第201話 手紙と剣。
ラーセットに連れられてホランド達が向かった先……ここは、ノースベルクの端にある何の変哲もない屋敷。その屋敷の一室。
「ホーテ、連れてきたわよぉ」
ラーセットはノックもせずに部屋の中に入って行った。
すると、部屋の奥にあったデスクで山のように積まれた書類の中で仕事をしていた長い青髪を後ろで結んでいるチャライ印象を受ける顔立ちの男性が視線を上げて答える。
「ラーセット……ノックはして欲しいね」
「あら、珍しい。ちゃんと仕事はしているみたいね」
「少し手伝ってくれてもいいんだよ?」
「書類仕事は私の性分に合わないから……難しいかもねぇ」
「そうかい。どこもかしこも人手不足で大変なんだけどねぇ」
「ふふ、そんなんで良いの? 後輩達に示しがつかないわよ?」
ラーセットが横にズレると、ホランド達が恐縮した面持ちで部屋の中に入って来る。そして、ホーテを前にして頭を下げる。
「し、失礼します」
「失礼します」
「……」
「失礼するッス」
ホーテはバッと立ち上がる。そして、ニコリと笑みを浮かべ両手を広げてホランド達に近づいていく。
「やぁやぁ、ようこそ、団長の弟子達。君達のことはそこのラーセットから事前に聞いているよ。ホランドにリン、ユリーナ、ノックス……俺はホーテ・ファン・オベールだよ。よろしく」
ホーテに名前を呼ばれてホランド達は一様に照れた様子であった。
そこで、ホーテは手を前に出してホランド達と握手を交わしていった。
握手し終えたところで、ホーテはフッと小さく笑った。そして、握手していた手をひらひらとさせながら口を開く。
「やはり団長が弟子と認めるだけの力量を持っていそうだ」
「えっと」
ホーテの言葉にホランドが首を傾げた。
「握手すれば相手の力量が大体分かるよ。団長にだいぶ鍛えられたようだ」
「ハハ……」
「ハハ」
「ふすん」
「ッスね」
ホランド達は一様に苦笑しながら、ホーテの言葉に答えていった。
「まぁ、なんにせよ。よく来てくれた」
「は、はい。こ、これがアレンさんからホーテ様へ宛てられた手紙です」
ホランドが代表して頷き答えた。ホランドはホーテを前にして緊張した面持ちながら鞄にしまってあった手紙をホーテの前に出す。
「おー、ありがとう……って立ち話もなんだしソファに座ってくつろいでくれ」
ホーテはホランドから手紙を受け取ると、ホランド達をホーテのデスクの前に置かれていた大きなソファに座るように促す。
そして、ソファに腰かけたところでラーセットに視線を向ける。
「ラーセット、悪いがメイドを呼んできてくれ。紅茶が欲しい」
「わかったわ」
ラーセットはホーテの願いを聞き入れて、部屋を出て行った。
ラーセットが部屋から出て行ったのを見送るとホーテはホランドから受け取った手紙をマジックのようにいつの間にか取り出していたナイフで封を開けて中身を検めた。
手紙の封筒の中には三枚の便箋が入っていて、その便箋には何気ない日常を書き記されていた。
便箋に書かれた内容が偶然に目に入ったノックスが目を見開き驚く。
「こちらは歩くのが困難なほどに多くの雪が降り、凍えてしまうほどに寒い。ただ、女性は肌が白く美しい……って重要なことが何も書かれていないッス。もしかして、手紙を間違えたんじゃないッスか?」
「え、そんなことは……ちゃんと手紙にはホーテ様の名前があったから」
ノックスの言葉を聞いてホランドは狼狽しながら答えた。
ただ、ホランド達のやり取りを気にすることなくホーテはアレンの手紙をペラペラとめくり読んでいく。
一分ほどしてホーテは手紙から視線を上げて、ホランド達に向ける。
「いや、間違いない。これは俺宛の手紙のようだよ」
「え……あ、はい」
ホランドがホッとした様子で答えた。その様子を目にしたホーテは首を傾げて、考える仕草を見せ……そして何かに気付き小さく笑った。
「あぁ、この手紙のことかい? 聞いてないかな? この手紙は特別な暗号が使われていて、そのまま読むと日常的な文章にしか読めないようになっているんだ」
「あ……そうです。確かにアレンさん、手紙は暗号で書いたと言っていました」
「だろ? 団長の暗号文の解読には少し時間が掛かるから……ホランド達にはこの屋敷に滞在して欲しいのだが良いだろうか?」
「それは……はい。問題ないです」
「そうか……そうだ。そうだ。俺からも君達に頼みたいことがあったんだった」
ホーテは何か思い出したように立ち上がって、デスクの後ろに並べられていたいくつかの武器。
その中から二本の剣を手に取って、戻ってきた。
ホーテが手にしていた剣を目にしたホランドが何か心当たりがあったのか声を漏らす。
「この剣はもしかして」
「あぁ、これが団長の剣……『雨晴(あまはらし)』と『赤(あか)』だ」
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