第189話 獣人。
アレン達がゴブリン討伐を終えた帰り道。
アレン、ペンネ、ホップの順で横一列に歩いていた。
「えへへへ、この大剣めちゃくちゃ重たいな」
ホップが背負っている大剣を重そうにしながらも、ニヤけた笑みを浮かべた。
それはまるで宝物を手にした子供のような浮かれようである。
ただ、ホップの様子を目にしたペンネが若干引き気味の表情で口を開いた。
「ホップが気持ち悪くなった」
「ぶは……」
ペンネの言葉を聞いてアレンは噴き出した。そして、少し苦笑しながら続ける。
「まぁ、いいんじゃないか? 今までホップは安っぽいナイフしか使ってこなかったんだし」
「そういうものかぁ……」
「ペンネは何か欲しい武器とかあるのか?」
「んー今使っているナイフももっとうまく使えるようになりたいんだけど……フィットに乗ったままの戦闘って考えると弓とかの投擲武器の練習をしようと思っている」
「なるほど、確かに……フィットに乗っていれば距離も取りやすい。ただ、上下に飛び跳ねて移動するフィットに乗ったまま弓を引くのは相当に難しいな」
「いや、フィットで移動しながら弓を引くなんて全く考えてなかったけど。確かにそれは良いかも……けど、やっぱり難しいよね」
「そうだ。俺の家にある練習用に作った弓矢をただでやろうか?」
「え? 本当に?」
「あぁ、構わないぞ。村の子供達とお遊びように作ったモノだが……弓自体はそこまで悪いモノではないぞ?」
「えっと……もらっていい?」
「いいぞ。じゃ、今度集まる時にでも持ってくる」
「ありがとう。けど、アレンって村の子達と弓矢で一緒に遊んだりしているんだ。なんか、意外」
「そうか? 村の子供達とはよく遊んでいる。皆、弓の飲み込みが早くて、弓矢を持って森に狩りに出掛けている子もいるんだぞ?」
「そうなんだ……それは負けてられないな」
ペンネはグッと拳を握って意気込んだ。その様子を目にしてアレンは目を細める。
「まぁ基礎は俺が軽く教えてやるよ」
「ほんと、アレンは弓も使えるの?」
「んー俺はほどほどかな? やっぱりプロには敵わない」
「えっと、比べるところがプロなんだ」
呆気にとられたように表情で呟いた。すると、今まで浮かれた表情を浮かべていたホップが話に加わってくる。
「あ、俺にも大剣の使い方を教えてくれよ」
「別にいいが……ホップはまず大剣にあった体にしないと。いくら教えても意味がない。そうだな……とりあえず、素振り三千回と大剣背負いながら街を三周走る……それを百日やってからだな」
「素振り三千回、大剣背負いながら街を三周……それを百日か」
「やれそう?」
「とりあえず、やってみるよ。サポートばかりじゃ……なかなか稼げないのは今回わかったからな」
「ハハ、そうだな……」
アレンがそう言葉にしたところで……左眉がピクンと上がった。
尾行が……居るな。
いつからだ?
なかなか気付けなかったと言うことは今回の尾行者はかなりの力量の持ち主だな。
おそらく、尾行や暗殺を生業としている……レベルだな。
気配消しがうまいな。ここまで、人間の気配をつかめなかったのは副長のラーセット以来か?
何が目的か見極めないといけない……気付いたことを悟られないようにしないと。
「どうした?」
アレンが少し黙って考えを巡らせていると、ホップがアレンに問いかけてきた。
アレンは考えをやめて、尾行者に気付いたことを気取られないように首を横に振ってホップの問いかけに答える。
「いや、なんでもない。ただ……ホップが大剣を振り回して魔物を討伐している姿がまったく想像できなくてな」
「なんだと!」
「ハハ」
アレン達は笑いながら、リンベルクの街へと帰っていくのだった。
◆
アレン達の後方の木の陰にて、アレン達の様子を伺う者が居た。
木の陰にて、アレン達の様子を伺う者……いや、気付き難いがもう一人。
木の陰には二人いた。まずはネコ目で、クールな印象を受ける女性。
ただ、その女性の顔は人間ながら、明るいオレンジに近い茶色の髪の間からは猫耳が生えている。そして、小さなおしりからは髪の毛色と同じ色の毛並のしっぽが伸び。さらに女性の両手両足は毛に覆われていて、鋭い爪が覗いていた。
そしてもう一人は武人を思わせる鋭い眼光の男性。
その男性も女性と同様に顔は人間ながら頭部からはグレーの髪の間から犬耳が生えていた。
犬のしっぽ。そして、両手両足は黒い毛に覆われていて、鋭い爪が覗く。
彼等はこの世界で言うところの獣人であった。
「それにしても、アレが……帝国が白鬼と恐れるアレン・シェパードですか? どう見ても多少腕の立つ少年にしか見えないですが。諜報員の勘違いでしょうか? だとすると、ベラールド王国から頑張って走ってきたのに骨折りに……ルガータさん?」
獣人の女性が獣人の男性……ルガータに視線を向けて消えてしまいそうな小さな声で問いかけた。
ただ、聴覚の鋭いルガータには獣人の女性の声は届いていたが、ルガータはアレンを見据えながら沈黙する。
「……」
「ルガータさん?」
「……アレン・シェパードで間違いない。これは……聞いていた以上だ。いや、俺では力量を計りきれない。マルタ、お前にはわからないのか?」
ルガータは重々しく口を開いて、獣人の女性……マルタの問いにこれまた小さな声で答えた。すると、マルタはきょとんとした表情で首を傾げる。
「え?」
「彼はわざと気配を偽っているんだ」
「え、そんな馬鹿な……まさか、【気偽(きぎ)】を……その技は我ら一族でも……いや公国でも扱える者は片手で数えられるほどしかいないはず」
「間違いない……アレは【気偽】に間違いない。しかも、ここまで高度な【気偽】は初めて見た……お前は離れていろ。下手したら気付かれる」
「そんな私の【気消(きけし)】は一族で認められて……」
「いいから。【気偽】が使えるだけで彼の実力は疑いようがない……ただ、もう少しアレンのわが国に勧誘するに値する人物なのか俺が探る」
「一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「もし、アレンが我らの国からの勧誘を断った場合は?」
「……他国にこれほどの【気偽】の使える人物が居るのは危険だ」
「そうですか」
「お前はリンベルクの街内で有益そうな情報を探っていろ。それから公国にアレンを発見した報告しろ……さて俺でも着いて行くことが出来るか……」
ルガータはマルタにそれだけ言い残すと、スッと姿を消してアレンを追いかけていったのだった。
そして、マルタはアレン達が歩いている道とは別のルートを選んでリンベルクの街へと向かった。
その後……ルガータはアレンを見失うことになる。それによりルガータとマルタはアレンの脅威を自国に報告することとなる。
◆
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