第190話 いつまでおるん?

 クリスト王国とバルべス帝国との戦争が終結して十日。


 ホランド達がサンチェスト王国へ旅に出て六日が経った。


 アレンが欠伸をしながら、国外追放されてから住んでいる屋敷の食堂に入ってきた。


「ふぁー」


「おはよう」


 食堂ではすでにライラが食事をしていて、アレンに挨拶した。アレンはムッとした表情を浮かべる。


「……おはよう」


 挨拶を返したアレンはライラの後ろを通り過ぎる。


「ライラ……いつまでこの屋敷に居るんだ?」


「え、だったここの野菜美味しいんだもの。それにお風呂とベッドが最高だわ」


「そう……」


「この屋敷には腐るほどに一室くらい埋まってもいいでしょ。それに私は役立っているのよ? 真ん中の建物にあった魔晶石に大量のマナを注いでやったんだから」


「そうですか」


 アレンがいつも座っている部屋の上座に当たる席に座ると、ライラが食べている山盛りのサラダが目に映る。


「しかし、サラダだけではやはり物足りなく成ったりしないのか?」


「ならないわ。どうしてもエルフである私の口には合わないのよね。肉や魚、乳と言うのはなんか動物臭いじゃない?」


「その動物臭いと言うのが分からないな」


「貴方も野菜だけの生活を始めたら分かるわよ? 初めてみる? ハーフエルフの貴方なら意外とそちらの方が良いかも知れないわよ?」


「絶対に遠慮しておく」


 アレンが首を横に振って答えた。すると、食事が乗った台車を押しながらローラが食堂に入ってくる。


「おはよう。ローラ」


「おはようございます。アレン様」


「朝の食事の準備ご苦労」


「気にしないでください」


 ローラがサクッと焼けたパンと焼かれた脂の乗ったスライスベーコン、サラダ、野菜スープをアレンと自身が座るテーブルの前にそれぞれ並べていった。


「まぁ、昼は俺が作るから」


「はい、楽しみにしていますね」


 アレンとローラが話していると、ライラがテーブルをバンと叩く。そして天井に向けて叫び出す。


「あまーい! 新婚か! 砂糖が口から吐いちゃいそうになるわ!」


 ただ、それももはやいつものやり取りなっているようで、ローラがアレンの隣の席に座った。そして、アレンとローラも食事を始めるのだった。


「そういや。ローラ、屋敷の捜索をしてみて何か出てきたか?」


「怪しいところはいくつかあるのですが……どうにも」


「怪しいところ?」


「アレン様も気になられていた場所に加えて三つほど見つけました」


「そうか、そんなに見つけたのか。すごいじゃん」


「へへ、そうでしょうか? しかし、どうにも中に入ったりする方法が見当たらないんですよね」


「そうだなぁ。もう壁を壊してみたりして中を確認してみるか?」


「そんな! アレン様の大切なお屋敷の壁を壊すなど!」


「そうか……まぁ気長にやってくれ」


「はい。そうします」


 アレンとローラが雑談しながら食事を進めていた。


 黙々と食事していたライラはスライスされて焼かれたゴルシイモをフォークに突き刺した。そして、少し曇った表情を浮かべて口を開く。


「貴方が作ったゴルシイモは美味しいわね」


「ん? あぁ……リンベルクの街ではバカ高く売れるんだから味わって食べるんだな」


「いい商売してるわね」


「だろ? 国王様と会食した時に出てきてはさすがにびっくりしたが」


「そうなの? それは凄いわね。けど……」


 ライラはムッとした表情で、フォークに突き刺したゴルシイモをむしゃむしゃと食べた。


 そのライラの様子を見たアレンは首を傾げる。


「なんだ? 何か不満でも?」


「このゴルシイモ……私達、エルフが長年育てようとしているんだけど上手く作れなかったのよね」


「へぇ、そうなんだ」


「こんな甘くならないのよ」


「んーそれは。それは。ご苦労様だな」


「むう……」


 ぶすっと不満げな表情でテーブルに肘をついて左手に顎を乗せた。そのライラの様子を目にしたアレンは苦笑を浮かべながら食事を進めるのだった。




 時を同じくして、ここはアレン達が食事している食堂の外。扉の隙間から食堂の中を窺う人影があった。

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