第181話 旅に出る前日。
ここは修練場。
アレンが催したクリスト王国全体を巻き込んだ宴の翌日の昼前。
修練場ではアレンとホランドが一対一で向き合って模擬戦が行われていた。
この模擬戦はちょうど三カ月前くらいから不定期で行われて、他のリン、ユリーナ、ノックスはすでにアレンとの模擬戦を終えていて……疲れ果てたように座り込み、アレンとホランドの模擬戦を見守っている。
「魔法戦闘は先々を考えて戦うんだ。そうしないと致命的な遅れることになる」
アレンは木刀を振り上げて、ホランドが構えていた盾を跳ね上げた。
「ぐあ……【ウォーターミスト】」
ホランドは表情を歪ませながら、【ウォーターミスト】と魔法を唱えると前に突きだした木刀の矛先に人間の頭ほどの大きさの水の玉を出現させた。
その次の瞬間、水の玉が弾けて水蒸気となってボワーッと一気にアレンとホランドの間を包んだ。
「……上手相手に視界を潰すのは悪手だろう、いや」
視界を埋め尽くす水蒸気に戸惑うことなく、アレンは視線を巡らせた。そして、アレンから見て右側の水蒸気が不規則に揺らぐ。
それと同時に、ホランドがアレンから見て左側から表れて、木刀を振るった。
「はっ!」
ホランドの動きを読んでいたアレンはホランドの木刀を、容易に受け止めてしまう。そして、感心したように呟く。
「ほぉ、あえて悪手を取ったフリをしての水蒸気を使ったフェイクか」
「とっておきの奇策だったのに……まさか受けられるとは思いませんでした」
「ふふ、俺でなかったらやられていただろうな。しかし、俺に一刀浴びせたいのなら、気配をもっとうまく消せるようにならんと」
その後、アレンとホランドは数度木刀で打ち合うと、ホランドの木刀が弾き飛ばされる。そして、後ろに尻餅をついたホランドの首もとに木刀の矛先が突き付けられるのだった。
「はぁはぁ……負けました」
ホランドが負けを口にすると、アレンは木刀の矛先を引く。そして、木刀を振るって水蒸気を吹き飛ばしてみせる。
「面白い魔法の使い方だった」
「ありがとうございます……はぁー疲れました」
「ふふ、明日からサンチェスト王国へ行くんだから、強めにした」
「そうですか、通りで……」
「ホランド、剣術はだいぶ良くなっている。そして、魔法は面白い使い方ができるようになっているな。ただ戦いの中で、もっと戦闘の先々を考えて魔法を準備できるようになって欲しい……。まぁ、魔法を使えるようになって一年しか経っていないから難しいのは分かるが。それができるのと、魔法使いとして一段階上がれる」
「はい」
「総じて評価するなら、さっきの魔法は驚いた」
アレンはホランドの前に手を出した。
ホランドは表情を綻ばせて、アレンの手を取って立ち上がった。
「ありがとうございました」
アレンとホランドの近くにリン、ユリーナ、ノックスも集まってくる。
アレンは集まったホランドとリン、ユリーナ、ノックスに視線を巡らせて、表情を綻ばせて口を開く。
「うむ、お前ら成長したな。もう俺の弟子を名乗るのに恥ずかしくない実力がある。……明日からサンチェスト王国へ行く訳だが。そこで出会うであろうホーテとアリソンはお前らの二、三段以上は先に居る。ホーテとアリソンと出会うことで何か感じ取り、更なる成長ができると嬉しいと思うが……そこまで望むのは欲張りかな? まぁいいや。さて、明日に疲れを残さないように軽くランニングだ」
「「「「はい!」」」」
昼食後。
ここはアレン達が住み始めた屋敷の周囲の堀。
その堀には綺麗な水が流れ込んでいて、川魚も一緒に流れ込んで来ていて魚影が見え隠れしている。
アレンは一人堀のふち座って、釣竿を持って釣りに興じていた。ご機嫌な様子のアレンは鼻歌を歌いながら、足をプラプラとさせている。
「ふーん。ふーん。せーかいじゅうをぼーくらのー。なみーだでうめつくしてーつるるーるるるう、ふふんふん」
それから、三分もしない内にアレンの竿がビクン……ブルブルと震えた。アレンが竿を引き上げると黒に近い緑色の魚が一匹釣れていた。それを手慣れた手つきで針から外して、水の貯められた桶の中に入れる。
「最低でも六匹は欲しいなぁ。昨日の肉が少しは残っているんだけど……今日は魚が食べたい気分なんだよなぁ」
桶の中で泳ぐ魚に視線を向けたアレンは呟いた。
横に置いていた竿を手に持つと、針に餌を付けて再び堀の中に仕掛けを投げ入れる。
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