの手を握った。対してアレンは談話室内を見回す。


「お、なんだ? 談話室……全体から何か動くような音が? 自爆スイッチだったのだろうか?」


「あ、アレン様、不吉なことを言わないでくださいよ」


 ライラも本を脇に置いてソファから起き上がる。


「な、何? どうした訳?」


 しばらく……三分ほどして、床の揺れが収まったが。


 ただ、談話室の中央付近の床がぽっかりと開いて下……地下へと降りる階段が姿を現しのだ。


 ちなみに談話室の中央に置かれていた大きなローテーブルと絨毯は脇に押しのけられている。


「すげー手の込んだ仕掛けだな」


「ですね」


「何よ。これ……」


 アレンとローラ、ライラは地下に降りる階段を覗きながら茫然した様子でそれぞれ呟いた。


「でかしたぞ。ローラ」


 アレンはワシワシとローラの頭を撫でた。すると、ローラは顔を赤くして変な声を上げる。


「ひゃわ、あ、ありがとうございます」


「これは……面白そうだ」


「そ、そうですね」


「それで、どうする? 探索する?」


「それは、あの。この屋敷は本来アレン様の持ち物ですので……アレン様がお決めいただけると」


「俺のモノっていうか俺はただ見つけただけなんだが……まぁ、これをローラに任せるのも危険があるやも知れんから……明日から探索……いや明日は、冒険者の集まりがあるなぁ。明後日くらいから少しずつ探索を始めていくか」


「はい、それでいいと思います」


 ローラはアレンの考えを聞き頷き答えた。ただ、そのアレンとローラの会話を聞いていたライラが不満げな表情で口を開く。


「え? すぐに探索に入らないの?」


「いや、準備もいるし。今日は完全休養日だしな。ルシャナは土いじりに行ってしまっているが」


 アレンはスタスタとロッキングチェアのところまで歩いていき、再び座り直した。ライラはアレンを目で追いながら不満を口にする。


「えーせっかく面白そうなのに気にならないわけ?」


「面白そうなのは確かだが、別にこの先にある何かあるにしても逃げないだろう」


「むう……」


 ライラは不服そうにしながらも、先ほどまで横になっていたソファに戻って座った。


 ローラもアレンを追ってロッキングチェアに戻ろうとしたところで立ち止まった。そして、きょろきょろと視線を巡らせて口を開く。


「ところで……これってどうやって閉めたらいいのでしょうか? なんか冷たい風が」


「「……」」

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