第187話 噂話。

 冒険者ギルドのカウンターへ行くと、カウンター前にできていた冒険者の列に並んでいた。その列を目にしてアレンは表情を曇らせた


「結構、朝だってのに結構並んでいるな……このくらいならまだ大丈夫か」


 冒険者の列に並んだアレンは心を落ち着かせるようにふーっと息を吐く。そして、腕を組んだ。


 すると、周りの冒険者の声が聞こえてくる。




「おいおい。昨日、三葉亭に行ったんだが。やっぱりルシャナちゃん居なかったぜ」


「うう……ルシャナちゃん。どうしちゃったんだろう?」


「ルシャナちゃんと言えば……騎士の人に話を聞かれたなぁ」


「まさか! 帝国の糞どもに攫われたんじゃ!」


「や、あの日、確かにルシャナちゃんは街に居た筈だぜ?」


「じゃ、どういうことだ?」


「その時に気になったんだけど……ルシャナちゃんの交友関係をしつこく聞いてこなかった?」


「あぁ、そういえば……」


「人探しなら交友関係を探るのは普通じゃないか?」


「それもそうか。それにしては、ずいぶん……いや、なんでもない。ルシャナちゃんが帰ってきてくれるのを願うばかりだな」




 ……そろそろバレたかな?


 ルシャナが帝国の元第二皇子であり、彼女が戦争の原因であることが。


 捕まえた捕虜あたりだろうか?


 どちらにしても停戦交渉で……バレていただろうが。


 元第二皇子を返すように……言ってくるだろうか? あの魔族が帝国にかかわりがあることは……どう動く?


 いや、正確には帝国がどう動く?


 また……クリスト王国に侵攻してくる?


 それとも、例年通りにサンチェスト王国へ侵攻してくる?


 そもそも理解できないことが……。


 あんな魔族がいるのなら、軍で攻めることなく初めから魔族が単独でルシャナを攫ってしまえば……失敗は無かったのではないか?


 いや……確か魔族は悲しみや憎しみに染まった人間を食らうのを好んだとも、死した人間の魂を食らうのを好んだとも……ムート婆ちゃんが言っていたような。


 まさか、その為だったのか?


 あんな大がかりな戦争を起こした訳か?


 いや、それはさすがに考え過ぎか?


 ここで考えていても仕方ないか。




「そういや獣人が居たぜ?」


「人間嫌いと聞いているのに珍しいな。街の中に?」


「あぁ街の中に……さっき」


「ほんとか? どんなんだった?」


「犬だった。ボロ服を着ていたがなんか強そうだった」


「へぇー強くて人間嫌いじゃないのなら……パーティーメンバーに勧誘してみるか?」


「んーもし、依頼人に他種族への偏見を持っているヤツとか居たらやりにくくない?」


「あ、結構居るな。そう言う人……」




 へぇー獣人か。


 珍しいな。


 しかし大丈夫だろうか?


 獣人達が人間嫌いなのは、奴隷として扱ったりするからだよ。


 昔、盗賊に攫われた獣人達を助けた時、最初は助けたのにも関わらず噛みつかれそうになったものである。


 まぁ、最終的は仲良くなったんだが。


 懐かしいな。


 攫われていたアイツ……アカシアは元気にしているだろうか?




「そういや……ベラールド王国とバルべス帝国との戦争が終戦したらしいぜ。軍に居る友達に聞いた」


「そうか、ベラールド王国大丈夫だったのか?」


「らしいぜ。なんでも、我が国の魔法使いが大活躍したとか?」


「そうなんだ……誇らしいが。しかし、そいつ等がベラールド王国に行ってなけりゃ。こっちにも来たバルべス帝国軍による被害も減ったかも知れないのになぁ」


「それは、そうだが。ベラールド王国へ援軍に行った人たちを責めるのは酷だろう」


「そうだな……」




 へぇーベラールド王国とバルべス帝国との戦争はベラールド王国が何とかバルべス帝国を退けたのか。


 リナリーは無事だろうか?


 確か守護神とかが居たはずだな? えーっと、名前何だったかな?


 アレンがベラールド王国の守護神の名前を思い出そうとしているとアレンの前にいた冒険者が居なくなる。


「次の人……あ、アレン君じゃない。久しぶりね」


 ベルディアがアレンに気付き呼びかけた。呼びかけられたアレンはベルディアがいるカウンターまで進み出る。


「あぁ、そうだね、ベルディアさん」


「もう、たまに来たと思ったら。挨拶だけですぐに買取カウンターへ向かってしまうんだもの」


「いや……用事もないのに。確かに俺は暇でいいけど。ベルディアさんが忙しいんじゃないの?」


「確かにそうね。優秀な冒険者パーティーが二つも活動を休止しているから……」


 ベルディアのもの言いたげな視線を受けてアレンは苦笑する。


「ハハ……まぁ、いろいろあるよね」


「そうね。草刈りの指名クエストが溜まっているから……なるべく早く活動再開して欲しいかな?」


「それはリナリーが帰ってき次第だけど。もうちょっと掛かっちゃうかも知れないかな?」


「そうなのね……じゃあ、今日はどんな要件かしら?」


「今日は銀翼の他のメンバーと狩りに出ようと思ってね」


 アレンは掲示板から取っていたゴブリンの討伐クエストが記載された紙をベルディアの前に出した。すると、ベルディアがゴブリンの討伐と言う文字を目にして、表情を曇らせる。


「ゴブリンの討伐ねぇ……アレン君がやると言うなら大丈夫かしら?」


「ん? 何か問題でもあった?」


「アレン君が聞いているか分からないけど……最近魔物が活性化していてね。もしかしたら、ギルドが想定しているよりも危険かも知れないわ。駄目だと思ったら……すぐに逃げるのよ? 決して危険は冒さないで」


「うん。大丈夫、無理はしないよ」


 ベルディアの言葉に頷いたアレンはギルドカードを取り出して、手渡した。すると、ベルディアはすぐに手続きを始めてクエストの承認してくれた。




「おーう、申請終わったぞ。アレ? ペンネは?」


 ベルディアにクエストを承認してもらい、ホップ達の元に戻る。ただ、ペンネが居なく、ホップに問いかけた。


「あぁ、アイツはフィットを連れてくるそうだから。先に行ってくれって」


「フレミン・ジャイアントラビットを連れているんだったな」


「あぁ、先に行こうか」


 アレンとホップは冒険者ギルド会館を出て、ユーステルの森へと歩き出したのだった。

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