第182話 思い出すこと。
「……む、そういえば」
アレンはふと何か思い出したように釣竿を持つ自分の右手の人差し指にはめられている指輪……バーゼルの指輪へと視線を向けた。
そういえば……何だったんだろうなぁ。
あの時はルーシーを助けたい……一心だった。
必死だったから。
あの時のことは正直よく覚えていない。
この指輪が光って……確か大精霊……エルシェル・ジル・バーゼルと言ったかオッサンの声が頭の中に響いたのだけはなんとなく覚えているが。
何だったのだろうか?
指輪から突然溢れ出た光……【奇跡の光】と言ったか。
【奇跡の光】は最早、死の寸前……いや、通常の【ヒール】すら受け付けない……もはや死んでいたと言ってもいい状態のルーシーを……さらには周りに居た瀕死の人々まで救うことかが出来た魔法名通り奇跡のような魔法。
アレが本当の指輪の力なのか?
何をトリガーで使うことができたのか?
それから【奇跡の光】を使った時にマナを消費していないように感じたが……そのマナは指輪から出てきた?
それはつまり指輪にマナが溜まっている?
もしかして、この指輪の本質は魔法を使えなくするのではなく、マナを吸収する効果があると言うこと? 俺のマナが指輪の中に蓄積している?
うむ、分からないことが多いな。
待て……俺がここで頭を悩ませても答えなどでないか。
エルシェル・ジル・バーゼルとやらがもう一度出てきて説明してくれる他にそれらの答えを知る方法がないんだよなぁ。
考えを巡らせながら釣りをしていたアレンの元にラフな格好をしたユリーナが近づいてきた。
「あ、アレンさん、いたいた」
「? ユリーナ」
「あ、釣りしてるの?」
「あぁ、うん。昨日は宴で肉をいっぱい食べたから、今日の夜は魚を食べたい気分だった」
「うんうん。食べる」
「いっぱい釣れるといいなぁ」
「ふすん、手伝う」
ユリーナは一度屋敷に戻って、自分の釣竿を持ってくるとアレンの隣に座って釣りを始めた。
「いっぱい釣る」
「今日はメイン魚なんだけど、どうやって食べたい?」
「今日、アレンさんが料理作るの?」
「あぁ昨日お前らも頑張ってくれたが。ローラもすごく頑張ってくれたからな。今日の夕食くらいは俺が作ろうかな」
「そっか、楽しみ。あ、バター焼きも普通に塩焼きも私は好き」
「美味しいよな」
「うん、両方にしよう」
「欲張りだな。まぁーそうだな」
「私、欲張りなの」
「そうだな……って、そういえば、何か話があって来たんじゃないのか」
「はっ! 忘れてた」
「忘れていたのか。それで? 何だ?」
「私、明日からアリソンさんへ手紙を出すために旅に出るんだけど……アレンさんから見て、アリソンさんはどんな人だった?」
「アリソンかぁ……一言で言ったら天才だな。十代後半で火龍魔法兵団の副長にまでなった才能は伊達ではないよ」
「アレンさんがそこまで褒めるんだ……」
ユリーナは少しムッとした様子で呟いた。
「褒めていないよ。ほんとのことだ。俺はアリソンがサンチェスト王国……いや、広大なビュリーク大陸でもトップクラスの魔法使いだと思っている。しかも、努力家で、人一倍負けず嫌いで、例え飲みの席の余興で俺やホーテに負けても……次の日は目の下に隈を作るくらいに特訓していた。俺でも苦戦する魔法使いだからな」
「……想像できない。アレンさんが魔法使い相手に苦戦している様子」
「まぁ、もちろん負けはしないが。……一番厄介なのがノーモーションから打ち出される広範囲かつ多彩な魔法だな。それから土魔法では俺でも完璧に真似が出来なかった魔法をいくつか持っていた」
「完璧に真似できない……アレンさんが使えない魔法?」
「例えば【グラウンドフィール】って言っていたかな? 広範囲の地形を知ることのできる魔法なんだが」
「地形を知る魔法? それって何の役に立つの?」
「軍を進める上で、周囲の地形が分かっていれば戦いを優位に進めることができる。それに野営を決めるのに迷わなくていい」
「なるほど」
「戦闘に関わらない魔法の引き出しも結構広いんだよ。あ……アイツと言えば禁術があったな」
「禁術?」
「あぁ、おそらく扱える人間が居ないと言う理由で廃れていた古代魔法。その魔法が記載された資料が軍事訓練の過程でダンジョンに潜っていた時に手に入ってな。その資料に書かれていた一つをアリソンが使えるようになった。アリソンが使えるようになったあの魔法は俺が知る土属性の魔法の中で最強だと思う」
「最強……どんな魔法?」
ユリーナは興味深げに身を乗り出して、アレンに問いかける。ただ、アレンは何か思い出したように、小さく笑ってユリーナの頭をポンポンと軽く叩く。
「……ふ、ユリーナにまだ扱える魔法じゃない。そのアリソンでも使うことは出来ても、うまく扱えないんだ。……だから、禁術に指定した」
「そうなの?」
「あぁ、アリソンは何度も試しては失敗していたぞ。その度に俺が助けたんだからよく覚えている。どうも、その魔法は超広範囲且つ力が強すぎる故に遠距離で操作することができず、自身も巻き込んで自滅してしまうんだ」
「そっか。でも、アレンさんが助けてくれるから大丈夫?」
「はぁ。お前……昔のアリソンみたいなことを言いやがって、毎回毎回超強力な魔法の中から助け出す俺の身にもなって欲しい」
アレンは呆れたようにため息を吐いて、少し不満気な表情を浮かべた。そして、自分が持っていた釣竿の先に視線を向けた。
「うう……そっか。わかった。また今度にする」
「全然、諦めてないな」
「じゃ、昔の……そう。アリソンさんってどういう経緯で火龍魔法兵団に入ったの? もっとアリソンさんのこと教えて」
「……まぁ、いいか。じゃ、入団のところからだな。……最初、アイツはリュック一つ持って火龍魔法兵団が野営しているところに押しかけてきて」
アレンは釣竿をゆらゆらと揺らしながら、水面に視線を向けて思い出すようにアリソンのことをユリーナに話し始めた。
◆
アレンとユリーナがそんな話をしているのと同時刻。
赤い鎧を身に纏った火龍魔法兵団の元副長であるアリソン・ボレートルが小高い丘にて馬に跨っていた。
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